第27話今回の依頼の〆

不死王リッチ”の討伐が無事に終わり、盗賊ギルドに報告する。

 今日もマリーと二人で来訪、昨日と同じ地下室に案内された。担当者のガメツンに報告していく。


「……という、訳で依頼は、このように無事に完了しました。こちらが報告書です」


 今回は相手の希望で、あまり深く詮索しない。そのため『アンデット“不死王リッチ”浄化』の簡単な報告書だけを提出する。


「…………」


 報告書を流し読みし、ガメツンは無言だった。眉間にしわを寄せながら、複雑な表情をしている。

 もしかしたら報告書の書き方に、何か問題でもあったのだろうか。


「いや、報告書は特に問題ない。現場も今朝、オレもこの目で確認してきた。“問題のアンデット”も無事に浄化されていた。依頼は完璧だ」


 ガメツンは報告書を閉じて、急に神妙な表情になる。


「だが、あんな危険な相手を、“たった半日”でどうやって浄化したんだ、フィン? 見張りの話では『どう見ても駆け出し冒険二人が、昨日屋敷に入っていって、何事もなく出てきた』らしい。だがオレも素人じゃねぇ。あの屋敷にいたアンデットは、駆け出し冒険者の手に終えるレベルじゃねえはずだ?」


 盗賊ギルドが確認した冒険者は、ライルとエリンの二人組。

 昨日何が起きたのか? ガメツンは不思議がっているのだ。


「申し訳ありません、ガメツンさん。“その辺”は“企業秘密”ということで、教えることはできません。盗賊ギルドさんにも色々あるように、冒険者ギルドにも色々あるんですよ」


 今回はオレが【不死拘束アンデット・アクセサリー】で、“不死王リッチ”ガフィアンの力を99%以上弱体化。マリーを守るための咄嗟の判断だった。


 だが本来、ギルド職員が依頼に介入するのは、あまり好ましくないこと。だから“企業秘密”ということで言葉を濁しておく。


「企業秘密か……そうだな、お互いに詮索はなしだな。さて、それじゃ、これが約束の3,000ペリカだ。確認してくれ」


 諦め顔でガメツンは部下に金を用意させる。

 こちらに渡されたのは、一枚100万ペリカ硬貨が三十枚。魔道白銀で作られた特別が高額硬貨だ。


「はい、たしかに。間違いありません。こちらが受取証。これで今回の依頼は完了ですね。それでは失礼します」


 金を受け取りマリーと席を立つ。

 盗賊ギルドは内部のことを知られるのを極端に嫌がる。仕事が終わったら、さっさと立ち去るのがマナーなのだ。


「あっ……フィンさんよ」


 地下室を出ていこうとした時、ガメツンが声をかけてくる。『さん付け』で何やら、今まで雰囲気が違う。


「また、あんたを指名して、仕事を発注していいか?」


「はい、もちろんです。いつでもよろこんで飛んでまいります!」


「ああ、そうか。その時はよろしく頼むぞ」


 どうやら今回の仕事のデキが、先方に気に入ってもらったようだ。ギルド職員としては有りがたいこと。

 深くおじぎをして、盗賊ギルドを立ち去っていく。


 ◇


「ふっ、ふう……緊張しましたね……」


 貧民街スラムを抜けたところで、同行者マリーが口を開く。どうやら今まで緊張で口を閉じていたらしい。

 今まで口を開かなかった分、疑問を口に出してきた。


「そういえばフィンさん。今回の事件は不思議でしたね。どうして盗賊ギルドは、あんな“不死王リッチ”の浄化を、依頼してきたんですかね?」


 彼女がずっと一番気にしていたのは、“不死王リッチ”ガフィアンの件。

 普通、盗賊ギルドはアンデットの浄化は頼んでこない。特に“不死王リッチ”という特殊なアンデットだったことが、マリーは引っかかっているのだろう。


「なるほど、その件ですか。これはオレの独り言なので、聞き流してください、オーナー。実は今から二週間ほど前、王都の盗賊ギルドの大幹部の一人が、不慮の事故で亡くなりました。その人の名は“ガフィアン”だったはずです」


