第十九話 探偵ごっこですら無かった。
「と、いうわけで。ステラには髪を染めてもらうわよ」
「えっ......分かりました」
現在、拠点である。そして、どうやら変装するらしい私は髪を染めることになった。
「それで、何色が良いのよ?」
「選んでいいんですか?ありがとうございます!」
「別にあんたのためじゃないわよ。ただ種類があるから聞いてるだけ」
「じゃあ、赤で。私、一回なってみたかったんですよ!イレネさんみたいな髪に!」
「そ、そう.....」
黒髪は上品だし好きだけど、なんか味気ないのである。なので、髪を染めるなら自分の属性の赤か緑だな、と思っていたのだ。
「レインたち、森で探すらしいわね」
「はい、聞き込みは冒険者の仕事じゃないから、って」
「まあ、カイルは動物に詳しいから、炎鼠の足跡を辿る方が簡単だったんじゃないかしら。頭脳型じゃないしね」
「カイルさん、魔物に詳しいんですよね。なんか意外です。見た目も力量型ですし」
「カイルは白魔道士感無いわよね」
そう、よく忘れているけどカイルさんは補助回復係である。なんか、雰囲気が武闘派って感じだもんね.....
あの後、レインさんたちからの返答は――
「僕たちは引き続き森で足跡辿りをするよ。聞き込みは元々の依頼じゃないからね。でも、犯人が特定できたら炎鼠の出処も解りやすくなるだろうから、そっちはお嬢様方にお願いするよ。じゃあ」
―――というものだった。
まあ確かに、依頼クリア条件は炎鼠が改良されたところやそれを行った人などが分かればいいわけで、黒幕を確定する必要はないのだ。でも、領主の娘としてどっちみち後ですることになるなら、今しちゃっても良いよね?ということでの今回の計画だ。
「染め終わったわよ」
「おっ!鏡ってありますか?」
「あんた今までどこに座ってたと思ってんのよ」
「え?ドレッサーで....あ」
「そういうことよ」
つまり私の目の前に鏡はあったわけである。
「......誰?どうかされました?」
「.......それはあんたよ」
「え?え?」
「そ・れ・は・あ・ん・た・よ」
「ふわぁお!なんかすごい!」
「うっさいわね、そんなに興奮することでもないでしょうに」
「いやいや、することですよ!」
鏡の中には臙脂色の髪をしたヤマトの美女が立っていた。
......とは、私のことである。
「うぬぼれてんじゃないわよ、確かにあんたは美人だけども」
「まあ、なんか、、、、浸りたかったんですよ」
うぬぼれの海に。
「まあ、、、、、そういうこともあるわよ」
みんなに可愛いねと言われても、自分でそう思うことはなかなか無い。
なので、たまには自分を褒めてもいいかな、と.....................
すみませんでした。
「それにしても、こんなにきれいに染まるんですねぇ」
なんか本当に別人になったみたいだわ。
「いや、適当な方よ?上手くやれば真紅の髪になるはずだったのよ。あんたのはドス黒いじゃない」
「どっドス黒いんじゃありません、綺麗なえんじ色と言ってください!」
「うわぁーすてきなえんじいろねー(棒)」
「絶対思ってないです!もう!」
もうちょっとノッてくれても良いのに。
「うるさいわねー、さっさと聞き込み行くわよ。まずは東通りの居酒屋ドネル」
「あーあそこの大将、見た目がめついけどすごい良い人ですよね」
大将のドネルさんは面白い人である。
「あそこ居酒屋なのに、なんで未成年が知ってるのよ。それと、あんたはその事を知らない設定だからね?上手くやってよね」
「はぁーい」
聞き込み調査、開始である―――――
「おー!いらっしゃい、ステラの嬢ちゃん!なんだい髪なんか染めちゃって、それにそっちの美人さんはどうしたんね」
―――――一瞬でバレた。
「演技力以前の問題なのかしら.....いえでも、目の色や格好も変えてれば.....いや、もしかしたらスキルが.....」
「あ、あの、イレネさん、こうなったらもう事情を話した上で協力してもらっては」
そのほうが上手く事が進みそうである。
「そうすると犯人に動きが察知されるのよ」
「逃げられる、ということですか」
「そう。少なくとも三日後の食事会までは勘付かれちゃ駄目なの」
「まあでも、身元がバレた上で怪しい動きをするくらいなら」
「まずバレたことが最大のミスだったのよ」
「はい.....そうですね」
納得してしまった。いや、納得せざるを得なかった。だって全て正論だし。
「あー、ステラの嬢ちゃんよ、突っ立ってねえで座れや。オーダー聞いてるんだが」
「あっはい、じゃあピンクマーシェの果汁で。イレネさんは?」
ピンクマーシェは、4-5月が旬である。去年は食べ逃したから、今年こそは.....
