男爵家令嬢は苦労人のSランク冒険者です。

凪月美和

プロローグ

プロローグ 「その時点では」全くの無名だった。

「うふふ」


天堂伊織、13歳。

又の名を、エステラ・イオリ・メデイロス。愛称はステラ。

母方の実家が東にあるヤマトとか言う国らしい。だからミドルネームがヤマト風なのだそう。

本家はメデイロス男爵家で、極小貴族家だ。まあ所謂「一応貴族」というやつである。

そしてイオリことステラ本人も又、全くの無名であった。


「―――その時点では。なんてね」


改めまして、私はステラ。脳内小説家、とでも思ってくれたらいい。

ご察しの通り私は上機嫌だ。

つい先程、冒険者登録をしてきて、今から屋敷に帰るところである。


実は冒険者登録は12歳からできる。なのになぜ私がこの年で登録しているか、その理由は単純だ。


「ガイナスお父様と、マユお母様が過保護だから」


そう、うちの親は異常に過保護である。

最初の子供が事故で死んじゃったからなんだけど........

正直言って、うん迷惑。


「お嬢、さっきから何をブツブツつぶやいてるんですか」

「不気味です、ステラ様。やめてください」

「あ。いたの?」


私の両横に居るのは護衛のレンと、メイドのマイ。どちらも親が過保護である故に付けられたお供だ。そしてどちらも私の幼馴染である。


「いたの、じゃないですよ」

「レンと同意です」

「「誰があなたの親に許可取りに行ったと思ってるんですか!」」


冒険者登録の許可、かな?


「私」

「反省してください」

「マイ、無駄だ。どうせ旦那様たちはお嬢を信じるんだよ、事実を捻じ曲げてでも.... 」

「そうよ、うちのお父様ってそういう人だから」


いつもの無駄なトークだが、これが結構落ち着く。小さい頃からあまり外にも出ていかず、友達ができないため、こうやって他愛ない話をできる相手が二人だけなのだ。



―――あ、着いた。


二人と話していたらいつの間にか目の前に屋敷があった。


「マイ、行こー。........そこの人を置いて」

ここで少し、レンに悪戯を仕掛けてみる。


「はい。行きましょう、そこの人を置いて」

ふむ、どうやらマイも乗ってくれるらしい。


「お嬢、俺を置いてかないで下さい」


マイの黒い笑み。


「では行きましょう、ステラ様。そういえば先程、そこの人が無礼にも話しかけて来た気がするんですが気の所為でしょうか」


からの、飛びナイフ。勿論冗談だろうから本人はレンがそれを防御できる様に投げている――


「申し訳ございません、当たらなかったようです。私もまだまだですね」


―――筈だ。


マイさーん、幼馴染兼同僚を刺してはいけませんよー。


「いえ、彼個人を刺そうとしているのではなくただの鍛錬です。彼が偶然にも近くにいたので標的になっただけなので」


怖えぇ。標的が私になる可能性もあったわけだよね。


「あなたは一応私の主です。自身の今後の生活が侵されるような馬鹿事するわけ無いでしょう」


まあそうだけど。


そういえばさ、、、

マイさーん、完璧に心を読まないでくださーい。不気味なんで。


てかなんで読めんの?


「ステラ様の考えることぐらい解ります。単純ですから」


おぅ、今サラッとディスられた気がする。一応主なのに。

そして心読まないでくんない?


「お嬢、気がするじゃないです。完璧にディスられてます」


え、なに。うちの子たちって皆私の心が読めるの?

怖ーぃ。

で、なんで読めんの?そして、なんでわざわざ読むの?怖いからやめとくれ。


「はい、お嬢は顔に出てるんで」


おぅっふ。

それに、さっきから言ってるんだけど、さ。


「心を読むな!主をさらっとディスるな!そしてさっさと屋敷に戻らしてくれ!」


無駄な会話で結構時間を使った気がする。10分位だろうか。ちょっと馬鹿らしい。


「正確に言うと私達が男爵家の敷地に入ってから13分21秒ここに突っ立っております」

「......その報告、いらない」


余計馬鹿らしくなるだけだから。ね?


