第12話冒険者ギルド協会
2,000万ペリカをギルド再建で有効的に使うために、オレたちは冒険者ギルド協会にやってきた。
「うっ……冒険者ギルド協会。相変わらず豪華ですね。どうして、こんなに豪華なんでしょうね」
マリーが声をもらすもの無理はない。
協会は王都の中央区画にある、五階建の立派な建物だ。周囲の公共の建物に比べても、かなり金がかかっている。
数ヶ月前に家業を引き継いたばかりのマリーは、協会は二度目。そのため協会の金周りの良さが気になるのだろう。
「オーナーが思っている以上に、実は冒険者ギルドはお金が集まる業界なんですよ」
迷宮や秘境に魔物が多く生息するこの大陸では、冒険者職は人気が高い。
宝や素材、魔石による一攫千金の可能性もあり、若者たちがこぞって冒険者になりたがるのだ。
そのため人口約二十万のこの王都にも、約数千人の冒険者が住んでいると言われている。
それに関連する店で武具屋やポーション屋、冒険者向けの宿屋、酒場や食事屋など無数にある。
冒険者ギルドは王都に大小合わせて百近くあり、色んなお金が冒険者ギルド協会に集まっているのだ。
「そ、そうだったんですか⁉ 冒険者ギルド業界はそんなにお金が動いていたんですね。はぁ……もしかして貧乏なのは、ウチだけだったのですか?」
「安心してください、貧乏な冒険者ギルドは他にもあります。でも協会だけは昔から安定していますが。さて、中に入りますか」
今回の目的は、冒険者ギルド協会への挨拶。ここまで立派な協会の収入源、その一端を狙いにきたのだ。
「ちょ、ちょっと、待ってください。フィンさん!」
躊躇するマリーを引っ張るようにして、協会の建物に入っていく。
一階の受け付けで、ボロン冒険者ギルドのギルドカードを見せて、担当者に取り次いでもらう。
「……こちらでお待ちください」
協会の女性職員に案内されて、事務室の奥の椅子に案内される。
周囲には壁はなく、かなり適当な応接の場所。本来なら奥にちゃんとした応接室があるはずだ。
おそらくはギルドランクFの冒険者ギルドなので、こんな粗末な応接場所に案内されたのだろう。既に格差の対応をされているのだ。
「フィ、フィンさん。緊張するんですけど。何をしに来たか、そろそろ教えてくださいよ」
協会に独特の雰囲気に慣れていないマリーは、周囲をきょろきょろしながら緊張していた。
仕方がない。担当者が来るまで、少しだけ説明をしておこう。
「では説明します。さて、オーナーに質問ですが、どうして協会にはここまでお金があると思いますか、?」
「えっ、いきなりですね⁉ えーと、私たちから毎月、協会の会員費用を集めている……から?」
各冒険者ギルドは毎月、協会に会費を上納している。上納金を払えないと、冒険者ギルドとして仕事をする許可が取り消されてしまうのだ。
「半分だけ正解ですね。たしかに王都には百近い冒険者ギルドがあります。それでも毎月の会費を掛け算しても、これだけの大きな建物は維持できないですよね?」
「あっ……そういえば⁉ だったら、どうやって、こんな金持ち商館みたいなのを⁉」
「それは簡単です。冒険者ギルド協会は“公共依頼”を受けて、その膨大な手数料で運営されているのです」
“公共依頼”は公の組織から依頼されるのこと。代表的なのは王家や新聖教会、商工ギルド、職人ギルド、魔術師ギルドなどだ。
それらの公の組織の公共依頼は、必ず冒険者ギルド協会を通す決まりとなっている。
協会から各冒険者ギルドに仕事を配分。その時に協会は多額の手数料を取り、協会は潤沢に運営されているのだ。
「そ、そうだったんですか⁉ でも、それって手数料の取り過ぎじゃないですか⁉ こんな大きな建物を作れるくらいの手数料だなんて⁉ どうして公共依頼は、協会を通さないといけなんですか?」
「その疑問ももっともです。ですが協会がなければ、百近い各ギルドへの“公共依頼”は手間となります。つまり手数料を払っても、協会を通した方がお得なんです」
団体や組織が多くなればなるほど、その管理は難しくなる。
特に冒険者という荒くれ者を、管理できるのは冒険者ギルドだけ。その冒険者ギルドを管理できるのは協会だけ。
つまり大きな公共依頼は、協会を通す方が効率が良いのだ。
「なるほど、そうだったんですね。ん? でも、そのことと今回ここに来た理由は、どういう関係が?」
「いい質問です。ちなみにマリーオーナーになってから、一度でも“公共依頼”が協会から来たことはありますか?」
「い、いえ、ないわ。うちはギルドランクFだから……だと思って諦めていたわ」
「それはオーナーの認識不足です。あの張り紙を見てください。ランクFやEの冒険者ギルドでも、“公共依頼”を受注しているでしょ?」
協会の事務所には、色んな張り紙があった。
『城壁の警備の依頼は○○冒険者ギルド達成!』『聖教会の地下の魔物駆除、▽▽冒険者ギルド達成!』などと書かれている。
協会の公共性をアピールするため、わざわざ目立つ場所に張り出しているのだ。
「えっ、本当⁉ どうして、うちとほとんど変わらないギルドランクなのに、“公共依頼”を受けている所がある⁉ どうして⁉」
まさかの事実にマリーは目を丸くしていた。
彼女は冒険者ギルド経営者の孫娘だが、こうした裏の事情は聞かされてこなかったのだろう。何が起きているのは理解できずにいた。
「その答えはですね、オーナー……ん?」
説明をしようとした時だった。誰かがこちらに近づいてくる。
あの人物は、前職の時に見たことがある男性。協会の職員で、総合的な仕事をする事務局長だ。
「……お待たせしました。ボロン冒険者ギルドさん、でしたか? まだ潰れていなかったんですね、あそこは。ああ、失礼しました。さて、いったい何のようですか? 私も忙しいので手短にお願いしますよ。はぁ……」
いきなり事務局長は悪態をついてきた。
ため息をつきながら、面倒くさそうな態度。明らかにランクFの当方を、舐めてきた口調と態度だ。
「フィ、フィンさん……やっぱり帰りましょうよ……」
「大丈夫です、オーナー。ここはオレに任せてください」
尻込みしているマリーに変わって、オレは交渉のテーブルにつくのであった。
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