第43話危機からの脱出作戦
かつて勤めていた冒険者ギルドの経営者リッパーによって、オレたち三人の命が危険に晒されてしまう。
「あまり、こういうのは得意ではないが、今は諦めるしかないか」
たとえこの身が傷つこうとも、二人だけは無傷で家に帰してやりたい二人を守るためにオレは“少しだけ”荒事を過酷後する。
「二人ともよく聞け。後方にオレが突破口を開くから、二人は全力で大通りに駆け抜けていくんだ」
このままでは十人の荒くれ共に、三人とも袋叩きにあってしまう。その前に包囲網を突破する必要がある。
相手の人数の少ない後方から、二人を逃がす作戦を伝える。
マリーとレオンは力では大人には叶わない。だがオレが突破口さえあければ、後は子どもながらの軽い脚力と素早さで、ここから脱出できる可能性が微かにあるのだ。
「で、でも、それだと残るフィンさんが⁉」
「大丈夫だ、マリー。オレ一人だけなら、何とかなる」
「そ、それでも、フィンさんだけ置いては……」
「お姉ちゃん。ここはフィンさんのことを信じよう! ボクたちは憲兵を呼びに行こう!」
「そ、そうね。わかったわ、フィンさん。私たちが誰かを呼んでくるまで、絶対に無茶しないでくださいよ!」
「ああ、もちろんだ」
利発な弟レオンの説得もあり、なんとかマリーも作戦に納得してくれた。
オレの立てた作戦はシンプルなもの。まずはマリーとレオンが後方の四人の男に方に向かって駆け出す。
相手の意表をついたところで、オレが落ちている建築角材で相手を牽制。そのまま二人が脱出できる突破口を開く。
二人が脱出できた後は、男たちが追いかけられないように、オレが立ちふさがり木の棒で再び牽制。
二人が安全な大通りまで時間を稼ぐ作戦だ。
(作戦か……そう呼ぶには、あまりにもかなり無謀だな……)
二人には伝えていないが、この作戦には大きな穴がある。それはオレの戦闘能力が素人なことだ。
たとえリーチのある木の棒を振り回しても、荒事に慣れたプロの冒険者相手には通じないだろう。
だが、マリーとレオンが退避する時間は、絶対に稼がないといけない。
たとえその後に、オレは十人の武装集団によって血祭りにされようとも。
(だが、こんなところで死ぬ訳にいかない……たとえわずかな確率でも、絶対にオレも生き残ってやる!)
ボロン冒険者ギルドの経営再建は、まだ始まったばかり。こんな所で犬死する訳にはいかないのだ。
オレは絶対に生き残る、という強い意思を燃え上がらせる。
「ん? なにか、抵抗するつもりか、フィン⁉ 止めておけ! こいつらは殺しのプロだぞ! キサマのような素人が抵抗しても、痛みが増して死ぬだけだぞ!」
「そうだな、リッパー。たしかにお前の準備は万端だ。だがオレたちはボロン冒険者ギルドの職員。むざむざと死ぬ訳にはいかないのさ! マリー、レオン、今だ!」
いきなり大声を上げたリッパーに、冒険者たちの視線が一瞬だけ集まっていた。その瞬間を見逃さず、オレは二人に合図を送る。
「「はい!」」
先ほどの作戦通り、マリーとレオンは動き出す。低い姿勢から、後ろの方に一気に駆け出していく。
「なっ⁉ に、逃がすな! そのガキたちを捕まえろ!」
まさかの少年少女の行動に、リッパーは虚を突かれたのだろう。大慌てで後方の冒険者四人に指示を出す。
「よし、今だ!」
相手の全員の意識が、駆け出したマリーとレオンに向けられた。
その新たなる隙を狙い、オレも動き出す。地面に落ちていた建築用の角材に、すぐさま手を伸ばす。
マリーとレオンに気を取られている後方の四人の冒険者を、作戦通りオレが牽制するのだ。
(ん? ああ、そうだ。二人が逃走できる確率を上げるために、支援魔法をかけてやらないと)
素人であるオレは冒険者のように、攻撃魔法や回復魔法などは使えない。だが育ての親である師匠から“簡単な支援魔法”なら教わっていた。
まぁ、支援魔法といっても、冒険者が使うような戦闘用の本格的なものではない。
あくまで少しだけ生活を便利にしたり、育った家の近隣の“弱い害虫”を駆除する程度の力しかないものだ。
(きっと雀の涙程度の効力しかないかもしれないが、今は少しでも確率を上げるために使おう……【
フォ――――ン♪
マリーとレオンの全身が光を帯びる。彼らを対象にして、オレが支援魔法を発動したのだ。
これによって“ほんの少しだけ”二人の身体能力がアップしたはずだ。
「ん? え? な、なにこれ、足が勝手に⁉」
「お、お姉ちゃん、ボクもだよ! まるで自分の身体じゃないみたいに、勝手に⁉」
オレの支援魔法を受けて、姉弟の駆ける速度が上昇。
ヒュイ――――ン!
一瞬で“音を超える速度”に到達。そのまま空気の壁を突き破る。
シュン、バン!
次の瞬間だった。
後方で立ち塞がっていた二人の冒険者が、もの凄い勢いで吹き飛んでいく。
ドッ、ガ――――ン!
直後、凄まじい激突音と共に、工事中の建物外壁の冒険者はめりこむ。
「「「な、なっ⁉」」」
まさかの出来ごとにリッパーを含む冒険者たちは、言葉を失っていた。
「「えっ? えっ?」」
吹き飛ばした当人のマリーとレオンも、立ち止まって唖然としている。
この場にいる誰もが、何が起きたか理解できていなかったのだ。
これはマズイ。
二人に説明をしてすぐに再行動してもらわないとな。
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