第29話繁盛の理由
昨日までは閑古鳥が鳴いていたボロン冒険者ギルド。
だが今日になって急に、大量の登録希望の冒険者が押し寄せてきた。
「オーナー、たぶん原因は“この紙”です」
オレが見せたのは一枚の紙。顔見知りの冒険者から、先ほども対応しながら貰ったものだ。
「えっ? これは……うちの宣伝?」
紙に書いてあったのは、ボロン冒険者ギルドについて。住所や営業時間、長所などが書いてある。
でも、こんな宣伝チラシを自分たちは作っていない。確認してマリーは更に不思議そうな顔になる。
「これは外部の人が作ったもの。つまり“紹介状”ですね、オーナー」
「紹介状? でも、いったい誰が?」
マリーが更に首を傾げるのも無理はない。紹介状の中には、製作者当人の名前が書かれていないのだ。
「この下の印を見てください。“毒バラ”の文様があります。つまり、これは“ヤハギン”さんから、紹介状でしょう」
紹介状の下に小さく押されていたのは、見覚えがある“毒バラ”の印。名前は書かれていないが間違いなく、薬師ヤハギンの印だ。
「えっ、“あの”ヤハギンさんが、ウチのことを紹介を⁉ でもどうして?」
「たぶん、登録冒険者が少なすぎる内の現状を見て、気を使ってくれたのかもしれません」
先日、薬師ハヤギンは多くの依頼を発注しにきた。その時にボロン冒険者ギルドの現状を知る。
そこで気を使い紹介状を作成。知り合いの冒険者に渡して、結果として口コミで新規登録者がきたのだろう。
だが紹介状を渡しただけで、あれだけの数の新規登録者が押し寄せるとは、相変わらず不思議な薬師だ。
「“あの”ハヤギンさんが紹介してくれたなら、今回の人数の多さは納得ね……」
「そうだね、お姉ちゃん。それに紹介状にはフィンさんのことを書かれているから、それも要因だったのかもね!」
マリーとレオン姉弟は何やら会話をしている。オレの知らないヤハギンの顔の広さを知っているのだろう。
「あと、オーナー。紹介状は一種類だけはありません。こっちの紹介状はおそらくゼノスさんが書いたものです」
紹介状は他にもあった。こちらには印は無いが、特徴ある文字からすぐに分かった。間違いなくゼノスの字だ。
「えっ、ゼノスさん、って、あの冒険者ギルド協会の副理事長の⁉ それも凄いわね! って、いうか協会のお偉いさんが、一介の冒険者ギルドを紹介なんかして、大丈夫なの⁉」
マリーが疑問に思うのも無理はない。
基本的に協会は中立な立場で、一個だけの冒険者ギルドをえこひいきにするのはマズイ。他の冒険者ギルドから協会に対して、クレーンが発生する危険性があるからだ。
「今回、その心配は不要だと思います。この紹介状の書き方からして、個人的にオススメしています」
ゼノスの書いた紹介状は、あくまでも“元冒険者ゼノス”として内容。副理事長としての効力はない。
だが腕利きの冒険者“鬼戦斧ゼノス”の知名度は、今でも王都で高い。そのために多くの冒険者がウチに登録にきたのだろう。
「なるほど、そういうことか。それでも、協会の副理事長に紹介されるなんて、大変なことになったわね……」
「そうだね、お姉ちゃん。きっとこれもフィンさんの今までの功績のお蔭だね!」
またもやマリーとレオン姉弟は、何やら納得していた。特にレオンは尊敬の眼差しで、オレの方を見つめてくる。
「あら? この三種類目の紹介状だけは変ね? 誰のサインも印も押されてないわね? いったい誰の紹介状?」
マリーは一枚の紹介状を手に取り、再び首を傾げる。
彼女が指摘した通り、三種類目の紹介状には当人の印が何も無い。文字にも特に特徴はなく、判別は難しそうだ。
「あっ、その紹介状の犯人は簡単です。この文章を見てください、オーナー」
「この文章? えーと、『我が永遠の友フィンが、新たなるギルドに! 最強を目指す全ての冒険者を、ここに集え!』……って、この変な文章は、もしかして⁉」
「はい、間違いなく、ガラハッドさんです」
オレのことを『我が永遠の友フィン』という変な呼称してくるのは、あの少し個性的な剣士しかいない。
ここ数日間、ギルドに顔を出さないと思っていたら、こんな紹介状を書いて宣伝活動をしていたのだ。
普通の冒険者は自分の登録ギルドを、ここまで宣伝紹介はしない。まったく格好と言動が奇妙なだけではなく、あいかわらず行動も奇妙な人だ。
「ま、まさか“あの剣聖”から紹介されるなんて……」
「本当だね、お姉ちゃん。これも剣聖にすら慕われているフィンさんの人柄と、今までの功績のお蔭だね!」
またもやマリーとレオン姉弟は、何やら納得していた。レオンに至っては『まるで神を崇めるかのように』オレの方を見つめてくる。
「ふう……とにかく、フィンさんのお蔭で、とんでもないことになってきたわね。明日からも忙しくなりそうだけど、ウチらだけで大丈夫かしら?」
マリーが心配しているのは、ギルド職員の人数について。現在はボロン冒険者ギルドには職員は三人しかいない。
基本的にオーナーのマリーと、オレが営業活動に出ることが多い。
その間の留守番は、十歳のレオンだけ。いくらレオンが優秀でも、今日のように冒険者が押し寄せてきたら、たった一人では対応は難しいのだ。
「それならオーナー。ウチもそろそろ雇うタイミングかもしれませんね」
「えっ、タイミング? なんのですか?」
「それはもちろん『受付嬢を雇う』タイミングです」
「えっ⁉ 受付嬢を? たしかに受付の人は欲しいですが、男の人だと駄目なんですか?」
「はい、もちろんです。女性である必要があるんです」
こうして冒険者ギルドの受付に女性が必須である理由を、経験の浅いマリーに説明することにした。
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