第二十一話 最後の依頼、開始です。

「宝石ゴテゴテ..........あ、確かにそんな人はいましたね。多分ここに泊まってらっしゃる方ですよ」

「ありがとうございますー!」

「いえいえ」

「ではー」


結局、なんかまともそうな人に声をかけて教えてもらった。


「じゃあ、一度帰って今聞いたこと報告してきなさい」

「帰る、ですか?それはどこに」

「やか......いえ、なんでもないわ。いいから」


そういって、手を引かれる。


「え」

「ほら、早く来なさい、やか......いえ、とりあえず来て」

「えっちょっと待って下さい今なんて言いかけました!?館って言いましたよね!?え、私館に帰る気はないですよ!?親に怒られるし、何より使用人たちに殺されますぅ―!!」

「つべこべ言わない!」

「言いますよ!身の危険を感じます!」


帰った瞬間に全方向から罵倒される未来が見える。


「ついたわ」

「ステラお嬢様!よくお帰り下さいました、どうか旦那様をお静めください......」

「「「「「ステラ様!逃げてください!」」」」」


なにそれ、どっちをすれば良いのよ。


「―――って、へぶっ!」

「スッテッラぁああああ!何処にいたんだ、何処に行くんだ、許可なく外出しちゃだめだ!!」

「うっうるさいお父様、うるさい!鼓膜が破れる!」


お父様が土煙を上げて飛びついてきた。


「落ち着いて!」

「どうやって落ち着けと言うんだ、ステラ!あのなあ―――」

「サイレンス」

「!?」

「イレネさん!?」


後ろからサイレンスを放ったのは、イレネさんである。

っていうか、サイレンスって魔術具がないと使えないんじゃ。


「......レインから貰ったのよ、うちのお父様を黙らせるために」

「ああー.....同類ですもんね」


イレネさんの対お父様武器らしい。グッジョブレインさん。


「それでお父様、聞いて。私は、今ここにいて、お父様と話している。それの何に問題があるの?」

「......」

「まず今日、私はFランク最後の依頼を受けてるの。それが、火事に関するやつ。でも私は、炎鼠の場所を突き止めるのは他に任せてイレネさんと黒幕探しをしていた」

「...」

「結論から言うと、黒幕はガスト男爵家だと思う。明後日の食事会、漁師一家が不在の時に攻め込んで乗っ取るつもりだったかなー、って」

「.....!.....!」

「それでなんだけど、今日月夜ノ雫にリビアさんが泊まってるらしいのね。だから、彼女の動向を見張れば―――ってお父様!だめ!殴り込みはだめ!」

「!!!!!」


リビアさんの居場所を伝えた途端に、お父様が唸って立ち上がった。

この顔はすっごく怒っているときの顔だから、多分今手を離したらリビアさんを殴りに行くだろう。それは不味い。非常に不味い。

彼女は仮にも他領の貴族である。


「レン!助太刀!」

「えっ!?」

「早く!」

「はっはぃ!」

「「うんしょ、こらしょ」」

「って違ーう!」


私は綱引きがしたいのではなく、お父様を説得して落ち着かせたいのである。

ていうか、それならセバスの方が適任だったわ。


「セバス、よろしく!」

「お嬢様のご助力が必要ですが」

「何?」

「話を聞いていれば分かるでしょう」


流石セバス、一流執事である。いや、彼からすると二流か。

前にセバスが言っていたのだが、

『召使いなどただ命じられて事をしていれば良いのだ、と思われるでしょう。

ですが、そう思われるのはその者が二流三流だから。

一流の召使いは主の意図を即座に察して動き、尚且それに狂いがないことを主が認めているから一流なのです。一流だから命じられるままでいろ、とお叱りを受けないのです』


そういうことらしい。

話が逸れた。昔のではなく現在のセバスに戻ろう。


「まずですね、旦那様。ステラ様は13歳、あと2年で成人です。成人したらお嬢様はこの家を出てもおかしくないのです」

「「そういえばそうだった」」

「って、ステラ、あんた本人なのになんで忘れてんのよ.....」


さあ?年齢とかあんまり日常で気にしないじゃん?


