第二十九話 入学試験①

※番外編終わりましたので、ストーリー忘れてしまった方は四話前を読み返し推奨します。




「ステラ。ステラ。起きなさい」

「ふぁあ.......おはようございま.....くかー」

「......最後だから選択肢をあげるわ。ファイアボールとファイアアロー、どっちが良い?」

「どっちも嫌です!?」


さて、出発して数日間、イレネさんたちと居られる最後の朝である。

いつも通り脅されて起床した私は、馬車の外を走り回っていた。

何故か?


「さむっ!王都、寒っ!うぅ、寒ぃ......」


寒いからである。


「皆さんなんでそんなに落ち着いてるんですか?寒いのに」

「.........ステラもローブ着たら暖かくなるんじゃ.....?」

「あっ......」


ローブは効果覿面で、直ぐに冷えが治まった。

そして私のジョギングは疲れだけを残して無駄に終わったのである。


◇◇◇


「あと数十分で王都に到着いたします」


太陽がちょうど真上を過ぎた頃、御者さんの声がかかる。


「イレネさんイレネさん、馬車降りるところから学園ってどれくらいですかね?」

「私に聞かないでよ。学園の事はレインに聞きなさい」


確かにそれもそうだ。


「レインさんレインさん」

「あはは、僕は王宮から行ったから知らないなぁー........」


うん、それもそうだった........。


「御者さーん」

「徒歩十分ほどですよ」

「ありがとうございますー」


御者さん、流石である。


「そういえばレインさん、来る前に少しアルさんと話したんですけど。すっごい気になることを残していったので、教えてくれませんか?今年の冒険者科って、なにか気になるような事でもあるんでしょうか」

「え?気になること?別に無いと思うけど..............あぁ」

「え?なんですか?」

「.........緊張しすぎても困るしなぁ」

「いや、だから......」

「うん、行く前から知らなくても良いと思う!」

「その言葉がかえって私を不安にさせますっ!」


学園が

とても不安だ

あぁ不安


By ステラ




........うん、何がしたかったんだろう、私は。


自分で自分の行動に困惑していると、不意に馬車が止まった。


「到着いたしました」

「ありがとうございました!代金は―――――」


そしてお金を払って出た先は。


青い空、賑わう通り、異国の人々、豪勢な建物、遠くに見える王宮、何処からか漂う屋台の香り........。


「うん、一週間前と変わってない、普通の王都!」


別に何の感慨も沸かない。


「じゃあレインさんたちは護衛なのでここまでで」

「あー、学園まで付いて行かなくて大丈夫?」

「はい、あまり頼るのもどうかと思いますし........」

「じゃあ、、、さよなら」

「はい、ありがとうございました―――――――先輩」

「あぁ、またね」


青空を背に去っていく先輩たちは、今までに見たどんな人よりも格好良かった。


「.......私もあんな先輩に、なりたいなぁ」

「それにはステラ様、まず学園で勉強しなくては」

「うん、そうだね.........って、そういえばマイとレンも護衛じゃん!?ちょ、早く帰んなきゃ、ほらほら」

「あー、お嬢。俺は確かに帰んなきゃいけないんだけど」

「私は『貴族のお付き』枠でステラ様に付いて行きますよ」


えっ?


