第十六話 炎鼠の討伐に行く。
「大変だ!森に火が放たれた!炎鼠がいるらしい!」
俺は、ガイナス。
美人な嫁と可愛い娘たちと勇ましい息子を持った幸せ者だ。
ついでに、メデイロス男爵家の当主でもある。うちには領があるので、立場的には領主でもある。
全く、領主なんてなるもんじゃない。
地位?権利?
んなもんは子供の頃は欲しくなるが、当主になった今の俺にしてみりゃたまったもんじゃない。領地の運営やら税金やら、土地の管理やら。趣味に打ち込む時間すら殆どない。
それに最近は、その「地位」なんぞいうもんが俺の寿命を縮めてやがる。あ、決してステラのせいじゃないからな?悪いのは地位だ。
最近、ステラが二人もの王族に偶然で会ってしまったのだ。んで、気に入られたらしい。
男爵の俺からすりゃ、王族の好意なんて重荷でしかねぇよ。全く。
っと、それはともかく。
どうやら、森で火事が起きたらしい。あそこは伯爵領に繫がっているので、そっちに被害が及んだら色々まずいだろう。ならば、さっさと消しちまうに限る。それに、もしかするとあそこにはステラがいるかもしれんしな。俺の可愛い娘を危険な目に合わせる訳にゃあ行かない。
ついでに言うと、確か隣領はアステンダー......ステラのパーティーの、お嬢さん家だったろう。パーティー内で関係が悪化するのは良くない。だから、俺は良い父として、領主として、火を消しに行くのだ。
「おっし、行くぞ!」
「ちょ、旦那様、お待ち下さい!火を消せるのは水魔術師だけでしょう」
「ん?んなもん、剣で切っちまえばいいだろ」
「..脳筋......ですが、元凶が倒せても後火が残ります。確か一人、水魔術師が兵に居た筈ですから。呼んで来ても」
「んじゃ、さっさとしろ。俺は先に行くぞ」
「旦那様、あなた領主ですよ!?ちょっとした火事に自ら赴かないでください!って、行ってしまいましたね......」
うるさいな、セバス。それに、これはちょっとした火事じゃないぞ。ステラがいるんだからな。
「うっし、着いた。ステラァァア!いるか!無事か!」
森に向かってステラを呼ぶと、しばらくしてから黄色い鳥が飛んできた。
「ん?何だこいつ、紙をくわえてるぞ。お、メッセージか。何々――」
『いま せんとう ちゅう はな しかけるな ステラ』
「.......」
「だーんなーさまー!遅れてすいませーんっす!」
「お、お前が水魔術師か」
「はい、さあ行きましょうっす」
水魔術師―――確かルークとかいう名前だった――が、森に到着した。
「んじゃ、お前は火を消して炎鼠までの道作りを頼む」
「はいっす。ウォータースフィア!」
おし、行くぞ。
「打打打打打打打打ぁ!」
うん。
「ちょっとばかし腕が落ちたなぁ」
今の連撃で倒した魔物の数、Eランクが殆どなのに合計が10匹だ。
前の俺なら、今と同じ時間でEランク合計20匹はいけたんだがなあ。領主になってから腕が落ちたのかもしれん。要訓練だな。
「旦那様!ステラお嬢様がいるっす!」
「どうっ!」
俺の可愛い娘ぇえ!
「ステラ、無事か!」
◇◇◇
森についた私達が炎鼠を取り囲んだ頃。
「ステラァァア!いるか!無事か!」
怪物、、、、、もとい、お父様が私を呼んでいた。
「とりあえず返事しないと暴走するから、マイ。できるだけ短く返事を書いてヒヨに持たせて」
「応」
この戦いは、魔術師の私には不利だった。なぜなら、炎鼠に有利な水属性を持っていなかったからだ。持っているのはミーヤだけ。
「ツルギ、クロ、行くよっ!」
といっても、炎鼠はDランク魔物。私はまだFランクだけど、私以外のパーティーメンバーはEからCまでいるのだ。それに、ここに来てるのは龍の血晶だけじゃ無いしね。流石にAやSはいないけど、Bランクパーティーは複数いるのだ。楽勝である。むしろ大変なのは、消火や周りの魔物への警戒じゃないかな?
