第30話受付係りについて

 薬師ヤハギンから大量依頼の受注をできて、紹介効果で登録冒険者も一気に急増。

 経営が順調になってきたボロン冒険者ギルドのために、オレは次なる提案をする。


「オーナー、是非とも“受付嬢”を雇いましょう」


「えっ⁉ 受付嬢を? たしかに受付の人は欲しいですが、男の人だと駄目なんですか?」


「はい、もちろんです。女性である必要があるんです」


 冒険者ギルドの受付に女性が必須。経験の浅いマリーに理由を説明する。


「まず、オーナーにお聞きします。冒険者の男女の比率は、どちらが多いと思いますか?」


「えっ? 男女の比率ですか? それはもちろん男性ですね! ウチも昔から七割以上は男の人だったわ!」


 マリーが言っていることは正しく、他の一般的な冒険者ギルドでも男性比率は高い。

 どうしても冒険者は危険な依頼が多く、肉体的には強靭さが求められるからだ。


 この大陸では“魔力”を扱うことによって、女性や子どもでも一般的な男性以上の力を発揮することは可能。

 だが同じ魔力を有するのなら、男性の方が強化した力と耐久力は強い。そのため冒険者は男性の比率が高いのだ。


「正解です。さすがはオーナー、博学ですね」


「えっへっへ……こう見えて、冒険者ギルドはわたしの庭みたいなものなのよ!」


 彼女はボロン冒険者ギルドの中を、幼い時から遊び場にしていた。そのため一般的な冒険者ギルドの常識には、他の同年代よりは詳しいのだ。


 これなら話が早い。説明をするために、次なるステージに移行する。


「それでは次の質問をします。仮にオーナーが街の市場バザールに買い物にいきました。その時に二つの店があり、同じような商品と店舗だけど『自分の好みの男性がいる店』と『女性店員さんがいる店』だと、どちらで買いたくなりますか?」


「えっ? 変な質問ね、次のは? えーと、それはもちろん『自分の好みの男性がいる店』かな。私も年頃の女の子なんだから、好みの異性がいる店に通いたいわよ!」


 自信満々にマリーは答えてきた。弟レオンに比べて頭の回転は速くはないが、こうした素直なところは彼女の長所だ。


「回答ありがとうございます、オーナー。では、最後の質問をします。『男性の比率が異様に高い冒険者ギルドを経営するうえで、受付係りを新たに雇う場合、その性別は男女のどちらが適切』だと思いますか?」


「へ? そんなの簡単に決まっているわ! もちろん『受付は女性』よ! できれば若くて、でも若すぎず二十歳前後の人はいいわ! それなら色んな年齢の冒険者のストライクゾーンに入るから! あと、顔はもちろん可愛いくて、威圧感を与えないように、少しだけ天然っぽい子がいいかも!」


 更に自信満々にマリーは答えてきた。

 冒険者ギルドを遊び場にして彼女の頭の中には、すでに明確なイメージがあるのだろう。かなり細かい受付係りの説明まで加えてきた。


「あっ、そうか! そうだったんですね、フィンさん!」


 横で静かに聞いていたレオンが、急に大きな声を上げる。姉マリーの言葉に何かを発見したのだ。


「ん? どうしたの、レオン? そんなに大きな声を出して?」


「お姉ちゃん、まだ気がつかないの? 今、自分の口で言ったんだよ、『もちろん受付係りは女性よ!』って! しかも、具体的な答えも全部!」


「えっ? あっ……そういえば……つまり、そういうことだったのか、フィンさん⁉」


 聡明な弟レオンの説明を聞いて、マリーは声を上げる。彼女もようやくも気がついたのだ。


「その様子だと、もう、説明しなくても大丈夫そうですね、オーナー? どうして『冒険者ギルドの受付係りに女性がいた方がいいか?』の理由を」


「ええ、もう十分よ。私あまり頭は良くないけど、ここまで丁寧に説明してくれたら分かったわ! それなら早速フィンさんの提案とおり、女性職員を探さないとね! 今から職業安定所ハロワに行かないと!」


 こうした行動力があるのもマリーの長所。彼女は外出の準備を始める。


「あっ……でも、希望の人が来てくれるかな……ハロワって、あんまり信用できないのよね」


 彼女が急に不安になるもの無理はない。基本的に王都の職業安定所では、若くて容姿が端麗な有能な女性は見つけることはできない。

 そうした有能な女性は、口コミや人の紹介で他の大手に取られてしまうのだ。


「それならオレの知り合いに一人だけツテがいます? 先ほどのオーナーが言っていた条件も満たしています」


「えっ、本当ですか? それなら、その人を紹介してください、フィンさん!」


「はい、分かりました。たぶん“彼女”は、今は暇をしているので、これから面接に連れてきますね」


 こうしてオーナーの了承は得られた。

 オレは“とある知り合いの女性”のところにいって、ギルドに戻ってくるのであった。

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