「私、一人じゃないの?」

「いいえ」

「本当に?」

「はい」

「なんだ........」

「えぇ、落ち着いたでしょう」


いや、それよりも。


「心配して損したぁーっ!」

「「あー」」

「私、一人になると思って不安だったのに!やっていけるかなとか、色々考えたのにぃー!マイのばかばかばか!もぉー!」

「いえ、ステラ様の反応が面白かったので.......」

「うぅー」


こんなお供、不安だ、、、、、これならレンの方がまだ良いよ.....。


「レーンー!」

「いや、お嬢、俺は男だから.....身の回りの世話とか、そういうのはちょっと」

「でも、マイよりかは安心だよぉ―......」

「いや、まぁ、気持ちは分かるんだけど......」

「お二人、なんか言いました?」

「「いやいやいやぁー!」」


「じゃあ、ね。レン......」

「はい、お嬢.......」

「「ばいばーい!」」

「どんなノリですか!?」


「いやだって、元々冒険者になってからレンとは離れてることが多かったし」

「夏になったらまた会えるし!」

「「というわけで、じゃねー!」」

「えぇ.....いや.........まぁ..........では、、、、また、レン」


「マイもじゃあねー......っていうかマイとはまた直ぐに会いそうな気がするんだよなぁ、なんだかんだで」

「はい、恐らくレンは暴走して学園に飛んでくるであろう旦那様に付き合うことになるでしょうね」

「冗談じゃねえよ、兵士長でも連れてっとけよ.......」


ほんっっと、うちの親がすいません。


「さっ、レンも行ったことだし。私は試験に行ってくるね」

「はい。終わったら一日休みがある筈ですので私は宿をとってきて、それからここに戻って来ます」


「うん、おっけいー」


みんなと別れた広場を立ち去り、私は学園に向かって歩き出した。


「ふうー、一人で歩くの久しぶりだなぁ」

「えっ、そうなの?こういうの慣れてそうなのに!」

「えぇ、そうかなー?――――って、誰!?」


なんか自然な感じで答えちゃったけどさ.......。

後ろに振り向くと、そこにはオレンジの三編みをした少女がころころ笑っている姿があった。


「こんにちは、あたしはレミー。学園の料理科教師だよ!君は冒険者科だよね。冒険者科には料理を振る舞うことがあるから、また会うかも。じゃ、頑張ってね!」


おぅ、うん...........教師.........?


「あ、ありがとうござ―――――って、行っちゃったよ」


いやでも、あの子が教師....?私より年下に見えるんだけど.......。

まぁいい、面倒なことは忘れて試験に集中しなくては。


「そういえば冒険者科は御馳走してもらえるのかー。凄い子たちがくる学園だしな、きっと美味しいんだろうなぁ。うん、これは何が何でも入学しなくては!」


いざ、目指せ料理科の御馳走!


..........あれ、当初の目的ってなんだっけ。


◇◇◇


「.......筆記試験は一時間です。鐘が鳴ったら筆記用具は消えるので、あしからず」


筆記試験は文字が書けること、王族、公爵、辺境伯の名前を覚えていること、魔術師ならば魔術の理屈を理解していること等、普通の平民でも頑張れば覚えることのできる程度だ。貴族の私は当然楽勝である。


これで最後の問題か.....。


『貴方の戦闘方法、又は武器となるものを記述してください』

「ナイフ、風魔術、炎魔術、護身術」


これくらいかな。

いや、護身術は戦闘方法と言っていいのだろうか......いやでも、敵から身を守ることも戦闘だし.......いやいや、相手に攻撃されるまで待つのは馬鹿でしかないし.......護身って別に武器じゃないし......。


................別に書いて悪くなるようなことも無いだろうし、そのままにしとくか。


そう思い試験用筆記魔術具を机に置くと。


ポァーン


「ぶふっ」


鐘がなった。

それにしてもなんだこの間抜けな音は.......。


「って、筆記用具消えたし」


一定時間経つと消えるもしくは空間移動されるなんて、かなり高度な魔術具だよな......この場にレインさんがいなくて良かった......いや案外アルさんが作ってたりして........いやそんなわけ........


「感謝しなさい、それは私のお兄様が作ってくださったのよ!」

「「「王女様!」」」


王女様!?

お兄様!?


「まっ、まあ、エステリーゼ王女様。アルフレッド殿下にお伝えしておきましょう、感謝の気持ちを。ほら、皆さん.....」


あぁ、あれは試験監督の人じゃないか。王女様の側近なのだろうか?

っていうかそれより.........


「やっぱりお前か、アルさあぁああん!」


そしてあのちょっと口ごもってた感じってまさか!まさか!?


「......ちょっと貴方、どこの貴族か知らないけどお兄様を愛称で呼ぼうなんて、お兄様に暴言を吐こうなんて、反逆罪も良い所よ。ねぇローラ、この人は誰?」

「メデイロス領冒険者ギルド出身のエステラさんです。姫様と同い年ですよ」

「.....ふぅん。没落貴族か領主の娘ね。まぁいいわ、今回のところは許してあげる。でも次はないわよ........」


今年の冒険者科には、超絶ブラコンかつお高く留まっていると噂のエステリーゼ第二王女がいるっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る