第24話不穏な屋敷へ

 盗賊ギルドから受注したのは、高額すぎる怪しい除霊の依頼。

 冒険者に依頼する前に、ギルド職員として事前調査にすることにした。


「あっ、あそこが正門ですね」


 指定された屋敷は、かなり高い塀に囲まれていた。中に入るために、正門らしき場所に向かう。

 正門の前には、三人の強面の男がたむろしていた。


「ん? おい、そこの二人、止まれ」

「この屋敷には近づかない方が、お前らの身のためだぜ」


 三人は盗賊ギルドのメンバーなのだろう。明らかに素人ではない。鋭い口調と目つきで警告してきた。


「お仕事、ご苦労様です。我々はボロン冒険者ギルドの者で、ガメツンさんから依頼を受けてきました。これが証明です」


 事情を説明しながら、ガメツンから預かった盗賊ギルドの証を見せる。両手を上げて、あくまでも敵意はないことを示す。


「ん? ガメツンさんから紹介の冒険者だと?」

「証は本物っぽいな? おい、念のために確認しろ」


 何やら小さな道具に向かって、男の一人が話しはじめる。

 形状的に通信用の魔道具だろう。かなり高価な貴重品だが、盗賊ギルドの財力なら問題ない品。

 あまり遠距離では使えないが王都くらいの中なら、音声で瞬時に通信が可能な便利な品だ。


「おい、ガメツンさんに確認したが、どうやら本物らしいぞ」

「そうか。それなら通すか」

「だが『なんで、こんな短時間で到着しているんだ、その二人は⁉』ってガメツンさんは驚いていたぞ」

「なんだと? まぁ、あの人もたまに、訳の分からないことを言うからな。あまり気にするな」


 どうやら幹部ガメツンに確認が取れたらしい。見張りの男たちは正門を開けてくれる。

 さて、さっそく中にいくとしよう。


「ん? ところで兄ちゃん、あんたら二人だけか?」

「他に聖魔法の使い手や、神官の仲間はいないのか⁉」

「いや、もしかしたら、そっちの銀髪の嬢ちゃんが、《聖女級》の凄い神官とかか⁉」


 見張りの男たちは、真剣な表情で訊ねてきた。おそらくオレたちのことを冒険者だと、勘違いしているのだろう。


「いえ、彼女はなんの神聖魔法も使えない、普通の経営者です。そして私もボロン冒険者ギルドの事務員のフィンと申しまして、冒険者ではありません。今回はあくまで事前調査に来ただけです」


 勘違いしていた三人に、改めて自己紹介をする。冒険者ギルドの仕事では小さな勘違いが、大きな騒動に発展してしまう時もあるのだ。


「な、なんだと、冒険者ギルドの事務員と経営者だと⁉」

「悪いことは言わねぇ⁉ だったら、この屋敷の敷地内に入るのは止めておけ!」

「屋敷の中は“あの方”の……いや、“ヤツ”のテリトリー! 入っただけで死んじまうぞ!」


 腕利きの冒険者ではないと知って、見張りの男たちの表情が一変する。かなり強い口調で忠告してきた。


「ご忠告ありがとうございます。ですが我々も冒険者ギルド職員のプロ。発注する前に綿密な調査をする必要があるのです」


 だがオレは忠告を断る。何故なら今回の調査は、ギルドとして必須な仕事だから。


 冒険者ギルドの職員の仕事は多岐にわたる。その中で特に重要なのが『依頼の難易度の制定』をすることだ。


 冒険者ギルドには一般人や公の機関から、色んな依頼が舞い込んでくる。そして登録冒険者に依頼する前に、ギルドでは『依頼の難易度の制定』をする必要があるのだ。


『依頼の難易度』は最低の《難易度F》から、《最高難易度S》まで七段階まである。

 ギルド職員は依頼の難しに合わせて難易度を制定して、適切な登録冒険者に声をかけていくのだ。


 ちなみに前回、ライルとエリンに出した『依頼:《究極万能薬エリクサー》の素材を1,000万ペリカ買い取る』は、けっこう簡単な内容なので《難易度F》にしたもの。

 冒険者ギルド協会の講習を受けて、特別馬資格を持つオレが認定したのだ。


「ご忠告ありがとうございます。では、いってきます」


 そんな訳で『依頼の難易度の制定』をするために、オレは正門をくぐっていく。

 見張りの男たちは『なんて肝の据わったヤツだ……』『ああ、ありゃ、地獄を見てきた男だな』と驚いた顔で見送ってきた。


「フィ、フィンさん、ちょっと、待ってください! 屋敷の中に入って、本当に大丈夫なんですか⁉ あんな強面な人たちが『入っただけで死んじまうぞ!』って、怯えているんですよ⁉」


 後を付いてきながら、マリーは声を震わせていた。

 先ほどの見張りの男たちの言葉に、彼女は過剰に反応しているのだろう。彼女の足取りは明らかに重い。


「はっはっは……心配は無用です、オーナー。今回はあくまでも『事前調査』だけです。何も『除霊を我々で行う』わけではありません。それに事前調査をちゃんとしておかないと、『依頼の難易度の制定』もできません。そうなると3,000万ペリカも水の泡となってしまいますよ?」


「さ、3,000万ペリカが水の泡に⁉ そ、それはマズイわ! さ、さぁ、行きましょう、フィンさん!」


 冒険者ギルドの再建を願う経営者マリーは、お金の話にかなり敏感。急に軽い足取りで、屋敷に向かいだす。


 こうして気持ちの切り替えは、冒険者ギルドの経営者として優れた資質。やはりマリーは将来的に、かなり大物なギルド経営者になる気がする。


 そんなことを話しながら、オレたちは屋敷の中庭を進んでいく。


「ん? あそこが玄関のようですね、オーナー」


 しばらく進むと屋敷の全体が見えてきた。三階建ての豪華な屋敷が全貌を現す。


「うっ……こうして目にすると、更に不気味すぎる。それに、どうして、こんなに薄暗いのかしら? 今はまだ昼間なのに⁉」


 マリーが指摘の通り、屋敷の周囲だけ夕方のように薄暗くなっていた。屋敷を被う“不思議なオーラ”によって、陽の光が遮られているような雰囲気だ。


「“厄介な悪霊”がいる場所は、たまにこうした現象が起きるですよ、オーナー」


「えっ⁉ “厄介な悪霊”がいる場所、ですか⁉」


「はい。だからあまり気にしないで中の調査をしましょう」


「ちょ、ちょっと、フィンさん⁉ こんな不気味な所に私を置いていかないでよ⁉ ちょっとー⁉」


 こうして周囲を負のオーラに包まれた不気味な屋敷の中を、オレたちは調査開始するのであった。

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