「えっ⁉ それって、つまり、あの“不死王リッチ”は盗賊ギルドの大幹部の人だったの⁉ でも、どうして盗賊が“不死王リッチ”になっていたんですか⁉」


 魔物辞典によると、“不死王リッチ”は高度な知識と知恵を兼ね備えた賢者が、自らの意思でアンデット化した特殊な存在とされている。

 一般的に盗賊は魔法のイメージがない。マリーは不思議がっている。


「実は盗賊ギルドの中には、“呪術毒薬”を研究する特殊な部門があります。おそらくガフィアンさんは生前、その部門の専門者だったのでしょう」


 一般的には知られていないが、盗賊ギルドは大きく分けて八つの部門がある。その中には魔術師のように“呪術毒薬”を研究している部門もあるのだ。


 その部門に属する者たちは、特殊な技術と知識を有している。彼らは盗賊ギルドのメンバーでありながら、魔法は呪術にも精通しているのだ。


 その部門の大幹部であるガフィアンは、“不死王リッチ”化する方法を入手。自らを“不死の王”たる身体に、変えてしまったのだろう。


「そ、そういう部門もあったんですね。ん? ということは、今回は盗賊ギルド内で何か問題が起きていた、んですか?」


「そうですね。ここ一ヶ月間、王都の盗賊ギルドの大幹部同士で、派閥争いが起きていたようです。ガフィアンさんが、“不死王リッチ”化したのも、それが原因なのでしょう」


 王都の盗賊ギルドは一つしかないが、内部には複数の派閥に別れている。

 特にここ一ヶ月間、ある大きな派閥の『跡目争い問題』が起きている、とオレは耳に挟んでいた。

 おそらくガフィアンは自分の派閥を守るために、“不死王リッチ”化したに違いない。


 だが盗賊ギルドメンバーが、“不死王リッチ”化したなど前例がない。そのため他の大幹部たちはガフィアンを始末したかった。


 だが盗賊ギルドはアンデットに対して専門家ではない。

 またアンデット化としたとはいえ、ガフィアンさんは盗賊ギルド大幹部。メンバーの誰かが手を出してしまったら、更に揉め事が起きてしまう。


 そのため公共依頼をいうことで『何も事情を知らない冒険者ギルドが、屋敷を占拠していたアンデットを浄化してしまった』ということに、盗賊ギルドはしてしまったのだろう。


「えっ? それって、つまり私たち冒険者ギルドが利用された……ということですか?」


「やぶん、そうですね。あと3,000万ペリカという高額な依頼金には、間違いなく口止め料も含まれていたのでしょう」


 一般的な相場でも、“不死王リッチ”の浄化はそんな高額ではない。つまり盗賊ギルド側からの警告も、依頼料に含まれていたのだ。


「うっ……噂には聞いたことがある“口止め料”ですか。なんか怖いですね、大人の世界は……」


「そんなに怯えなくも大丈夫ですよ、オーナー。余計ない詮索さえしなければ、盗賊ギルドはなんもしてきません


 一般的に犯罪者集団のように思われているが、王都の盗賊ギルドは意外と義を重んじる組織だ。

 それにこちらが属する冒険者ギルド協会も、王都では大きな力を持っている。オレたちが敵対しないかぎりは、向こうから手を出してこないのだ。


「なるほど。分かりました。それにしても随分フィンさんは、盗賊ギルドの内情に詳しいですね?」


「実は盗賊ギルドの中に、“少しだけ階級が高い人”がいまして、たまに相談に乗っていたんです」


「うっ……フィンさんが思っている“少しだけ階級が高い人”ですか。嫌な感じしかしないので、これ以上は聞かないようにします」


 マリーは何かに怯えてプルプルしているが、依頼は無事に完了。ボロン冒険者ギルドの初の公共依頼は無事に終わった。


 二人でギルドに戻っていく。


 ◇


「ん? なに、あの人だかりは⁉」


 マリーが驚きの声を上げる。

 ボロン冒険者ギルドの入り口に、見たこともないような人だかりが出来ていたのだ。


 いったい、どうしたのだろうか。

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