冒険者ギルドのチート経営改革 魔神に育てられた事務青年、無自覚支援で大繁盛

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話報われなかった日々

「フィン、お前のような無能な事務員は、クビじゃ!」


 よく晴れたある朝。

 勤め先の冒険者ギルドが開店する前の事務室で、いきなりギルドマスターから“クビ”を言い渡されてしまう。


「ど、どうしてですか、ギルマス? オレ、何か失敗しましたか?」


「『オレ、何か失敗しましたか?』ではない。キサマは無能すぎるから、クビなのじゃ! 働いてからこの二年間、なんの成果も出さずにいたではないか⁉」


「あっ……それは……」


 強面のギルドマスター指摘してきたことは、間違いではない。

 オレの職種である事務員は、日々の事務仕事で成果を出すのが重要。だがオレはこの二年間、上司に報告できるような良い結果を出していなかったのだ。


「ふん! それみたことか!」


「で、でもギルマス。それでしたら事務員じゃなくて、支援者として雇ってください! それなら自信があります!」


 自分は事務仕事は苦手だけど、誰かを支援するのだけは得意な方。実はギルマスに内緒で、コッソリ冒険者たちの支援をしてきたのだ。


「はぁ? 何を、戯れ言をいっておるのじゃ? 事務員の分際で、支援者の仕事がしたいだと⁉ 冒険者ギルド経営の厳しさを舐めているのか、キサマ⁉」


「す、すみません……」


 この大陸の各地には、魔物が常に発生している。

 そのため魔物狩りを得意とする冒険者は、重要な職種。彼らを支える冒険者ギルドの存在も、かなり重要視されていた。


 この王都にも大小さまざまな冒険者ギルドがあり、互いに有力な冒険を取り合い、競い合っている。

 そんな厳しい状況だからギルドマスターは、使えない事務員のオレをクビにするつもりだなのだ。


「で、でも、ギルマス。今だから言いますが、オレの支援で……」


「うるさい、黙れ! キマサのような言い訳ばかりの無用者は、今すぐクビじゃ!」


「えっ、今すぐですか⁉ でも、それならボクの残してある、この仕事が……」


 オレは今、特殊な依頼書を書いていた。

 依頼人はかなり気分屋で、特別な地位の人物。『フィン以外の者とは仕事をしたくない!』と言いはる変人だった。


 だから、こんな急にクビにされたら、このギルドに迷惑が……いた、危険が及ぶかもしれないのだ。


「ふん! そんな依頼書など、ワシや他の優秀な職員で、どうにでもなる! ほら、早く立ち去らなければ、不法侵入罪で憲兵に突きだすぞ!」


「け、憲兵に⁉ はい、分かりました……」


 理不尽な上司とはいえ、まさか憲兵に突きだすと言われるとは、夢にも思ってもなかった。オレはしぶしぶ従うことにした。


 机の私物だけ、リュックに詰め込む。

 引き継ぎの書類は、そのまま机に置いていく。でも本当に大丈夫かな。


(ふう……このグラつく机とも、さよなか……)


 オレは山奥で師匠に育てられ、二年前に王都にやってきた。偶然見つけた求人票で、この冒険者ギルドの事務員となる。


 お世辞にも上司や同僚には恵まれなかったが、一生懸命にギルドのために尽くしてきたつもり。

 そんな思い出の二年間の苦楽を共にした自分の机と、今日でいよいよお別れとなるのだ。


「おい、早く、そこをどけろ! クズ・フィン!」

「遅ぇんだよ、ノロマ・フィン!」


 そんな時、同僚たちから怒声が飛んできた。山奥から出てきたオレのことを、最初から馬鹿にしてきた連中だ。


 オレの方が仕事を頑張っていたのに、彼らはいつもサボってばかり。彼らが得意なのは上司ギルマスに、媚びを売ることだけなのだ。


「……お待たせしました。机どうぞ」


「はぁ⁉ 机どうぞ、じゃねんだよ! その机は捨てようと思っていたんだよ!」


「ああ、そうだぜ! 早く出ていけ! お前のような無能が、居なくなると思うと、せいせいするぜ!」


 二人の同僚は凄んで、威嚇してきた。刃物は抜いてはいないが、明らかに攻撃的な姿勢だ。


「……では、失礼します」


 でもボクは反論することなく立ち去る。ここで何を言っても、ギルドの人たちは何も変わらないかだ。


「あっはっはっは……じゃあな。フィン。せいぜい次の職場でも頑張りな!」

「おい、おい、あの無能君が再就職なんてできると、思っているのか⁉」

「たしかに! はっはっは……!」


 そんな酷い罵声を聞きながら、ボクはギルドから出ていく。

 後ろでは『今宵は邪魔者がいなくなった祝い会をしようぜ!』と酷い笑い声がする。


 ボクは聞かないようにして、ギルドから急いで離れていく。


「はぁ……本当にクビに……無職になったのか……」


 一人になって残酷な現実を受けいれる。何とも言えない虚無感に襲ってきた。


「でも、後悔しても仕方がない。生きていくために、次に進もう。さて、まずは次の仕事を探そう!」


 こうしてオレは大手冒険者ギルドを解雇され、生活のために新しい仕事を探すのであった。


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 ――――だが追放し大手冒険者ギルドの者たちは、知らなかった。


 実はフィンは大陸でただ一人天帝級な支援魔術師の才能を有することを。


 そしてギルドがここ二年間、絶好調だったのは、フィンが影ながら支援していたことを。


 フィンがいなくなると行政が悪化して、更に大問題が引き起こることを。


 何も知らずに追放した大手冒険者ギルドは、これから一気に衰退していくのであった。

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