「私は別に良いわ」
「奢りますよ?」
「あんたねえ、そのセリフは先輩が言うものじゃないの」
「奢ってくれるんですか?」
「奢らないわよ、でも奢られるのもメンツが立たないわね」
「じゃあ、何を頂くんですか?」
「だから、無駄金叩かないっつってんのよ」
「だったら奢りますって」
「あんた人の話聞いてた?」
「ここ、意外と美味しいんですよ!ちょっと試してみてください」
「おいおい嬢ちゃん、意外とってえのはどういう意味かね」
「........人の話を..........もういいわ、じゃあ貰うわよ、マーシェを」
「毎度ありー!ピンクマーシェ2つだね」
しかし、後輩に奢られるというのはメンツが立たないものなのか。まだ私には分からない事である。
先輩って、呼ばれてみたいなあ。
「イレネ先輩!」
「何よ急に先輩付けして......不気味な」
「別にいいじゃないですか、先輩って言ってみたかったんですよ」
先輩にもなってみたいが、後輩の立場も楽しいのである。
「お嬢ちゃんたち、マーシェだよー。で、今日はどんな情報をお求めで?」
「あー、私達は噂を聞きに―――」
「最近、火事が起きたでしょう?」
「ちょっ、ステラ!」
「ドネルさんは情報屋でもあるんですよ、どうせ知ってますから秘密にするまでもないでしょう」
「いや、私はそれを知っててここを選んだのよ......でもね?話の入りどころがあるでしょう?」
いいやイレネさん。ドネルさんはそれを嫌う。
「嬢ちゃん、俺は単刀直入に切り入られたほうが話しやすいんだ」
「ほらね?」
「いや、ほらねってあんた何も言ってないじゃない....」
「心のなかで言ってたんですよ」
「いや、知らないわよ!」
「で?なんで来たんだ?」
「はい、実はですね......」
かくかくしかじか。
「おう。それなら、目撃情報が北の方でいくつかあったなあ。確か昨夜は『月夜ノ雫』に入っていったとか」
ああ......あの街一の高級宿ね。リビアさんがやりそうなことだわー。
「街一宿に泊まってお金持ちを見せつけるとか」
「最早、居場所隠す気ないわよね.....」
思ったより.......
「思ってるより、早く終わりそうだな。がはは」
「「それ、言おうと思ったけど空気読んで言わなかったのよ」」
やっぱりイレネさんも思ってたのね。
これ、Cランクで良かったのかな.......?
「これ、Cランクで良かったんでしょうか」
「さあ......でも、カイルたちのやってることはCランクよ」
「じゃあ、さっさと終わらせてあちらに合流しますか」
「ええ、そうね」
どうやら、聞き込みは早く終わりそうである。
......まあ、この街そんなに広くないし、あの人達目立つし、見つけてたって用心するくらいしかできないし........すぐに終わるとは思ってたけど。
どうせなら、もうちょっとだけ探偵気分に浸りたかったなあ。
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