第11話 泥の檻の供給源
「くそうっ!」
悪態を叫び、卵未は足爪を振るう。
最初に飛んできた触手の群れは、斬撃に切り刻まれ。ぴょんっと横に来たエリカが、マントから残骸を喰らう。
その次は、3体のドッペルゲンガーが、手の先をどろどろに崩し飲み込まんとばかりに伸ばしてくる。
「甘い!」
卵未も易々と喰われる気は無い。翼を前に広げ体を隠すと、泥が触れる直前に横へ舞い避けた。
「闘牛士ですわねぇ」
ふふんとエリカは笑う。そして、からぶったばかりの泥たちを、マントでがぶりと喰らう。
「どうします、卵未さん」
「なにが?」
「今回の目標ですわ」
エリカは、ドッペルゲンガー達の攻撃を避けつつ、卵未に問う。
「彼らの全滅、被害者たちの救出、一時撤退しての増援。何をするかですわ」
「決まってる!」
翼を振るい、迫りくるドッペルゲンガー達を払い叫ぶ。
「被害者の救出だ!奴らを圧倒し、向こうに引いてもらう!」
「あっはっは!」
「無鉄砲!でも、それが良いですわ!」
エリカはそう叫ぶと、マントをくるりと翻す。
遠心力で、マントから黒ずんだ液体が飛び散り広がる。その液体は、空中で、獣の爪のように形を成す。
ぐるりと一回転。作られた獣の爪は、エリカの周りに這い寄って来たドッペルゲンガー数名を、無残にも真っ二つに引き裂いた。
あまりにも力技だ。華奢な見た目とは裏腹に、エリカは魔具を使ったパワータイプであると分かった。
恐ろしい戦い方だが、彼女が味方であるならば心強い。
「エリカ!私は沈んでいる人たちを助ける!邪魔されないように、防いで!」
「良いチョイスですわ。ふふん、任せなさいな」
お互いの視線が交差する。同意をとれると、卵未は沼の上に飛んだ。
室内で空中静止し、足爪で沈んでいる人間を鷲掴みにする。
すると、ドッペルゲンガーが阻止せんとばかりに卵未に向かって飛び掛かって来た。
だが、その一撃は卵未に届きはしない。その前に、エリカが割って入り、ドッペルゲンガーをはじいてしまった。エリカはまたもふふんと陽気に笑うが、その声もやはり頼りになる。
おかげで卵未は、沼に沈みかけている人間を引き上げるのに集中できそうだ。
しかし、引き上げつつもやはり無謀すぎたと感じる。彼らを助けた後、どうやって彼らを守る気なのだろうか?
エリカがこちらの気持ちにイエスと言ってくれたのはとても嬉しい。だが、一人助けた後、そのまま全員をどう助ければいいのか展望が見えてなかった。
一人無事引き上げて、もう一人を助けに行ったとしよう。沼の外に寝かせたとしても、エリカがこっちを護衛している間に、助けたばかりの人間を、もう一度沼に落とされるだろう。
せめてこの場にもう一人居れば。助けた人を連れていく役と、役割分担ができたかもしれないのに!
「……考えてても、仕方がない! こうなったら、助けた人一人ずつ、外へ連れてって逃がしてでも、全員助ける!」
卵未は猛烈に翼を羽ばたかせ、引っ張る。ごぽ、ごぽっと引き上げられた分だけ沼に空気が入っていく嫌な音が響き渡る。
「こら、やめろ!そんなことするな!」
ドッペルゲンガーは変わらず飛びかかる。だが、エリカが卵未の周りを飛び交ってはすべて防ぎ返す。
そうして、人間一人を沼から引きずりだすことに成功した。
「やった…!」
人間は意識が無い。今、生きてるかどうかも、見た目では分からない。だが、それでも引き上げれた。
「うぎっ!がぁっ!!」
その時だった。室内に、エリカの攻防によるものとは違う、別の絶叫が響いた。
いったいなんだ?と見て見れば、部屋の隅で、一人のドッペルゲンガーが胸を押さえてる。
「?いったいなんだ……?」
そのドッペルゲンガーは、両足を床について、息を荒く悶える。顔を上げると、憎しみの籠った眼でエリカを見つめるが。エリカはその時点ではっと気が付いた。
「!あいつ……この人のドッペルゲンガー!」
睨んできたドッペルゲンガーは、今しがた沼から助け出したばかりの人間のドッペルゲンガーであった。
「エリカ!」
「ええ!」
エリカは、声にこたえると、苦しんでいるドッペルゲンガーに向かって跳び込んでいく。
「この沼。供給源でしたのね!自分自身から生気を吸い上げ、力に変えている!」
エリカは、件の敵の前に立ち憚ると、一気にその首筋に噛みついた。
ドッペルゲンガーは、先ほどまでのような力を振るえず、叫び声もあげれずに飛沫をあげ倒れた。
弱い。明らかに弱くなっている。
2対多数の戦いであったが、戦いの光明が見えたようだった。
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