第8話初心者向け説明会

 新規登録者を増やすための第一作戦、宣伝活動を開始。

 二人を勧誘することに成功。ボロン冒険者ギルドに移動して話をすることにした。


「……という訳で、フィンさん。私たちは、一攫千金を夢見て上京してきたんです! ねぇ、そうだよね、ライル」


 活発にずっと説明していた赤毛の少女がエリン。見習い聖魔法の使い手だ。


「はい、エリンの今の説明で、間違いはないです。登録よろしくお願いします、フィンさん」


 強引な彼女に引っ張られながらも、ちゃんと自分の意思を伝えてきた茶色神の青年がライル。駆け出しの剣士だ。


 話を聞いて確定。

 オレの予想通り、二人は『幼馴染同士で一攫千金を夢見て田舎から上京。先ほど王都に到着したばかりで、まだ登録ギルドも決まっていない新人冒険者』だったのだ。


 二人の意思を確認したところ、当ボロン冒険者ギルドに新規登録者することになった。

 オーナーのマリーはまだ広場で宣戦活動中。楽しそうに宣伝活動していたので、声をかけずに置いてきたのだ。


 だから登録はオレが行う。登録の方法は、協会で統一されているので問題はない。


「それでは冒険者の登録をするので、こちらの冒険者カードに触って、自分の名前を念じてください」


“冒険者カード”は魔道具の一種で、色んなデータを記録できるカード。

 一度、本人が登録したら、他人は使うことはできない。冒険者の身分証明書になる大事なカードだ。


「見て、ライル! これ、自分の名前が刻まれたわよ!」

「そうだね、エリン。ん、この“F”と書かれているのが、もしかしてボクたちの冒険者ランクですか、フィンさん?」


「はい、そうです。最初はランクFからのスタートとなり、依頼を何度か成功させていくと、ランクが上がっていくシステムです」


 ギルドカードの登録が完了したので、次は冒険者の“ランクシステム”について説明をしていく。

 冒険者は依頼を正式に受けて、成功させて報告すると評価ポイントが溜まる。一定のポイントになると一つ上のランクに昇格できるシステムだ。


 基本的にF~Sまでの七段階あり、簡単にまとめると次のような感じになる。


 ――――◇――――◇――――

 《冒険者ランク目安》


 ・Sランク:大陸の危機に動員されるほどの、伝説級の冒険者(大陸にも数人しかいない)


 ・Aランク:複数の町や国の危機を解決できるほどの、国家級の冒険者(一ヵ国に十数人しかいない)


 ・Bランク:大きな街の危機を解決することができるほどの、凄腕の冒険者(大きな街に十数にしかいない)


 ・Cランク:小さな町や村の危機を解決することができる強さ(そこそこの数がいる)


 ・Dランク:初心者を脱却。そこそこの冒険者。(けっこうな数がいる)


 ・Eランク:まだ駆け出しで、弱い魔物を退治するレベル。(かなり多い)


 ・Fランク:登録したばかりの新人で、雑務がほとんど


 ――――◇――――◇――――


 大陸各地にある冒険者教会のマニュアル書によると、こんな感じだ。


 冒険者として一人前と言えるのは、Dランクから上の者たち。EランクとFランクは半人前の扱いをされる。


 ランクCまでなら、努力さえすれば常人でも到達可能。だが到達する前に、死亡率も上がり全体数も少ない。

 だからランクCでも、かなり凄腕と頼りにされる。

 

 Bランクより上には、よほどの才能がないと上がれない。ランクBは凄い存在と呼んでも過言ではない。更に上のAランクは別次元な連中だ。


 ちなみにAの上には、Sランクという特別なランクもある。

 だがランクSの冒険者は大陸の中でも十人未満。冒険者ポイントが溜まっても特殊な能力や加護がなければ、普通の冒険者はなることができない。


 だから一般的に冒険者ギルドで扱うのは、ランクF~Aまでの冒険者だ。


「なるほど、分かりました。わざわざ説明ありがとうございます、フィンさん!」

「それなら私たちも十回くらい依頼を成功させたら、ランクEの昇格試験に挑めるってことですか?」


「はい、そうです、エリンさん。昇格試験は王都のある、冒険者ギルド協会の鍛錬場で定期的に行います。それまでは最初は初心向けの依頼をこなして、評価ポイントを貯めていってください」


「「はい!」」


 一通りの説明は終わった。

 二人は今後の活動について、何やら話をしている。オレは空気を読んで、席を外すことにした。


「ん? これは……」


 ――――そんな時だった。ギルドの中に“何かの術”が発動する気配がある。


 シュワ――――ン!


