第十八話 

伯爵との会談が終わり、私達は館に帰ってきた。


「いやあ、伯爵も娘大好き人間だったのかあ。もっと仲良くなれそうだな」

「貴方、いくら経っても帰ろうとしなかったじゃないですか。作戦会議とか言って、どうせ九割は娘自慢だったんでしょう?おまけに夕食までごちそうになって.......本当にもう」


そう、あの後お父様と伯爵様は延々と、そう延々と家族自慢をしまくっていたのである。

「うちの娘は可愛い」「うちの娘は学園推薦されるほど凄い」「うちの妻は裁縫が」「うちの妻は頭脳明晰」「うちの息子は頼もしい」「うちの娘は楽器の腕が凄い」「娘は」「妻は」「使用人が」「犬が」「うちのギルド長」

「もーういいわ貴方達!意味のないことを話しすぎよ。しかも途中からズレてたし......それに、もう夕食の時間じゃないの。マユさん達、帰路は長いのでしょう?うちで食べていきなさい」

「ええっ!?でも、そんな悪いです」

「良いのよ、引き止めたお詫びだと思って頂戴」

「はい.....でも、こっちにも責任はありますし」

「そこはじゃあ、イレネを安全に住まわせてくれるだけで良いわよ」

「そうですか。ありがとうございます」


、、、、とこんな感じでイレネさん宅での夕食が決まったのだ。

それはもう、本当に豪勢であった。

流石に伯爵は違うなー、と思った今日この頃である。


「ところで、立てた作戦ってどんなだったの?」

「おう、それはだな。ずばり、獣人の嗅覚使って犯人追おう作戦だ!」

「......は?ナニソレ」

「旦那様、人の体臭とは数日経てば消えるものです。それを嗅ぎつけることは非常に困難であり、そしてそれを認識できるほどの嗅覚の持ち主ならば余計な臭いも嗅ぎつけてしまうため臭いから見つけることはほぼ不可能です。それに、仮に犯人の臭いをたどったところで途中で馬車に乗っていれば終わりですよ?」

「そうよ貴方」

「も、もう一つ作戦がある!」

「期待できないね」

「そうですね」

「そうね」

「い、いやこっちは自信がある!ギルドに依頼を出す、だ!」

「......え?それ、火事が起こったその日に私がしたよ?伯爵の方も、イレネさんが出してたよ?」

「.......え?」

「.........え?」

「「「......もう寝よう........」」」


つまりはただの飲み会だったらしい。


◇◇◇


「と、いうわけでこれをEランクに上がるための最後の課題としようと思うんだけど」

「いいんじゃないの」

「賛成だ」

「いいよー」


久々に冒険者ギルドに来た。

冒険者登録から時間は過ぎ、気づけばこれが最後の依頼になっていた。

って、いやこれ、炎鼠の出処調査じゃん!?


「私達が出したやつじゃないですか」

「うん、そうだよ。難易度がCランクでしょ?龍の血晶はDランクだから、この依頼が受けれる。この依頼を受ければ、それはステラにとってEランク昇格までに残された依頼―――Dランク以上の依頼、それをクリアしたことになる」

「はい」

「普通、FランクがCの依頼を受けるなんてあり得ない事だ。でも、僕はちゃんとした陣形を組めばステラの実力はBランク相当だと思う。もちろんこれは実力だけで言えば、だけどね」


