第31話受付嬢の候補者
経営が順調になってきたボロン冒険者ギルドで、受付嬢を雇うことに。
オレは“とある知り合いの女性”のところにいって、ギルドに戻ってきた。
「ただいま戻りました、オーナー。この女性はクルシュさん。受付の仕事の話も、快く了承してくれました」
オレが連れてきたのは、クルシュという金髪の女性。
二年前からの知り合いで、受付嬢を探していると相談をしたら、二つ返事で了承してくれたのだ。
「はじめまして。わたくしはクルシュ=アサギハスと申します。ふつつか者ですが、本日よりよろしくお願いいたします」
クルシュは丁寧な挨拶で、新しい上司マリーに挨拶をする。
彼女は礼儀正しく、敬語などの対応も完璧。
年はまだ十七だが、大人っぽい大雰囲気がある。受付嬢としてピッタリの人材だ。
「えーと、はじめまして。一応わたしはオーナーのマリーです。ちなみに質問なんですがクルシュさんの、その恰好……もしかして神官なんですか?」
マリーが疑問を口にするのも無理はない。なぜならクルシュが着ていたのは、純白の神官着。かなり装飾品が多く、高級そうな格好だ。
「はい、中央大神殿で神官をしていました」
「えっ、中央大神殿って、あんな凄いところで⁉ ん? ちょっと、待って……中央大神殿にいる若い金髪の美少女で、“クルシュ=アサギハス”って名前……もしかして、クルシュさん、《聖女》って呼ばれていたりしませんか?」
「はい、一応は《聖女》の称号を、天啓にて《天神様》から頂戴しております」
「や、やっぱり!」
クルシュと話をしながら、マリーは急に驚きの表情になる。いったい何の話をしているのだろうか。
少し気になるが、おそらくこれは経営者面接だろう。いち職員でしかないオレは、あまり聞かないようにする。
「ど、どうして、《聖女様》なんて凄い人が、ウチみたいな潰れかけの受付嬢を⁉」
「実は以前、フィン様はこのわたくしの命を救ってくれました。そんな方を手助けするのは、わたくしにとっては天啓よりも大事なこと……ですから今回の話をお受けしました。あと、わたくしは感じております。フィン様にお仕えすることは、必ず世界の危機を救うことに通じる、と」
「聖女様の命を救った、って、過去のフィンさん、いったい何を⁉ それに『必ず世界の危機を救うことに通じる』って、聖女様に予言させるフィンさんっていう存在って⁉ はぁ……」
クルシュの話を聞きながら、マリーは今度何やらため息をついた。
一体何を話しているか分からないが、クルシュは真剣な表情。おそらく女子同士では深い話でもしているのだろう。
「ふう……なるほど。貴女のフィンさんに対する、異常なまでの気持ちは分かりました。ところで大神殿の聖女の仕事は、大丈夫なんですか?」
「はい、ご心配には及びません。《聖女》の仕事は特に大神殿にいなくても可能です」
「ん? ということは、ウチで働きながら、聖女の仕事のする、ということですか?」
「はい、そうです。でも、受付業務には支障をきたさないのでご安心下さい、オーナー様」
「そ、それなら嬉しいけど……。それにした遂にウチは受付嬢なんかに、聖女様を雇うことになってしまったのね……でも、クルシュさんは天使のように可愛いし、胸も大きいから受付嬢として、これ以上はない人材だし……はぁ、今回のことも、フィンさんのことかだから諦めるしかないのか……」
クルシュの面接は終わった様子。何やら半分あきらめ顔で、マリーは呆然と立ち尽くしていた。
「その様子なら彼女は合格ですか、オーナー?」
「はい……もはや私の人智が及ぶところを越しているので、あとは全てフィンさんにお任せします。それにしても聖女様がウチの受付嬢になるなんて……」
なにやらブツブツと独り言を言っているが、オーナーであるマリーの了承は得られた。
これでクルシュは今日から、ボロン冒険者ギルドの正式な職員だ。
「それでは今のうちにクルシュさんを含めて、受付業務の練習をしておきましょう。レオン君もよろしいですか?」
「はい、もちろんです。ボクはレオンといいます。クルシュさん、よろしくお願いいたします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします、レオン様」
こうして新しい職員として金髪の少女クルシュが加入し、人材的な不安は解消される。
ボロン冒険者ギルドの経営改革は、新たなるステージへと突入していくのであった。
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