「.....つまりですね。確かに貴族令嬢としては珍しいかもしれませんが、冒険者であるステラ様なら野営も全く珍しくないのですよ。冒険者ですから普通なら12歳でも野営はしているかと」

「だけどよ、ステラは大事な娘じゃないか」

「...........ステラお嬢様が冒険者として活躍する姿を見てみたいとは思いませんか?」

「むぅ......そうだな」


すごい。セバス、ものの数分でお父様を納得させてしまった。

ていうか、あれ?お父様.....


「サイレンスかかってたでしょ?何普通に話してんの!?」

「ん?気で破った」

「非常識な.....」


根性論か?脳筋特有の技なのか?


「で、分かってくれたの?お父様」

「うーん、でも....」


むう。まだ許さないか。

難しいな.....


「あなた」

「なんだ?マユ」


おっ。お母様のターンか。

お母様は最後のダメ押しに欲しかったんだけど....まあ、今のお母様ならこのまま押しきれそうだから良いか。


「娘が領の問題を解決しようとしてくれてるのよ?自分の力を使って。それって、喜ばしいことじゃなくって?娘が、あなたのために、動いてくれるのよ。それをあなた、拒否できる?」


娘が自分のためにしていることを断る。娘が、好意で、自分の為に、働いているのである。

つまり拒否したら嫌われるということである。


「拒否、、、、、、、できないな」

「でしょう」


よし、勝った。その場にいた全員が思ったところで、


「だからステラ、行ってもいいが護衛は付けて行け」


まだ戦いは終わっていなかったようである。

というわけで、ステラターン。


「お父様。あのね、私がこの依頼を受けてるのは領のためではあるけど、同時に自分をランクアップさせるための試験としても受けているの。そこに必要ない数の助けが入っても私の実力が発揮できないで終わるし、何より大勢連れて行ったら足手まといだよ。移動、寝床、食料、報酬の分前、その他諸々。

 それから、今回のことで護衛が入って無事ランクアップできたとして、その後の危険度が上がるだけだよ?Eランクの実力を認められていない冒険者がEランクやDランクの依頼を受けたら、どうなるか分かる?怪我するよ」


そう、そうなのである。

まあFがCランクの依頼を受けていて怪我しない方がおかしいのだから、危ないと言って止めているお父様は正しい。100%正しい。


けれど、私は龍の血晶を信用している。


レインさんが勧めてくるという事は、私が行っても大丈夫と判断されたということだ。私の実力でも、龍の血晶とミーヤがいれば大丈夫、と思うから勧めてくれたのだろう。そして私もそれを考えた上で依頼受注に賛同したのだ。だから、私がこの依頼を受けて多少の怪我をすることがあっても死には至らないと考えている。


そして何より、ここまで補助がいて依頼達成ができないのなら、私は学園に推薦されるべきではないと思う。この依頼を完了しないまま学園に行っても痛い目にあうだけだ。それは理解している。


「そういうこと。分かる?お父様」

「.........じゃあ、倉庫にある魔術具を持っていけ。あれを首に下げといて、なんかヤバい事起こったら一回だけ連絡できるから」


よし勝った。今回は確実に勝っている。ただし魔術具を付けていくという条件付きだが。

でもまあ、それくらいなら良いよね――――――――って、それ。


「そんな魔術具うちにあったっけ?」

「ん?なんか前、紫髪の若者が来てさ、これを置いてったんだ。御宅の娘さんにあげろーってよ」


紫髪......若者.......私のことを知ってる...........


レインさん、グッジョブ。


あの人って身分も見た目も性格も頭脳も戦闘能力も高いのになんでマッドサイエンティストになっちゃったんだろう。いや別に悪くはないけど、なんかちょっと勿体無いっていうか......


「イレネさん.....レインさんは勿体無いですよ......」

「?確かにレインは私には勿体無い人ね」


違う。違うんだ、イレネさん。


「恋は盲目って、よく言ったものですね.....」


いつの日かレインさんのマッドサイエンティスト面を知っても、イレネさんはレインさんを好きでいられるのだろうか。

永遠の謎である。


「じゃ、じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい、イオリ」

「ステラ気をつけろよー!」

「どうか無事で帰ってこられますように」


こうして、一泊二日の捜索依頼は始まった。

ていうか、一日目が終わりかけだけどね。

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