「申し訳ございません」

「いい、いい」


いちいちそんなことで謝らなくても。


「そうですか。それなら、もう一つ。奥様と旦那様と執事長のセバスさん+aは11分17秒前から玄関の向こうで待ち伏せしておりま――」

「謝らなくていいけども少しは学べい!」


ほんと疲れた。


「お嬢、お気の毒様」

「満面の笑みで毒吐いてる、この護衛...... こうなったら必殺技、、、お父様助けて!」


お父様は私が助けを求めると何故かいつでも聞きつけて来るのだ。

そして、お父様は少し脳筋である。


「お嬢、」

「ステラ様、」

「「やめてえぇぇぇぇ!」」


「うおぉどうしたステラ!!こいつか!レンなのか!すぐに解雇してくれるわぁぁぁ!」

「マイもよ――ってのは冗談で。何も助けはいらない。でも」


2人の解雇を止めるべく必殺技を撤回する......顔面蒼白の二人に何かを求めるように見つめながら。


「にこにこ、にっこにこにこ」


「「すみませんでしたぁ..... 」」


不服そうな顔の二人を半強制的に謝らせて、お父様を止めに入る。


「お父様――、」

「ステラ、無事か!」

「――うるさい」


最強技、題して「怒り」。ただしお父様のみに絶大な効果を発揮する。


「なっ!ステラぁー」


理不尽?うん、知ってる。


「この二人は私の大切な幼馴染だよ。解雇なんて絶対しちゃ駄目」

「「エステラ様....!」」


「うむぅ。分かった。ステラがそれでいいなら。でもなんかあったらすぐ言えよ!それから、冒険者稼業は土日だけ、必ず3人は護衛を付けてだぞ!!」

「へいへーい」


おおよそ貴族とは思えない口調で、余計な忠告を添えてお父様が去っていく。

本当に嵐のような人間だ。


「イオリ、本当に約束は守るのよ」

「ステラ、私は姉としてあなたが心配なのよ」

「ステラ、俺も君が心配なだけだ」


兄姉と母が過剰な心配を寄せる。


「イオリ様、守ってくださいね」

「「「「お嬢様、約束守ってくださいね!」」」」

「「「「エステラ嬢、マジで守ってください」」」」

「お嬢、ちゃんと約束守ってくださいよ」

「ステラ様、いい子にしていてください」


「「「「「「「「「「「被害は全てこちらに来るんで」」」」」」」」」」」


なぜか家主ではなく母に忠誠を誓うため、母と同じように私をイオリと呼ぶ執事長、その他メイドと執事たち、兵士の皆、レンとマイが口を揃えてクレーマーよろしく被害を訴え始める。

母たちは苦笑いである。


皆......ほんっとにごめんね?約束破る計画、既に立ててます。

それに、アレを止めることは私にもできない。マジごめん。


「お嬢、その計画今すぐやめてください」

「「「「「「「「「「やめてください!」」」」」」」」」」


しまった。


「あんたたち、私の心が読めるんだった.....」

「「「「「「「「「「「はい、非常に単純ですから」」」」」」」」」」」


流石に泣いた。

まあでもあれが平常運転なのだ。悲しすぎる。それなのに親と兄姉とはちゃんと主従関係築いてるんだから、悲しさ倍増だ。


「ぐすっ。ふわぁーあ」

「すぴーすぴー」


◇◇◇


その夜泣きながら寝た彼女は、まだ知らない。


「その時点では」全くの無名だった彼女が、奮闘の末に二つ名持ちの絶級冒険者となることを。


これは、様々な困難を乗り越えた末に冒険者の頂点に立つ、男爵家の令嬢のお話だ。

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