第37話毒マムシの追及
ボロン冒険者ギルドに強制調査のメスが入る。
オーナーのマリーが一人で、調査官ヒニリスに対応していた。
「こんな極端な帳簿は見たことがありません。残念ながら、こちらではボロン冒険者ギルドでは『不正な経営』が行われている可能性が高いです」
「えっ……そ、そ、そんな⁉」
「では、『不正な経営』の可能性が高い理由を、指摘していきます」
ヒニリス調査官はここ最近の帳簿を開いて、マリーに掲示していく。
「まずはこの部分です。『《ヤハギン薬屋》から《
ヒニリス調査官が最初の指摘してきたのは、オレが受けてきた《
「ご存知かと思いますが、この《
「えっ……そ、それは……たまたま凄く足が速い人か、瞬間移動ができるスキル……がある冒険者だったとか? わ、私たちギルドは、顧客のスキルまで調べる権利はないので……」
言葉を濁しながら、マリーは上手く答える。この対応は午前中にオレが彼女に教えたものだ。
冒険者ギルド協会の規則にある『冒険者ギルドの職員は登録冒険者のプライベートや個人能力を深く詮索してはいけない』という一文を応用した答えだ。
「ほほう? ということは、この駆け出しの冒険者の『ライルとエリン』の二人組が、その特殊なスキルと力で、いきなり《
「えーと、依頼を完遂したのは、たしかにその二人です。ですが、二人の個人的な能力については答えられないです、ギルド的には。申し訳ありません」
「ふむ、そう答えてきましたか。なかなか上手い答えですね。なるほど、たしかに協会の規則では登録者の詮索は禁じられていますから」
マリーの答えを聞いて、ヒニリス調査官の眼鏡がキラリと光る。公正取引委員会の調査官ともなれば、各ギルド協会の規則にも通じていた。
マリーに上手くはぐらかされても、ヒニリス調査官の顔にはまだ余裕がある。まるでマリーの答えする想定していたかのようだ。
「では次の質問をします。帳簿によると同じように《
ヒニリス調査官が最初の指摘してきたのは、同じようにオレが受注した《
こちらは支払金が必要なために、オレが個人的に採取した“簡単な依頼”だ。
「えーと、その依頼を達成した冒険者の人も、たまたま特殊なスキルを持った人なのかもしれません。わ、私たちギルドは顧客のスキルまで調べる権利はないので……」
「ふむ、やはり、そう答えてきましたか。ですが、こちらも明らかに異常な結果です。何故なら《
ヒニリス調査官が指摘してきたのは、《
「ですが記録によればこの『冒険者ダーク』という者は、たった一人で、しかも一日という短時間で、《
ヒニリス調査官は少し興奮しながら、帳簿を指摘してきた。
彼の指摘してきた『冒険者ダーク』という正体は……実はオレだ。
《
ちなみに協会の規則では『ギルド職員の冒険者登録』は特に禁じられていない。つまり、なんの違法行為もないことだ。
ちなみにこのことはオーナーのマリーも知っている。
「えーと、そのダークさんという方は、とても不思議な人で私もよく分からないんです。でも頼もしい方で、依頼はちゃんとこなしてくれるので助かっています。まぁ、でも、あまりにも尋常でない人なので、私も今で混乱してしまいます……はぁ……本当に何者なんでしょうか、あの人は……」
マリーは説明をしながら、オレの方をチラ見してため息をついていた。
まるで本当に『ダーク』という冒険者の規格外さに、心の底から呆れているような表情。傍から見ているオレでも分からないほどの、マリーの迫真の演技だ。
「むむ、今度は、そう答えてきました。では私も率直に説明しましょう。実は私が行った事前調査によれば、『ライルとエリン』は一般的な冒険者でした。そんな未熟な彼らに《
ヒニリス調査官の表情が変わる。マリーの想定外の手強さに、作戦を変えてきた。
公正取引委員会が独自で行うことが許可されているのだ。
「これは私の推測ですが……その『冒険者ダーク』が全ての黒幕……という可能性が高いです。ですが、これもあくまでも推測。この私にすら尻尾を掴ませない『冒険者ダーク』という者は、いったい何者なのでしょうか……ふっふっふ……」
ヒニリス調査官の表情が、更に変わる。独り言をつぶやきながら、口元に不敵な笑みを浮かべ始める。
まるで『手強い好敵手を存在を見つけて歓喜』しているような表情だ。
「あ、あのー、ヒニリス調査官さん、大丈夫ですか?」
「ごほん。失礼しました。では次の質問に移ります。お聞きしたいのは、『冒険者ギルド協会』から受けた、この不自然すぎる公共依頼についてです!」
「あっ……それは……」
こうして《毒マムシ》ヒニリス調査官の執拗な調査は、最終ラウンドへと移行するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます