第4話 来世が現世になった日
卯未は自分に割り当てられた自室の前に帰って来た。
扉はハーピーの体に合うように、足元にかぎ爪を差し込み、引いて開ける仕組みに作ってもらっていた。
さっそく足先の爪をフックに差し込み、カチャっと音がしたのを確認して引く。
部屋内部は真っ暗。布団の無いつるつるとした表面のベッドに、机。部屋の正面にある窓には、暗い中ぼんやりと佇むビル群と雨の音だけが響いていた。
「はぁ…布団も恋しい」
ぽつりと独り言を言って、ベッドに倒れ込む。実際被って寝たいのだが、そもそも、この体に合わない。
羽が抜けでもしたら、布団に絡まるわ、それが寝返りの際に刺さるわで、人間なりのベッドメイクはハーピーの身では困難だった。
自分の羽があるからそこまで寒くはないが、かつてできた事ができないのも、さらに悩みを加速させるのだった。
寝る前に何かしておきたい事があるかなと少し悩んだが、任務以外でそんなものも無い。卯未は、そのまま約束の5時まで睡眠をとる事にした。
人間とは別に、それらに時折干渉する存在として姿を見え隠れさせてきた。長生きをする怪異である。
だが、最近になって生まれたのが。
後者とは、近年死んだ人間が、何を間違ったのか
生まれ変わるだけなら、普通に来世としてなにも気づかない、
だが問題なのは。生まれ変わった際に、記憶を持ったまま
死んだ魂はあの世に行かず、この世のどこか、森の中や、海の底、無人の廃墟。人間が見えないような空間に、気味が悪くも塵が集まるようにして形を作り生まれる。
そして、訳も分からないまま、魑魅魍魎の仲間入りを果たしてしまうのだ。
それが、先者に対しての後者だ。
卯未もまた、かつては人間であった後者だ。
最初に卯未が目を覚ましたのは森の中だった。強い痛みの後に、どれぐらい時間が経ったかも分からない、真っ暗な時間が過ぎた後。目を開けてみると、頭上には、高い木々が見えていた。
雨音が遠くに聞こえ、木々から雫が額に垂れてくる。
冷たい、って。咄嗟に手で額を遮ろうとしたら、自分の視界に入り込んできたのは、大きな翼だった。
自分はその時。ハーピーっていう魑魅魍魎の姿をかぶせられ、この世界に生みなおされたんだ。
ハーピーなんて、どこで暮らせばいいのかも分からない、体に。
驚きのまま飛び上がり、自分の姿を慌てて確認した。そして、なんでこうなったのか、曖昧になりかけていた記憶の中を思い返した。
探し続けた先にあったのは。
人とは思えない、大きな口。美味しそうだと言わんばかりの、にやけた顔。
自分が人間だった頃の、最後の悲鳴だけが残響した。
ちりりりり、ちりりり。
甲高い音がして目が覚めた。
朦朧とした頭で、壁越しに唸るような声が聞こえないことにぼんやり気づく。そうか、お隣の部屋に住んでる奴は、今は任務に出てるのか。
毎朝、それを聴いて起きるのもセットなんで、目覚めが悪い気もした。
「…なんてこと言ったら、お隣にどやされるか」
もう少し小さな音量で起きれるようになろう。
なんてことを思いつつ、床に置いておいた目覚まし時計を、足の爪で止めた。
部屋を出て、眠たげなふらふらとした足取りでビル内廊下を歩いていく。
今は5時、外はまだ太陽が出きってないが、それでもなんとなく明るい。
会社で目を覚まして、廊下をぼやぁっと歩きながら外からの日の出を受ける。字面だけ見ると、ブラック感満載な一文だが。実際に体感してみると、特別なお泊り体験みたいな感じがして、これは割と好きだった。
「しっかしまぁ…。任務終わってすぐに次の任務かぁ…。お隣も居なかったし、そんなに忙しいシーズンなのかな」
まあ、対処する相手は、いつ出るかも分からない魑魅魍魎なので、そんなシーズンなんてあるか分からないが…。もしかすると、時期ごとに大量発生とかあるのかもしれん。
眠たい頭でそんな想像をしていると、リーダーの居る元社長室に着いた。
「ふわぁ…。時間は…5分前か。 よーし、眠気冷まし、ねむけー…ねむい…」
窓の方を向いて、背伸びに外の光を浴びたりと、できる限りの眠気冷ましを試みる。
すると、背後からぽんぽんと肩を叩かれた。
「んー…?あぁ、おはようございまっ」
と、ふらり振り向いたところで。卯未の言葉は止まってしまった。
そこには白い霧の中、手だけが浮いていた。
「きゃああぁぁぁあああ!!!!」
目が一気に覚めて、みっともないぐらいに悲鳴を上げてしまった。
そのまま後ろに倒れてしまい、窓際の壁に頭を打ってしまう。
「いぎっ!いったあぁぁ……」
「ふふっ、あっはっは。ごめんごめん、まさか、そんなに驚きますなんて」
頭を羽で抑えていると、聞き覚えのある声が霧の中から聞こえてくる。
まさか、朝から会うなんて。
霧が徐々に集結していき、卯未の前に人型の形を作り出した。
「おはよう。よく眠れたかしら?」
「…エリカ、さん……」
そこには、昨日一緒に任務を受けていた
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