第35話歓迎されざる者
新生ボロン冒険者ギルドの受付業務が、順調になってきたある日。
ギルドは強制調査の手紙が届く。
「えっ⁉ 強制調査って、それって、な、何ですか⁉」
初めて目にする強制的な書類に、新人経営者のマリーは混乱する。何が起きたかまだ理解できていないのだろう。
「も、もしかして、ウチは廃業に⁉ そして私も経営者として逮捕されちゃうの⁉」
あまりの混乱ぶりに、予想外の妄想をして顔を真っ青にしていた。
これは冷静に説明してやる必要がある。
「オーナー、落ち着いてください。強制調査といっても、そこまで早急なものではありません。あくまでも“調査”されるだけです」
「えっ、調査だけ?」
「はい、そうです。この書類を簡単に説明するなら『ボロン冒険者ギルドには怪しい点が何個かある。そのために公正取引委員会として調査する』という内容です」
公正取引委員会は国の公な機関。王都内の各ギルドを公平に調査するのが主な仕事だ。
彼の仕事内容は、各ギルドの不正や癒着、賄賂などがないか調査することだ。
「な、なるほど、そうだったんですね。それならウチは大丈夫ですよね⁉ だって、やましいことは何一つしていないですよね、たぶん⁉」
「はい、もちろんです。ですが、いきなり強制調査の勧告書が届く、ということは“何か”があったのかもしれませんね」
普通の冒険者ギルドには、いきなり“強制調査の勧告書”は届いたりしない。普通ならその前になんらかの警告書などがあるはず。
つまり今回の強制調査には、何か裏がある可能性が高いのだ。
「えっ、裏⁉ ちょっと怖くなってきたんですけど……」
「安心してください。オーナーは普段とおりに仕事をしておいてください。必要な書類はオレの方で全部用意しておくので」
「あ、ありがとうございます! 頼りにしています、フィンさん! あー、心の臓が口から出てきそうなくらいに緊張してきたわ! でも頑張らないと、私も!」
書類によると調査は、今日の午後に行われる。
色々と考えすぎのマリーは、既に緊張が限界に達しようとしていた。
だがオーナーとしてできることを本人なりに一生懸命やっている。彼女はまだ未熟な経営者だが、これもマリーの長所だ。
(だが公正取引委員会の強制調査か……何事も裏がなければいいが)
こうして落ち着かない午前は、あっとう間に過ぎていく。問題の調査が行われる午後の時間がやってきるのであった。
◇
昼食時間が過ぎた、午後いちの時間。
「失礼するぞ」
ボロン冒険者ギルドに、一人の男が入ってくる。雰囲気的に明らかに冒険者では
ない。
「私は王都公正取引委員会の筆頭調査官“ケンジー=ヒニリス”だ」
やってきた男は、通達のあった帰還の調査官。四十代半ばの神経質そうな眼鏡の男性だ。
身分証を見せながら、受付カウンターに向かってくる。
そんな調査官の顔を見て、ギルド内の冒険者がザワつく。
「……おい、あの男って、もしかして?」
「ああ、公正取引委員会の
「あんな陰険で神経質な奴が来るなんて、このギルドも可哀想に……」
「ああ、そうだな。奴に難クセをつけられて、潰れたギルドは両手では足りないからな……」
どうやらベテラン冒険者の中では、今回の調査官は有名な人物らしい。
彼らはかなり嫌悪の視線を、神経質そうな調査官に送っていた。
「“強制調査の勧告書”は届いていたと思います。このギルドの経営者はいますか?」
一方でヒニリス調査官はそんな視線におかまいまし。受付カウンターに令状を見せてくる。
「は、は、はい。私が経営者です!」
緊張のあまり裏声になってしまったマリーが、受付カウンターに向かう。その足取りは震えていて、顔は真っ青になっていた。
「ほほう? あなたのような若い女性の方が経営者でしたか……これは噂通り何かホコリが出てくるかもしれませんね」
こうしてボロン冒険者ギルドに、危険な強制調査のメスが入るのであった。
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