第三十話 入学試験②
さて、どうしたものか。試験はじめて早々王女様に目を付けられるとは。
っていうか王女様は多分入ってくるだろうから、私が入学するなら絶対に今後も会うんだよなぁ.......でも学園には来たいし...........。
説明しよう。
この国にはエスト・ヴァンデイム・エッシェンヒュルト国王陛下と、その正室。
側室が三人。
前国王陛下と前后。
国王陛下の従兄弟や叔父など陛下に子供が生まれたために既に王位継承権を失った王族たち(ちなみにこの人達はもれなく公爵位を貰うか他国に嫁がされるかしている)。
正室リルカリリア・ローリエ・エッシェンヒュルト様の王子が三人、王女が二人。第二夫人アルシアーナ・カサンドラ・アーレンカストム様の王子が一人。
第三夫人エミリオ・シューラ・スックトムハルト様の王子が三人、王女が一人。
第四夫人アンナ・マルガレーテ・カシトリル様の王女が一人。
(計七名の王子と四名の王女、合わせて十一人の王位継承権所持者となります)
とまぁ、沢山の王族が居る。
そして王位継承権の順位としては。
一位は、王太子で第一王子のシルヴァン・エスト・エッシェンヒュルト殿下三十五歳、正室の子だ。私が生まれる前に王太子妃争いで一悶着あったらしい。今は正室がメリリア様、側室が二人いるそうだ。まぁ死にでもしない限り彼が次期国王である。
二位はレインさん、二十歳だ。彼は第五王子なのだが、継承順位は二位である。
というのも、この国の王位継承順位は、まず第一夫人(正室)、第二夫人、第三.......という夫人の序列(?)により。次に男児かどうかにより。(差別とかでは無く男の方が子孫が沢山できるからである)三に生まれた順番により。これらを踏まえてつけられたものだからである。
なので二位はアルシアーナ様の息子である第二王子、エミリオ様の息子である第三、第四王子では無く、正室の息子の中で次男となるレインさんなのだ。しかしこのレインさん、ご存知の通り成人式で逃亡しているので見つからない限り継承順位は飛ばされるだろう。
三位はアルさん、第七王子で十七歳である。彼もまた私の知り合いだ。知らなかったけどあの人相当順位高いのになまけてうちの領地で服屋なんかやってるもんだから、じいやさんに怒られて当然だわ。
四位がセレスティナさん。洗礼式のドレスを売ったときに出会ってしまった、彼女である。十一人中四番目なのに、彼女は中商会で受付をやっていたりする。......この国は大丈夫なのだろうか。
ちなみにセレスティナさんは二十二歳、第一王女だ。
五位が、エステリーゼ・リルカリリア・エッシェンヒュルト様。第三王女で、私と同い年の十三歳だ。今現在貴族界ではエステリーゼ様が誰の嫁になるかで揉めている。...........のだが、エステリーゼ様は異国の王子に恋い焦がれているらしい。
六位が第二王子のフランク殿下、三十四歳で第二夫人の一人息子だ。フランクという名前の割に無愛想なことで有名で、見合い話から逃げ回っている。生まれた瞬間から三十四年間ずっと逃げ回ってきたなんて、最早称賛に値する域なのだが。
七位が第三夫人の長男、エルステ殿下。二十八歳で、第三王子である。なんでも武芸が得意だとかで、地位も相まって騎士団第三部隊の団長だとかなんとか。ちなみにこっちはモテモテで、チャラいためか逆に嫁が居ない。.......本当に大丈夫か、この国。
八位が第三夫人の次男、エディス殿下。第四王子、二十六歳だ。こっちは頭の回転が超絶早いとかで、外交に役立つこともしばしばらしい。嫁?あぁ、一応いるよ。一人だけ。うん。
九位が同母の三男、フロラン殿下。第六王子、十九歳である。双子の片割れで、もう片方が第一王女のリゼッテ様。リゼッテ様は継承順位が十位だ。この二人は継承順位も低いし別にどうでもいいやという感じで、結構のんびり生きている。フロラン殿下は侯爵令嬢ともうすぐ結婚だし、リゼッテ様は異国に嫁ぎに行くのでどちらももうすぐ王位継承権は失う。
最後に十一位の、フラヴィアーナ様。彼女は王族の中でも最年少で、第四夫人アンナ様の娘だ。今年で三歳になられる、国民の癒しである。
本来なら第四夫人の子供で継承順位も十一位なんて殆ど王族としての価値がないのだが、彼女はギリッギリ、ほんとにスレスレで全属性で、光魔術だけが飛び抜けているのだ。そのため彼女には幼い頃から聖女の称号が付き、将来は次期教皇(現在五歳)の嫁になるのだそう。まぁ王族にしては幸せな人生と言えるだろう。
しかし実際のところ執務をほっぽりだして研究やら服屋やら冒険者やらしている王族が三人もいるため、『普通の』王族にしては幸せとしか言いようが無い。
と、すっごく長い話となってしまったのだが。
「お許し頂き恐縮です、エステリーゼ様」
「ふんっ」
今考えるべきはエステリーゼ様に目を付けられてしまった以上、何かしらの何かが起こるだろうということである。それが何なのかは王族なら本当に何でもできるため私には皆目検討が付かない。
「.......とりあえず実技行くか.....」
「何よその、エステリーゼ様に何されるか分かったもんじゃないけど考えても無駄だから取り敢えず一旦離れよう、みたいな顔は」
王女様、すっごい的確に表情読んで........って、もはやそれエスパーの域だわ。
「は、はぁ.......」
「馬鹿じゃないの?そういう時は謝るのよ」
「あっ、すいません。あと、ご助言頂き恐縮です.......」
「はっ!?私としたことが、お兄様以外の人を助けるなんて......」
うわぁ......エステリーゼ様、ブラコン相当拗らせてるぞ........多分アルさんが研究ばっかで構ってくれないから.......そしてその弊害はこちらに.......。
ぅぅぁああぁーるぅーさぁあああんっ!