いやあそんな。それに、FがC受けるなんて本当にありえないよ。


「というわけで、今から行こうと思う!」

「はあ!?」

「どっか外に泊まるけど、いいかな?」

「いや、「いいかな?」じゃないですよ。準備できてないですし、お父様飛んできますし、それに、それに、本気でC受けるんですか?」

「あ、もしかしたら2泊するかも」

「なおさらですよ!」

「あー、ステラ。決定事項だから」

「ええっ、、、、服とか、泊まる場所とか、食料とかどうするんですか.....あと、うちの父は」

「ほかは全部準備済みだけど、領主様ねぇ、、、、秘密で行く?」

「後の被害がすごくなります!」

「まあ、使役した動物に連絡してもらえば?」

「そ、それなら......いや多分許されないですけど何も伝えないよりかはマシですよね......うん」

「じゃあ、れっつらごー!だね!」

「なんでそんなに気楽なんですか.....」


かくなる上は、行くしかないので出発した。

なんでこうも急なのかぜんっぜん納得行かないけどね。


「犯人の目星って全然無いのか?」

「えーと、私達を争わせることが目的かと思うんですが」

「でも、男爵が不在になることで領地が狙いやすくなる、とか有りそうだね」

「!その可能性もありますね.....」

「何か恨まれたりしてないの?昨夜のお父様たち、大した事してなかったから今ここで予測しないと」


取り敢えず、何もなしで行くわけにはいかないので情報を曝け出すことになった。


「恨まれ、、、、たりは、してないですかね。強いて言うなら、隣のガスト男爵一家が......あ」

「あ?」

「昨夜、門の人が「なんか嫌味ったらしい貴族的なやつ入ってきたからよろしく!(意訳)」って言ってたわ」

「特徴は?」

「聞いてないです」

「バカ、今すぐ行くわよ!」

「はっ、はぃぃい」


なるほど。門番さんに詳しく聞けば、犯人が分かるかも......ってことね。


「はぁ、はぁ、、あの、昨日の門番さんいますか?明るい茶色の髪の.....」

「あ、ステラ様じゃねえか!おお、ルトガーなら奥にいるぞ」

「あ、東門長さん!ありがとうございます」


「えっとルトガーですが、どうなさいました?」


イレネさんの後を追って東門に行くと、東門長さんがルトガーさんの居場所を教えてくれた。


「あの、昨夜言ってたガスト領からの貴族って、どんな方でした?」

「えっ、何かあったんですか?」


えー......それは。


「貴族の事情があるから話せないわ。それとも巻き込まれたい?」

「いっ、いえいえいえ!すいません出過ぎたことを」


イレネさん。怖い。怖いって。

まあそれはともかく。


「それで、どんな方でした?外見とか、声とか、身分証明書とか、交通手段とか」

「それはまた随分と細かい......えっと、外見はたしか最新流行のドレスに宝石を色々、髪は紫がかった灰色で目は引きつけるような金、吊り目で気の強そうな成人したばかりの女性、という感じですね」


それはぁ、、、、、リビアさんじゃないか。


「声は高めで、話し方は何と言うかこう....お高くとまった感じですかね?

あ、そういえば人はそのお嬢さん以外にもごっつい男性が三人、小柄な女性が一人、あと馬車の中に幼児が六人ほどいましたかね」


小柄な女性....


「最近入ってきたという元Bランク冒険者の人でしょうか」

「使用人?」

「はい」

「使用人がBランク冒険者ねぇ、、、、きな臭いわ」

「あ、えっと、身分証明書はこちらです。ちゃんと領主様からの入門許可も貰っていたみたいで......」

「入門許可?それってもしかして......」

「もしかして?」


嫌な予感がする。


「やっぱり。お茶会の予定を立てたときに作ったやつですね」

「そういうのはすぐさま無効にするのよ!全く、不用心ね」

「すいません」


ほんとに全く持ってその通りだよ。


「で、この紋章はガストのとこのやつなの?」

「ええ。間違いありません」

「で、来てたお嬢様は」

「三女のリビアさんですね。確実に」


だって私、彼らが来たらすぐに分かるようにガスト紋章は隅まで覚えたからね。


「でも、驚いたわね」


はて。


「何がですか?」

「これはガストの目的が襲撃だと考えた上で話しているけど。普通は襲撃するなら誰か下を雇って黒幕は出てこないはずよ。まあ、三女なら切り捨てることは可能だけど」


貴族、恐ろしや。っていうか私も貴族だけどね!あまり自覚が無かったけど!


「まず、その人は間違いなくリビアとかいうので間違いないわね?」

「はい。微塵のズレも無くリビアさんです。そうでなければ影武者ですね」

「ガストは計画性に外れている人かしら」

「そう、、、かもしれませんね。あそこは元々子爵だったのが墜落したと聞いてますよ。といっても、墜落したのは先々代らしいですけど」

「遺伝の可能性があるわね。黒幕出して証拠も門に残してとびきり目立つ格好で街中練り歩いてたらそりゃ怪しまれるわよ」

「はあ....」


まあ、多少バカっぽい感じはしてるけど......ね?


「じゃあ、次は周りに聞き込みよ。レインたちも呼んどいて」

「はーい」

「で、聞き込みと言ってもこっちが怪しまれたら終わりだから、異国の冒険者という設定で噂話に割り込んでいくわよ。いい?」

「えっと、上手く演技できるかわかんないですよ?」

「習ったことないの?幼少期に」

「幼少期はナイフでしたね」

「じゃあその後は」

「ダンスは一応」

「演技はないのね」

「はい」

「使えないわね.....まあ、いいわ。自分の出処は聞かれたときだけ教えて。あと、この領地のこと全くわからないみたいな感じでいれば良いわよ」

「は、はぃい」


使えないレッテルが貼られてしまった。

頑張って名誉挽回しなきゃね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る