第26話不死王

 盗賊ギルドから受注したのは、高額すぎる怪しい除霊の依頼。

 調査のために足を踏み入れた屋敷にいたのは、超上級アンデットの“不死王リッチ”だった。


「こんな王都の真ん中で、まさかの“不死王リッチ”⁉ フィ、フィンさん、逃げましょう! って、足が動かない⁉」


 逃走しようとしたマリーの様子がおかしい。口は動くが足は石のように固まって、床から離れない様子だ。


『このワシ……“不死王リッチ”ガフィアンの屋敷に無断で入り込んで、無事に逃れられると思っていたのか? カッカッカ……』


 ガフィアンと名乗ってきた“不死王リッチ”は、不気味な笑い声をあげる。

 魔物辞典によると“不死王リッチ”の視線は、生ある者の動きを束縛する効果があるという。マリーに対して発動したのだ。


 これはマズイ状況。なんとか解決をしないといけない。


「ガフィアンさん。挨拶が遅れましたが、我々はボロン冒険者ギルドの職員です。今回は盗賊ギルドから依頼を受けて、ここに事前調査にまいりました」


 ガメツンから預かった盗賊ギルドの証を見せつつ、“不死王リッチ”ガフィアンに事情を説明する。

 今回は無断で屋敷に入ったのではない。だからマリーの拘束を解いて欲しい、と伝える。


『なんじゃと⁉ 冒険者ギルドの事前調査だと? そうか、奴らは自分たちの手で負えなくて、冒険者ギルドごときに依頼をしたのか。まったく情けない連中じゃ』


 こちらの説明を聞いて、ガフィアンは不機嫌な顔になる。


 いや、厳密にいえばフードの下にあるのは、骸骨面で表情はない。だが盗賊ギルドに幹部に対して、明らかに嫌悪感を発していた。


「そちら側にも事情はあると思います。ですが、ここで争っても解決にはなりません。そこで申し訳ありませんが、うちのオーナーの拘束を解放してくれませんか?」


 基本的に冒険者ギルドは依頼人の事情を、深く探らないのがマナーとされている。

 オレの予想だと今回は、盗賊ギルドの内部でのいざこざに違いない。だから冒険者ギルド職員として穏便に済ませたいのだ。


『カッカッカ……今のワシを何だと思っておるのだ⁉ 不滅不死の究極の存在である“不死王リッチ”だぞ! キサマらのように勝手に屋敷に入り込んできた虫けらを、許すと思いっていたのか⁉』


 ガフィアンの口調が急に強くなる。もしかしたら怒りをかってしまったのかもしれない。

 相手の全身から負の魔力が発せられ、屋敷全体が地震のように揺れていく。


「ひっ⁉ 地震が⁉ わ、わたしのことはいいので、フィンさんだけでも逃げてください! その代わりレオンとギルドの再建のことはお願いいたします……」


 死を覚悟したマリーは、弟とギルドのことを託してくる。涙目で見つめてきた。


『カッカッカ……二人とも逃がしはせんぞ! 魂ごと消滅させてくれるぞ! 《暗黒死滅デス・クリムゾン》!』


 だがそんなマリーの想いを打ち砕くかのように、ガフィアンは暗黒魔法を詠唱。対象者の肉体と魂を、地獄の瘴気で打ち砕く魔法だ。


「ひっ⁉ おじいちゃん、レオン、ごめんなさい……」


 死を覚悟したマリーは、小さく悲鳴をあげる。大事な家族の名前を呼んで、瞳を閉じる。

 これから自分が味わう地獄の痛みに対して、覚悟を決めていた。


「…………ん?」


 だがマリーが地獄の痛みを感じることは、永遠になかった。

 不思議に思った彼女は、おそるおそる目を開けて、自分の身体と周りを確認する。


「えっ……生きている、わたし? もしかしたら“不死王リッチ”が温情で魔法を止めてくれた? って、違う⁉」


 元凶である“不死王リッチ”に視線を向けて、マリーは驚きの大きな声をあげる。

 なぜなら相手の様子が豹変。幾重もの漆黒の鎖によってガフィアンは拘束されていたのだ。


『な、なんじゃ、この鎖は⁉ どうして、《暗黒死滅デス・クリムゾン》が発動できん⁉ なぜ、ワシの身体が動かないのだ⁉』


 驚いていたのは“不死王リッチ”ガフィアンも同じ。まったく動けなくなった自分の状況に、初めて動揺した声でもだえていた。


「ガフィアンさん、それは【不死拘束アンデット・アクセサリー】といいます。申し訳ありませんが、あなたの力の8割ほど減退させていただきました」


 ガフィアンを漆黒の鎖で拘束した犯人はオレ。

暗黒死滅デス・クリムゾン》でマリーに危害を加えようよしていたから、仕方がなく対アンデット用の魔法を、無詠唱で発動したのだ。


『【不死拘束アンデット・アクセサリー】だと⁉ そんな特殊魔法を人族ごときが使えるはずはない⁉ これは何かの間違いだ! くっ……こうなったら……破壊してやる!』


 現実を受け入れないガフィアンは、無理やり暗黒魔法を発動しようする。

 だが【不死拘束アンデット・アクセサリー】の拘束力は絶対。このままでは魔力が暴走して、ガフィアンは自爆してしまう。


「今はまだ死なれては困ります。【不死拘束アンデット・アクセサリー・強化】」


 ガフィアン自爆されたら、冒険者ギルドとして依頼が出せなくなってしまう。

 相手をおとなしくさせるため、オレは【不死拘束アンデット・アクセサリー】を更に強化発動。

不死王リッチ”としての力の99%を封じ込める。


『…………』


 ほとんど力を封じ込められ、ガフィアンの動きが止まる。もはや言葉を放つこともできず、魔力を集中することもできない不可能。俗に言う置物状態になった。


 ふう……これで他人に危害を加えること、二度とできないだろう。なんとか一安心だ。


「さて、事前調査が終わりました。一回、ギルドに戻りましょう、オーナー?」


「へっ? い、今、な、何が起きたんですか、フィンさん?」


「説明はギルドに戻ってからします。それよりも今は登録冒険者に、今回の浄化の依頼を出しましょう」


「へっ? はい? ん? って、フィ、フィンさん、置いていかないでください!」


 色々あったが盗賊ギルドから受けた依頼の、事前調査は無事に終了。ボロン冒険者ギルドに戻ることにした。


 ◇


 戻ったらライルとエリンの二人組が、ちょうどギルドに顔を出していた。エリンは見習い神官で、初級の浄化魔法も使える。


「簡単なアンデットの浄化の仕事があります。よろしくお願いいたします」


 ギルドの依頼として置物状態となったガフィアンを浄化してもらう。


「えっ……超危険なアンデットの“不死王リッチ”の浄化が……こんなにも簡単に終了……したの? えっ?」


 マリーはまた変なことを言っているたが、こうして今回の依頼は無事に終了するのであった。

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