......なお、口に出したらエステリーゼ様に処罰されるので心の中でしか言っていない。断じて後でローブの通話に向かって叫んだりなど、していない。
「とっ、ともかく、御機嫌よう......?私は試験に行かせていただきます......」
「勝手にして頂戴、ふんっ」
「次、エステラ・イオリ・メデイロス」
「は、はいっ」
ま、まぁ未来はともかく、今は呼ばれたので実技試験に行くのだ。
「じゃあ、貴方の武器はなんだ」
「えと、ナイフ技なら一応なんでも。炎魔術、風魔術。あと、使役魔術です。あ、護身術って戦闘術に入りますかね?護身術もできるので」
「いや、護身術はあくまで『護身』だからな。戦闘術では無い。では、貴方の戦闘方法はナイフ全般と炎魔術、風魔術、使役魔術で良いな?」
「あぁ、はい」
「いやしかし、使役魔術用の試験をするのはいつぶりか........二百年前だろうか」
へぇー、そんなに珍しいんだ。
二百年て。
......いや、二百年って!?
「長生き.....」
「うん?私はエルフだからな」
あぁなるほど。エルフって寿命長いしね。
「ちなみに一番強いのは」
「ナイフですね」
「使役魔術は?」
「すっかり存在を忘れており未だにレベル4です......」
「えぇ、、、、、存在を忘れるって、、、、」
うん、私もどうやったら忘れるのか分からないです。
「こほん。では、一分以内に部屋のトレントを倒しきったら合格だ。扉を開けた瞬間にタイマーがスタートする」
「はい、行ってきますー」
なんか仰々しい黒扉を開けると.......。
「うーんと、ファイアースフィアー!.......これで良いのかな?」
ダンジョンに行ったときのボス部屋の再現版みたいのだったから、前と同じようにファイアースフィア使ったんだけど。
「うん、やっぱり学園だし、んな簡単な訳無いわ」
トレントは、強かった。
「けほっ、うぅ、煙がぁ.......風で飛ばすか.......ウィンドバリアっ」
煙が少し目に入ったけれど、何ということはない。バリアを張ればいいのだ。
「気を取り直して、ファイアースフィア!」
「「グモぉぉお」」
バリーン
「あぁ、土属性って風に有利なんだわ.......」
めっちゃ忘れてた。
「まぁでもこれでトレント倒せたし......」
『残り時間3秒、2、1、終了です』
その瞬間部屋が消え、、、、いや、私が部屋の外に転移されたのだ。
「思ったよりギリギリだったわ......」
「そりゃまあ学園だしテストだからな」
そんなことより今は目がシパシパする。
シパシパシパシパシパシパシパシパ
「貴方、睫毛が短いのだな.....」
「遺伝ですっ!そんな真剣に見つめないでください!」
「あ、あぁすまない」
シパシパシパシパシパシパシパシパ
「やっぱり短―――――こほん。次はBランクの土魔物の攻撃に、風魔法のみで十分間耐えられたら合格だ。なお、風魔術でも雷の派生は無効とする」
「えっ、それだけですか?」
「それだけって貴方......まぁ確かにそれだけだ」
よっしゃ行くか。
今度もまた異常に仰々しい黒扉を開けて部屋に入る―――――と。
「うきゃあああああっ!う、うぅぃうぃうぃ、ウィンドバリアぁ!」
..........................ウォームコックローチがいた。その名の通り一般でミミズと呼ばれる生物と一般でGと呼ばれる生物が融合した、視覚的に最悪なBランク魔物である。
「うぅぃ、ウィンドブレード!ウィンドバリア!ウィンドアロー!ウィンドブレード!トルネード!うぎゃああああこっち来んな(バリーン!)きぃやぁああああウィンドバリアぁ!ウィンドブレードウィンドブレードウィンドブレードウィンドブレードっ!」
と、平常運転に聞こえるかもしれないが大騒ぎだ。これは私の僅かな理性が出来得る限りのエネルギーを使って行った説め―――――。
「ウィンドバリアぁ!ウィンドバリアぁ!ダブルウィンドバリア!?」
と、新種の魔術を作り出してしまうほどに追い詰められていた。
「とっ、とりあえずこのバリアの外側が壊れるまで反対方向を向いて....」
バリーン
「ウィンドバリア!」
バリーン
「ウィンドバリアぁ!」
バリーン
「ぅウィンドバリアぁー!」
バリーン
「っウィンドブレード!ウィンドバリア!」
とその後も延々とムダに生命力の高いウォームコックローチと私の戦は続き。
『終了です』
プシュー
部屋の外に転移したとき私は、
「それだけとか言ってすいませんでした本当に.....」
「私も昔同じことを思ったからな、試験内容を事前に伝えられないことに毎回心を痛めながら見送るのだ」
「なるほど.......」
試験監督エルフさんも同じことがあったわけだ........。
「あれって、精神のテストも兼ねてるんでしょうか......」
「さぁ.....」
「むしろ精神のテストなのでは......」
「あぁ......」
あれは拷問である。
「トラウマ体験なんですが.....」
「大丈夫だ、学園ではそれすらも忘れるようなことがあるから.....」
それすらっていや........あれ以上の拷問はアウトだよ.....だって精神壊れるもん.......。
ズタボロになった心を抱え、私はナイフの試験場へと歩いた。
―――――いや、歩かされた。自力では立っていられなかったので。
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