第18話新体制
ボロン冒険者ギルドに新しい職員、レオンが加入。
午前中のうちで冒険者ギルドでの説明も終わり、午後からさっそく仕事始めとなる。
あとレオン本人からの希望で、オレが敬語を使うのは止めることにした。マリーは年下だが一応はオーナーなので、できる限りオレは敬語を使うようにする。
そんなことを決めた後の午後いち、ギルドに二人組がやってきた。
「こんにちは!」
「こんにちはです、フィンさん」
ギルドに入ってきたのは男女の冒険者。
駆け出し青年剣士ライルと、見習い女神官エリン。数少ない当ギルドの登録冒険者だ。
カウンターにいたレオンに、エリンは気がつく。
「ん? その可愛い男の子、昨日はいなかったわよね? もしかして誰かの子ども、キミ?」
「はじめまして! ボクは本日から働くことになったレオンと申します。よろしくお願いいたします!」
初めて顔を会わせるエリンたちに対して、レオンは頭を下げて元気よく挨拶をする。礼儀正しく物おじしない度胸だ。
「えっ、新人さんの職員だったの⁉ レオン君って、いうのね……可愛い! ねぇ、そう思わないライル⁉」
「そうだね、エリン。でも、まだ幼いのに、すごくしっかりした子だね」
レオンはいきなり好印象を与えていた。幼いがレオンの顔立ちは整っている。女性の母性本能をくすぐるタイプなのであろう。
エリンは弟を可愛がるような口調で、レオンと話し始める。その間、ライルがオレのところにやってきた。
「そういえば、フィンさん。昨日の報酬金のことで、聞きたいことがあってきました。武具屋で気がついたんですが、もしかしてボクたちが貰ったのって、300ペリカじゃなくて、300万ペリカじゃないですか?」
ライルが訊ねてきたの、昨日の支払った報酬についてだ。
「はい、たしかに300万ペリカを渡しました。全部で1,000万ペリカの報酬だったので、残りの700万ペリカは預かっています」
ライルとエリンは『依頼:《
だが質問したライルの雰囲気では、もしかしたら何か不具合でもあったのかもしれない。
「いえ、不具合はなにもありませんでした。でも、あんな簡単な任務で1,000万ペリカも貰えると思っていなかったので、ちょっと混乱していたんです……」
田舎から出てきたこの二人は上位共通語を、まだ読み書きできない。そのために値段を勘違いしたのだろう。
「そうだったんですか。それはこちらの説明不足でしたね。とにかく先日の報酬は1,000万ペリカで間違いありません。冒険者ギルドでは色んな依頼と、報酬があります。あまり気にしないのが、冒険者を続けていくコツかと、思います」
冒険者の仕事は波が大きく、理不尽な内容も多い。危険が大きいが安い依頼があり、安全だが異常なほど高額報酬な依頼もある。
どんな依頼を受けられるかは、天に運を任せるような要素もあるのだ。
「なるほど。そういうことだったんですね。アドバイスありがとうございます、フィンさん!」
「ねっ、だから私も言ったでしょ、ライル? お金のことはあんまり細かく気にしない方がいいのよ!」
「たしかに、そうだったね」
エリンの方は大雑把な性格なのだろう。慎重な性格のライルと、いいコンビかもしれない。
「お金の確認も済んだことだし。それじゃ、また武具屋に買い物に行きましょうよ、ライル? はやく、この田舎負服から卒業したいわ」
「そうだね、エリン。それでは、フィンさん、今日は失礼します」
今日はお金の確認のために、立ち寄っただけなのだろう。ライルとエリンは立ち去っていく。これから改めて武具屋で、新しい装備を買い揃えるという。
「エリンさんとライルさん……元気な方でしたね、フィンさん」
「ああ、そうだな。ああした若くてエネルギッシュな冒険が増えていたら、ギルドにも活気が出てくる」
危険が多い肉体労働の冒険者の活動寿命は、それほど長くはない。三十歳を過ぎたら身体がガタツキ、四十を過ぎたら第一線で剣を振るうのは難しい。
そのため多くの冒険者は、四十を前にして引退。貯めておいた金で、第二の人生を歩んでいく者が多いのだ。
「なるほど、たしかにそうですね。あとフィンさん、確認ですが、この『二百束のバリン草を採取』のエレーナという人は、まだ依頼中になっていますが、遅くないですか?」
受付台帳を確認しながらレオンは首をかしげていた。
何しろバリン草の群生地は、王都の近くにもある。初心者冒険者でも半日ちょっとで終わる仕事なのだ。
「たしかに、そうだな。でも、その人なら大丈夫だ」
バリン草の二百束の採取の依頼を、受けていたのは女魔術師エレーナ。
少し変わった冒険者だが、今までオレが出した依頼で失敗したことはない。おそらく、どこかに寄って帰還しているのだろう。
そんなオレたちの話を聞いていたマリーが、自分の席で何やらうめき声を上げている。
「うっ……あの《大賢者》エレーナ=アバロンに、まさか初心向けのバリン草の採取を依頼していた、フィンさんって……Sランク冒険者の無駄使いすぎです。はぁ……」
頭を抑えながら、なにやらブツブツ呟いている。彼女は仕事中に、たまに変な行動を起こす。いつものことなの気にしないでおこう。
「ということはフィンさん。今のウチには出せる依頼がない、ということですね? どうしますか?」
「とりあえずは後で営業周り行く予定です。今の状況では待っていても、依頼も新規冒険者も来ないので」
新生ボロン冒険者ギルドの王都での認知度は、かなり低い。そのため一般市民や商店から、依頼が持ち込まれる可能性は皆無。
職員であるオレたちが、足で探してくるしかないのだ。
――――そんな時、誰かがギルドに入ってくる。
「ふん。ここに来るのは久しぶりだけど、随分と雰囲気が変わったわね?」
やってきたのは高そうなローブを着た年配の女性……薬師のハヤギンさんだった。
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