と、思った私は。
「ミーヤは水属性だから、炎鼠の討伐か後火に徹してくれる?」
「言われなくとも」
「じゃあ、水属性を持たない私達は、周りの魔物討伐に行きましょう。イレネさん、マフカさん、カイルさん、レインさん」
「あ、いや―――(僕は残る。王族の魔力は基本的に全属性だからね)」
「あっはい分かりました。じゃ、皆さん行きましょう」
「ちょっと、なんでレインは来ないのよ!」
「えっと、、、、」
「僕は魔術具で援護できるからね」
「っ、そう。ならいいわ」
レインさん、ナイスフォロー。ほんと気も利くし強いし頭良いし、超人みたいな人だよね。
じゃ、私も戦うかな。
「はっ!やっ!うきゃ、カイルさぁん!」
「おう!」
「助太刀ありがとうございます....やっぱり虫系は苦手で」
「ま、大抵の女子はそんなもんだ」
「まあそうですけど、私は鍛えますよ」
「私の方は終わったわよー!」
「僕ももう少しかな!」
「俺は終わったぞ」
「私の担当も終わりました」
ふぅ、これで周りは粗方倒し終わったかな。めちゃくちゃ多かったよ.......まあ、うちのギルドの依頼、半分はここのやつだしね。
じゃあ、私達はもう行こうかな――――――――っ!
「あっ、きゃあ!クロ、三体まとめて!」
(シュビビンビン!)
炎鼠が、飛びかかってきた。三体ほど。
「まだ一匹生きてるから、気をつけろよ!」
「はいっ、ツルギ!」
(シュピーン!)
「お、終わった.......」
顔が少し痛い。火傷したかもしれない。
「ったく。Bランク共が逃がすとは思えないが......どうしてこうなったんだ?」
ほんとだよ。っていっても、私がどうこう言う事じゃないけどさ。
「いやあすまない。だが、その炎鼠は前より二割増しぐらいスピードが上がったぞ?」
「は?」
「いや、だから」
「あたしも調べましたが、確かに前より強くなりました。危険度がCくらいに上がってて」
「まあ、【鑑定】スキルを持ってるリーリアさんが言うなら間違いないだろうが....」
「こんなに短期間に進化ってことは、ありえないよね。なら、考えられるのは品種改良.....?」
「おいおい、それじゃ誰かが人工的に流したことになるだろうが。それも、計画を立てて」
「その可能性を考慮してるんだよ」
「.......先程、敵認定のレベルが上がった。人と魔物を区別できるようになった。そして、ミーヤは人間の敵が伯爵料に向かっていくのが見えた。そこで範囲外になってしまったため、続きはわからない」
「ほんとか、ミーヤ!」
「この状況でこんな嘘をつくことにメリットはない」
「それもそうだが」
なんと。じゃあ、伯爵の差し金?でも、それをすることになんのメリットが.....
うちの信用を落とす?いや、それはないか。伯爵の敵派にいるわけじゃないし。
でもそれならなんで 、、、、いやいや、敵がただの山賊という可能性も捨てきれない......でも――
「ステラ、無事か!」
―――ってお父様、考え事してる時に割り込んでこないでよ。
「お父様、私は無事。炎鼠の討伐は終わったから、早く後火を消してもらわなきゃね。もう出番はないから、お父様は帰っていいから。いや、帰って。ね?それで、ルークは水魔術師でしょ?手伝ってくれるかな」
「はいっす」
大方セバスがお父様を追わせるために付けたのだろう。それが水魔術師なあたりセバスはさすがよね。
「レンはお父様を館まで連行しといて」
「また面倒な役割を......」
「んじゃあ、マイもついて行って」
「うっ、畏まりました......」
「道連れって心強いなぁ!」
「黙って下さい、レン。早く旦那様を届けてきましょう。セバスさんもお困りでしょうし」
「はぁい」
そうだよ。セバスが可哀想だよ。
「俺、どんな扱いだよ」
「お父様?領主の癖に無駄に過保護で遅れてやってきたあげく状況を理解せずにみんなの邪魔をする脳筋」
「ひっでぇ言われようだな。これでもステラの為を思ってやってきたんだが.....」
「あのねえ、Bランクパーティーもいるんだよ?私がどうこうなるわけ無いでしょう」
「ですがお嬢様、頬を軽く火傷しておられますよ」
「んー?これくらい普通――」
「ヒール」
「えっちょっ、誰ですか回復かけてくださったの!?大丈夫ですからね、私!」
「ま、そう言わずに有り難く受け取っとけ」
「はあ....まあ、有難うございました」
「おう」
と、こんな感じで。まだまだ犯人について探ることがあるが、取り敢えず消火はできて一段落したのだった。
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