第23話大人の事情

盗賊ギルド幹部のガメツンから、ある程度の信頼を得られた。

ようやく今回の本題について話を聞くことになった。


「今回、あんたらに頼みたいのは『ある建物の除霊』だ」


ガメツンは一枚の紙をテーブルに置く。王都の高級区画の地図で、一か所に印がついていた。

ここが依頼の建物がある場所なのだろう。


「理由は話せないが、ここに陣取る“ある生霊”を除霊して欲しい。あんたらギルドに支払う解決料金は3,000万だ」


「さ、さんぜん万ペリカも⁉」


話を一緒に聞いてマリーが、思わず声を上げる。

なぜなら普通の冒険者ギルドには、それほどの大金の依頼は滅多にこない。


予想外の依頼金にマリーは喜びながら、『えっ、でも、フィンさん、これって、大金すぎてヤバイ依頼なんじゃないですか、もしかして⁉』と、そんな顔で混乱している。


「どうする、受けてくれるか?」


「……はい、たしかに承りました。解決のために全力を尽くします」


だがオレは少しだけ考えて、すぐに依頼を受諾する。依頼受注書にサインをして、正式に公共依頼を受ける。


「これが盗賊ギルドの証だ。屋敷の見張りの連中に見せたら、スムーズに中に入れる」


「なるほど。わざわざ、ありがとうございます」


ガメツンから預かったのは盗賊ギルドの証。目的の屋敷の周囲には、常に盗賊ギルドのメンバーが滞在しているという。

屋敷の敷地内に入るためには、この正銘の証が必要なのだ。


「それでは失礼します。では、いきましょう、オーナー」


「えっ、フィンさん⁉ ちょ、ちょっと、待ってください⁉」


まだ混乱しているマリーと共に、地下室から地上に向かう。特にトラブルもなく盗賊ギルドの建物を後にできた。

そのまま貧民街スラムを歩きながら、王都の中央の区画へと向かう。


「フィ、フィンさん、今回の依頼は、本当に受けてよかったんですか⁉ 明らかに怪しい点が多すぎますよ⁉」


周囲にひと気がないことを確認して、歩きながらマリーが訊ねてきた。内容は先ほどの盗賊ギルドからの依頼についてだ。


「どうして“除霊”なんて簡単な仕事で、3,000万ペリカなんて大金が貰えるんですか⁉ 聖教会に直接依頼しても、お布施の10万ペリカ程度で済むのに⁉ どう考えても怪しいですよ⁉」


彼女が一番に疑問に思っているのは、依頼内容の簡単さと、金額の高さのアンバランスさについて。


たしかに彼女の言う通り、除霊は聖教会に直接依頼したら10万ペリカで済む。相場の三十倍の高額な依頼金を、明らかに不審がっているのだ。


「たしかに、そうですね、オーナー。ですが盗賊ギルドの彼らは、聖教会に直に除霊を依頼できないのです」


「えっ、直に依頼できない、ですか⁉」


「はい、そうです。王都の盗賊ギルドと聖教会は、昔から“犬猿の仲”ということです」


王都には大きな組織が何個もある。

代表的なものは冒険者ギルド協会や商業ギルド、工業ギルドなど公な機関だ。


そんな中でも特に権力が大きく、常に対立しているのが盗賊ギルドと聖教会の二つだ。


「両者は“王都の権利がらみ”で揉めているので、盗賊ギルド側から表立って依頼はできないのです」


この二つのギルドが常に対立しているのは、互いの利権の範囲が微妙に被っているからだ。

盗賊ギルドは王都の“場所代”や“用心棒代”など、形の無い利権で大きな収入を得ている。


一方で聖教会も『地域や建物を守る“加護代”』という形の無い利権で、大きな収入を得ていた。名前は聖教会だが、やっていることはけっこう強引な団体なのだ。


結果として、両者は常に対立している状態。そのため盗賊ギルドは聖教会に直に除霊を頼めないのだ。


「なるほど……そういうことだったんですね。随分と面倒くさいんですね、大きな組織も」


「そうですね。言い方を変えると、『どちらも市民から金を巻き上げている団体』です。そのために王都市民二十万人の“パイの奪い合い”状態になっているんでしょう」


顧客の奪い合いは、どうしても対立を産んでしまう。

だから今回は少し遠まわしな方式で、中立に近い冒険者ギルドに今回は依頼がきたのだ。


「そういうことだったんですね。納得がいきました! ……ん? でも、待ってください、フィンさん! そうだとしても、3,000万ペリカは高額すぎませんか⁉ 外注するにもケタが違いすぎませんか⁉」


「たしかに、そうですね。オレ勘では、おそらく今回の依頼には、他にも“裏”があります」


「えっ、裏……ですか?」


「はい。先ほどのガメツンさんの言葉にヒントがありました」


依頼内容を話す時、ガメツンは『理由は話せないが、ここに陣取る“ある生霊”を除霊』と言ってきた。

その中で気になったのは『理由は話せない』という言葉。つまり今回の除霊は、“普通の悪霊”を除霊する内容ではないのだ。


「あっ、そう言われてみれば、たしかに⁉ でも、どんな裏なんでしょう……大きな権力と力を持つ盗賊ギルドが、3,000万ペリカなんて大金で、依頼してきた裏のある除霊は? あっ、ヤバそうな予感しかしないです……」


ようやく事情を理解してマリーは、顔色が悪くなる。大金に釣られて、とんでもない依頼を受けてしまった、そんな後悔の表情だ。


「フィ、フィンさん、どうしましょう……やっぱり、今から断った方が、いいじゃ⁉」


「まだ断念するには早すぎます。まずは調査をしてみましょう」


「えっ、調査……? なんの、調査ですか? まさか……」


「はい、もちろん今回の“除霊の相手”についてです。あっ、この屋敷ですね。着きましたよ、オーナー」


話ながら歩いていたら、目的の場所の到着していた。オレたちの目の前に、高い塀に囲まれて屋敷がある。

ガメツンから貰ってきた地図のよると、この塀の中に目的の屋敷があるのだろう。


「えっ⁉ いつの間に⁉ ちょっ、ちょっと、待ってください、フィンさん⁉ 貧民街スラムからこの屋敷区画まで、なんで、こんな短時間で到着しているんですか、私たち⁉」


マリーが驚くのも無理はない。盗賊ギルドがあった場所から、ここまでは徒歩では一時間以上はかかる。

だがオレたち二人は数分の歩き話をしている間に、到着していたのだ。


「時間がもったいなかったので、実はオレの方で“短縮”しておきました、オーナー」


冒険者ギルドの職員として、スピーディーな調査は重要。オレは支援魔法の一つで、移動時間を短縮しておいたのだ。


「えっ? はい? “移動時間の短縮”……でか⁉ そんなの聞いたことないんですけど、わたし⁉」


「あっ、あそこが正門ですね。では屋敷の中にいきましょう、オーナー」


「ちょ、ちょっと、待ってください、フィンさん⁉ 置いていかないで⁉」


あまりにも高額すぎる、怪しげな除霊の依頼。

そのため冒険者に依頼する前に、ギルド職員としてオレは事前調査にするのであった。

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