第44話窮鼠猫を噛む
悪徳経営者リッパーによって、オレたち三人の命が危険に晒されてしまう。
オレの支援魔法を受けて脱出を試みたマリーとレオンが、体当たりで巨漢の冒険者を吹き飛ばす。
「えっ? こ、これって、何が起きたの? いきなり人が飛んでいったんだけど⁉」
まさかのことに、マリーは目を丸くして足を止めていた。自分たちが何をしたか理解できずにいるのだ。
「「「なっ……⁉」」」
リッパーたち襲撃者たちは更に絶句していた。何が起きたか理解できていないのだ。
「お、お姉ちゃん……もしかしたらボクたちが、あの二人にぶつかって、吹き飛ばした……んじゃ?」
聡明な弟レオンは状況から推測する。
その推測は正しい。
支援魔法で全身の身体能力が強化されたマリーとレオンは、上手く曲がることができず、そのまま冒険者に体当たり。
結果として体当たりの要領で吹き飛ばしてしまったのだ。
「えっ……私たちが、あんな巨漢の二人を、体当たりで吹き飛ばした、の⁉」
マリーがまだ状況を理解できないのも無理はない。
何しろ彼女たちが吹き飛ばしたのは、筋肉隆々の大人の冒険者たち。
小柄な自分たちがどんなに全力でぶつかっても、逆にこちらに吹き飛ばされてしまう相手なのだ。
「あっ……も、もしかして、フィン……さんが?」
混乱していたマリーの視線が、こちらに向けられる。何かに気がついた様子。これならオレが説明しても、ちゃんと聞いて理解してくれるだろう。
「ああ、そうだ。オレのつたない支援魔法で、二人の身体能力を“少しだけ”強化しておいた。今のうちに大通りにいけ」
なぜオレの未熟な生活魔法レベルの支援魔法で、冒険者が吹き飛んだのか不明。
もしかしたらマリーとレオンは武術の才能を、隠し持っているのかもしれない。
だが今はそんなことを調べる時ではない。
二人が脱出する好機。
リッパーと他の冒険者たちは、まだ目を丸くして唖然としている。マリーとレオンが退避するには、今しかないのだ。
「こ、これがフィンさんの支援魔法……よく分からないけど、自分の身体が何倍も強くなったような、とにかく得体のしれない怖さしかないわ……」
「でも、お姉ちゃん。フィンさんの言う通り、今がチャンスだよ! 大通りに逃げて、助けを呼んでこようよ!」
「そ、そうね! それじゃ助けを呼んでくるから、フィンさん、無理をしないでね! いや……でも、あのフィンさんだったら心配する必要はないような……むしろやり過ぎて相手の人たちの命が……」
何やらブツブツ言いながらもマリーは、弟のレオンと立ち去っていく。見事な状況判断と行動力。
あの分なら無事に安全な場所に退避できるだろう。
「な⁉ ガキ供が⁉ おい、お前たち! あのガキ共を逃がすな! 今すぐ追うんじゃ!」
マリーとレオンが駆け出したことで、リッパーはようやく我に返る。
唖然としていた冒険者に、ヒステリックな声で命令を下す。
「だ、だが、リッパーの旦那。あのガキ供は普通じゃなかったぜ⁉」
「あのトムソンとサムの二人を、一撃で吹き飛ばすなんて、もしかしたら腕利きのガキじゃないでんすか?」
「ああ、だな。ガキでも生まれつきヤバイ奴はいるからな、この世にはな」
「話が違うぜ、これは」
雇い主リッパーの命令にも、冒険者たちは動かなかった。
何故なら彼らが受けた依頼は、なんの戦闘能力も持たないオレたち三人に危害を加えること。
だがマリーとレオンは体当たりだけで、武装した仲間を吹き飛ばす腕利きだった。
金よりも命を大事にする彼ら冒険者は、雇い主リッパーを疑い始めていたのだ。
「な、なんだと、キサマら⁉ くっ……それならガキ供はいい。それなら、あのフィンの方を確実に始末しろ! 金は最初の五倍支払う! ヤツだけは絶対に許すな!」
リッパーの命令が変更される。
どうやらヤツの最大の目的はボロン冒険者ギルドではなく、このオレなのだろう。
目に復讐の炎を燃やしながら、オレのことを睨みつけてきた。
「ひゅー、五倍っすか。了解した、旦那。おい、さっきのガキたちが戻ってくる前に、さっさと終わらせるぞ。お前ら!」
「けっけっけ……あんな素人を一人始末しただけで、五倍の報酬か。これは美味しいな」
「だな、さっさと終わらせて飲みにいこうぜ!」
冒険者たちの目の色が変わる。再びナイフや短剣を構えて殺意を剥き出しにしてきた。
マリーとレオンの退避路を塞いでいるオレを、ゆっくりと包囲してくる。
(オレ一人にターゲットを絞ってきたか……)
正直なところこれは有り難い相手の行動。
連中の会話の内容から、このまま引きつけておけば相手はマリーとレオンを追うことはないのだ。
(オレも頃合い見て退避するか? いや、それもマズイ展開になるかもな……)
正直なところこの場から退避することは、何故か簡単にできそうな気がする。
だがオレが姿を消してしまえば、こいつらは再びマリーとレオンを追う危険性があるのだ。
(つまりオレがここで時間を稼ぐ必要がある……な)
マリーたちが大通りで憲兵を呼んできたら、この状況はなんとか打破できるだろう。
そのために今のオレができる最善の行動は、この冒険者たちを足止めすることなのだ。
「ふう……さて、やるしかないか、状況的に」
意を決したオレは角材を構える。
刃物で武装したプロ集団に、こんな建材は通じないだろう。
だが追い詰められたネズミは時には、大きな猫を噛み返すこともある。
勝てる確率はゼロに近いが、オレも最後まで諦めないのだ。
(おっと、その前に“焼け石に水”だと思うが、この角材にも支援魔法をかけておくか)
こうして何の変哲もないない角材に支援魔法を発動して、オレは悪漢に抵抗するのであった。
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