 次の瞬間、ギルドの中に光が発生する。これは《転移の術》の一種だ。


「オッホホホ……! また会いにきたわ、“我が愛しのフィン”!」


 甲高い笑い声と共に転移してきたのは、怪しげなローブをまとった二十代半ばの妖艶な女性エレーナ。

 女魔術師の冒険者で、いつものオレのことを『我が愛しのフィン』と呼んでくる少し変わった人だ。


「エレーナさん。どうしたんですか、いきなり転移してきて?」


「そろそろ依頼が張り出された頃合い、だと思って来たのよ!」


「あっ、そうでしたね。ナイスタイミングで依頼があるので、少しお待ち下さい」


 前回、彼女が転移してきた時は、ボロン冒険者ギルドに依頼は一個もなかった。

 だが今は《ヤハギン薬店》からオレが受注して、依頼が何個かある。冒険者に渡す用の依頼書を作成する。


「お待たせしました。今のところエレーナさん向きの依頼は、コレ一件しかないですが、いいですか?」


 彼女に確認してもらう依頼書は《依頼:バリン草の採取。二百束のバリン草を1,000ペリカ買い取る》という内容だ。


 午前中、《ヤハギン薬店》から受けた『二百束のバリン草を1,500ペリカ買い取る』に、手数料を差し引いた計算。差額の500ペリカが、当ギルドの収入となるのだ。


「な、な、なんですって……《大賢者》と呼ばれている、このアタシが……バリン草の採取ですって……⁉」


 依頼内容を確認して、エレーナは肩をプルプル震わせている。

 いったいどうしたんだろうか? 魔術師だから薬草採取は得意だと思ったんだが。


「ああ、そういうことね! さすが愛しのフィンね! これは初心者向けの依頼にみせかせて、実はとんでもない高ランクの依頼が隠されているのね⁉ この依頼を受けてあげますわ!」


「ん? ありがとうございます。よろしくお願いいたします。では、気を付けて、エレーナさん」


「この依頼の“裏の真実”を、必ず見つけてきまわす! オッホホホ……!」


 シュワ――――ン!


 よく意味の分からないことを言いながら、エレーナは転移で立ち去っていく。

 転移魔法は周りに衝撃波を与えるから、今度からは自粛してもらおう。


 あっ、そうだ。

 ライル君たちを放っておきっぱなしだ。今後の依頼について説明をしないと。


「お待たせしました、二人とも……ん?」


 テーブルに戻ってきて、二人の様子がおかしい。先ほどまでエレーナがいた場所を、凝視しながら固まっていた。

 どうしたんだろう?


「フィ、フィンさん、今、そこに女の人が、出現したような……」


「そ、そうよね、ライル⁉ あなたも見たのね⁉ たしかに、ローブを着た女の人が出現した、また消えたような⁉」


 ああ、なるほど、そういうことか。エレーナの転移の術に、二人とも驚いたのだろう。

 特にさっき彼女は《認識阻害の術》も発動していた。だから初心者冒険者の二人にはエレーナの姿が、幻のようにしか認識できなかったのだろう。


 まったく困った女魔術師だ。次からは《認識阻害の術》も自粛してもらおう。

 さて、上手く誤魔化して説明を続けないと。


「えーと、今のは気にしないで下さい。都会の冒険者ギルドでは、色んな現象が起きる時があるのです。さて、二人とも依頼はどうしますか? 受けていきますか?」


 初心者冒険者の説明会も、次の段階に移る。

 登録したばかりの冒険者には、まずは依頼を受けてもうことが大事。新人のモチベーションを落とさないために、協会の推進されていたのだ。


「依頼を、もう受けられるんですか⁉ はい、もちろん! ライルも、いいわよね?」


「うん、そうだね。ボクたちでも可能な初心者向けの依頼を、選んでもらえますか、フィンさん?」


 二人ともモチベーションは高く、一攫千金を夢見て目を輝かせていた。

 こういった若い熱意に出会えるから、冒険者ギルドの職員はやりがいがあるのだ。


「はい。ちょうど今、“初心者向けの依頼”がありました。依頼書を作成するので、少しお待ちください」


 カウンターに移動して依頼書を作成する。午前中に《ヤハギン薬店》で受注してきた、バリン草採取とは“別の依頼案件”だ。


「はい、お待たせしました。こちらが“オススメの初心者向け”の依頼です。どうですか?」


 作成した依頼書を、二人に確認してもらう。

 内容は『依頼:《究極万能薬エリクサー》の素材を1,000万ペリカ買い取る』だ。


 オレの感覚ではこれは初心者向けの依頼。この駆け出しな二人でも、十分に達成可能なはずだ。


 ん?

 だが二人は依頼書を見ながら無言になっていた。どうしたのだろう?

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