第33話新体制
神官の少女クルシュが新しい職員になって日が経つ。
「ようこそ、ボロン冒険者ギルドへ。もしかしたら新規登録者の希望の方ですか? よかったら説明をするので、こちらへどうぞです!」
受付係りとして、彼女は順調に業務をこなしていた。段々と増えてきた新規登録者に対しても、“まるで聖女のような笑顔”で“神対応”している。
そんなクルシュの対応は、冒険者たちの中でも評判は高い。
「……なぁ、あの新しい受付の子、かなり可愛いくて、胸も大きいよな⁉」
「……ああ、そうだな。今後、お茶でも誘ってみようぜ!」
「おい、お前たち、止めておけ! あの方は《聖女》クルシュ様だぞ! 迂闊にナンパでもしたら、教団の《暗部》に消されてしまうぞ!」
「なっ⁉ そ、そうだったのか⁉ でも、なんで、そんな凄い子が、こんな小さな冒険者ギルドの受付嬢なんてしているんだ⁉」
「オレもよく知らないが、あのオーナーのマリーって子は実はかなりのやり手で、どこからスカウトしてきたらしいぞ……とにかくクルシュ様に対しては受付の話以外は、止めておいた方がいいぞ」
「ああ、そうだな。命あっての物種、だからな……」
今も若き冒険者たちが、クルシュに対して熱い視線を送っている。
この反応も無理はない。なにしろ客観的に見ても彼女は可愛らしい容姿。お蔭で最近はクルシュ目当ての新規登録者も増えてきたくらいだ。
「あっ、こっちも空きました。次の方どうぞ!」
もう一人の受付係りであるレオン君も、負けずに業務に一生懸命やっている。彼はまだ十歳だが普通の大人よりも頭の回転が速く、的確な対応で受付業務をこなしている。
そんなレオン君にも熱視線を送る者たちがいた。
「あっ、レオン君、おっはー♪」
「今日も可愛いね♪」
「うちの弟に欲しいわ!」
「うちは子どもに欲しいかも!」
その者たちは女性の冒険者。彼女たちは仕事の合間に、レオン君になにかと声をかけている。
こちらの現象にも理由がある。何しろレオン君の容姿は整っており、大人の女性受けをするのだ。
また幼い年齢的に母性本能をくすぐる雰囲気もあり、多くの年代の女性冒険者に好感度が高いのだ。
「みなさん、いつも温かい言葉ありがとうございます!」
そんなミーハーな女性たちに対しても、レオン君は神対応をしている。冒険者ギルドの職員としての礼節を保ちつつ、柔軟に対応をしているのだ。
(ふむ……いい雰囲気になってきたな……)
そんな受付カウンターの光景を見ながら、オレは思わず嬉しくなる。
ボロン冒険者ギルドの雰囲気は、二人の受付担当のお蔭で、一気に明るい雰囲気になっていたのだ。
冒険者ギルドにとって受付係りは顔的な存在。二人の存在が冒険者たちの間に口コミで広がり、前よりも新規登録や移籍の冒険者が増えてきたのだ。
「いい雰囲気になりましたね、オーナー」
賑わう受付カウンターの様子を見ていたマリーに、声をオレはかける。先ほどから固まっているが、オーナーである彼女も繁盛ぶりに感動しているのだろう。
「うっ……クルシュさんもレオンも、あんなに人気で、しかもテキパキ仕事をして……もしかして私という存在は、もういらないじゃないかな……うっ……」
彼女は感動して固まっていたのではなかった。どうやら有能な職員二人の様子に、劣等感で押し潰されていたのだ。
「大丈夫ですよ、オーナー。経営者である貴女には、オーナーにしかできな仕事がたくさんあります。間違いなく、このボロン冒険者ギルドの未来は、オーナーの活躍にかかっているんです!」
「えっ、私の活躍にかかっている⁉ そ、そうだったんですね……よし、頑張ろう!」
オレの言葉を聞いて、マリーやはやる気を取り戻す。
感情の起伏が激しい彼女だが、基本的には真っ直ぐで活発な性格。たまに変になってしまうが、時おりこうして声をかけてやれば、モチベーションが一気に上がるのだ。
こうした経営者のやる気を高めて上げるのも、冒険者ギルドの職員の大事な仕事の一つだ。
「ん?」
そんな時だった。ギルド内に魔力が集約する気配を感じる。
これはもしや。
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