第28話行列対応
「ん? なに、あの人だかりは⁉」
マリーが驚きの声を上げる。
ボロン冒険者ギルドの入り口に、見たこともないような人だかりが出来ていたのだ。
「とりあえず中に入りましょう、オーナー」
見た感じ人だかりは、何かの順番待ち。職員であるオレたちは非常口から中に入り、状況を確認することにした。
「あっ、フィンさん! お姉ちゃん、ナイスタイミング!」
帰宅したオレたちを見つけて、留守番のレオンが声を上げる。何やらかなり忙しそうにしていた。
「大丈夫、レオン⁉ この人たちはなに⁉」
「お姉ちゃん、この人たちは新規登録者だよ! さっき急に押し寄せて、対応に困っていたんだよ!」
「えっ、新規登録者⁉ どうして、こんなに沢山の人たちが⁉ しかも急に⁉」
「ボ、ボクも分からないよ。兎に角急に押し寄せてきたんだよ!」
二人が驚くのも無理はない。昨日まではボロン冒険者ギルドには、四人ちょっとの登録者しかいなかった。
それなのに今は別の状況。冒険者たちがギルドの中に入りきれず、外まで並んでいるのだ。
「二人とも落ち着いてください。今とはとにかく、新規登録者の対応をするのは先です。まず三人で受け付けていきましょう」
「「は、はい!」」
客を待たせないのは、ギルド職員としての大事な仕事。三人で受付カウンターに立って、新規登録者の希望者の対応にあたる。
「当ギルドへ、ようこそ。それでは少し話を聞いてもよろしいですか?」
オレは前回のライルとエリンの時と同じように、登録希望者たちから話を聞いていく。
聞いていく内容は、今までどこかの冒険者ギルドに登録していたか? それとも新規登録者か? など。
「では冒険者カードを」
以前も別な所で登録していた場合は、冒険者カードの確認をして再登録の作業。
新規登録者の場合は登録書にサインしてもらい、新しい冒険者カードを作成する。
「登録を済んだ方は、そちらの依頼の張り出しを確認しておいてください。並んでいる方の登録者作業が終わったら、すぐに依頼も受けられます」
登録を終えた冒険者は、別の場所に移動してもらう。こうすることで行列が解消されて、人の流れの“動線”が出来ていくのだ。
「あっ、こっちが空きましたよ! どうぞ!」
「次の方は、こちらにどうぞ!」
マリーとレオンも一生懸命に対応していく。三人で登録作業を行っていくと、行列は段々と減っていく。
今度は逆に増えていくのは、依頼の掲示板の前。狙いの依頼が決まった冒険者たちだ。
「オーナーとレオン君。登録作業は二人に任せます。オレは依頼の説明をしながら、依頼を発注してきます」
「「はい!」」
姉弟は何組も登録作業をして、慣れてきた。二人に任せて、オレは次なる仕事に取りかかる。
「お待たせしました。それでは受けたい依頼があったら、こちらで受け付けます。あと新規登録者の方で依頼内容が分からない方は、お気軽に訊ねてください」
次なるオレの仕事は依頼を出すこと。新人の冒険者を優先的に、初級の依頼を出していく。
「なるほど、その依頼ですか。ですが、こちらの依頼も見てもらってもいいですか? この依頼の方が皆さんのパーティー構成には向いていると思います」
新人冒険者に対しては依頼を聞きつつ、適切な依頼を提案もする時もある。
何しろ冒険者のパーティー構成は千差万別。戦闘系のパーティーもあれば、探索者や採取が得意なパーティーもある。
冒険者ギルドの職員の仕事は、ただ相手の依頼の容貌を受けるだけではない。
『その冒険者パーティーにとって今一番適切な依頼を見極め、角が立たないように提案する』ことも、重要な仕事なのだ。
「提案を受けてくれてありがとうございます。あっ、肩にゴミが付いているので、取ってあげますね。はい。ではお気を付けていってらっしゃい」
適切な依頼を出して、初心者冒険たちを見送る。
その時に『肩のゴミを取るフリをして、こっそり支援をかけておく』ことも、オレは毎回忘れない。
何しろ駆け出し冒険者は、まだ危険な依頼に慣れていない。
彼らが安全に成功するように祈願する。こうした隠れた心遣いも、ギルド職員の仕事なのかもしれない。
そんな対応をしている内に、ギルド内の冒険者の数はどんどん減っていく。登録が済み、依頼を受けて、次々とギルドを出発していったのだ。
◇
全ての冒険者への対応が終わる。
ギルド内にはオレたち職員しかいなくなった。
「ふぅ……ようやく終わったわね……」
「そうだね、お姉ちゃん……」
全ての仕事が終わり、マリーとレオンは感慨深く息を吐き出す。慣れない仕事に全力投球で、精神的にも疲れているのだろう。
「お疲れ様です、二人とも。お陰様でスムーズに対応できました」
疲れて座りこんでいる姉弟に、オレは冷たい水を差し入れする。この言葉はお世辞でもな何でもない。
本当にこの姉弟は頑張ってくれた。
冒険者の登録と依頼出しの仕事は、二人はほとんど初めての経験だったはず。
だがマリーは持ち前の元気の良さと行動力。レオンの頭の回転の速さで、必死に対応していたのだ。
「ありがとうございます、フィンさん! ごくごく……うん、すごく美味しい!」
「ごくごく……ありがとう、フィンさん。本当に美味しいわね。というか、こんなに冷たい水とコップは、どこから出したの? って、それは聞かない方が、わたしの身のためね……」
オレが【収納】から取り出した冷水を飲んで、二人に笑顔が戻る。
“少しだけ元気になる魔法”をかけてある水だから、すぐにでも体力は回復するだろう。
「ふう……それにしても随分と凄い申し込み者だったわね。どうして、いきなり急にあんなに来たのかしら?」
ひと息ついて、マリーは再び疑問を口にする。
昨日まで当ギルドには、ほとんど申し込み希望者がいなかった。
だが今日になって、事件のように冒険者が押し寄せてきたことが、どうしても分からないのだろう。
「オーナー、たぶん原因は“この紙”です」
オレが見せたのは一枚の紙。顔見知りの冒険者から、先ほども対応しながら貰ったものだ。
「えっ? これって……?」
紙の内容を確認して、マリーは更に不思議そうな顔になるのであった。
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