第45話フィンの戦闘

 悪徳経営者リッパーによって、オレたち三人の命が危険に晒されてしまう。

 何とかマリーとレオン姉弟を逃すことに成功。

 彼らが憲兵を連れてくるまで、オレは一人で時間を稼ぐことにした。


 意を決したオレは、落ちていた建築用の角材を構える。


「おい、こいつ、一丁前にヤル気だぜ⁉」

「あっはっはっは……そんな素人丸出しの構えで、止めておきな兄ちゃん」

「ああ、そうだぜ。無意味に抵抗しても、逆に急所を外れて、苦しんで死ぬだけだぜ!」


 対人戦に優れた冒険者は、構えを見ただけで相手のある程度の力量が分かるという。

 素人丸出しの構えのオレを見て、冒険者たちはあざ笑ってくる。


「ん? だが、もしかしたら、コイツも隠れた腕利きの可能性はないのか?」

「ああ、たしかに。さっきにガキどもみたいに、弱いフリをしている危険性もあるな?」


 そして冒険者の中には、こちらを警戒している者もいた。

 腕利き剣士の中には、あえて素人丸出しの構えで相手を油断させる達人もいる。そのことを警戒しているのだ。


 これは相手の完全な勘違い。

 だがオレにとっては有り難い状況。このまま警戒してくれたら、時間が稼げるのだ。


「おい、お前たち! 何をモタモタしておるんじゃ⁉ そのフィンは隠れた腕利きでも、剣の達人でもないぞ! 名も無い山奥から出てきた、ただの事務員じゃぞ!」


 そんなチャンスを狡猾なリッパーが潰してきた。

 ヤツはオレが王都に出てきてきた時に、最初の雇い主。オレが素人であることをお見通しなのだ。


「なるほど、ダンナ。了解したぜ! こいつは本物の素人だったのか」

「ちっ、警戒して損したぜ!」

「おい、さっさと仕留めて、この場からズラかるぞ」


 リッパーからの情報を得て、冒険者たちの顔の表情が変わる。短剣やナイフを構えながら、ゆっくりと包囲網を縮めてきた。


 一対一で正々堂々と戦うつもりは皆無なのだろう。このまま数人がかりで、一気にオレの命を消し去るつもり。

 かなり危険な状況だ。


「いくぜ!」


 その時だった。

 正面の一人が大声で上げて、斬りかかってくる。


「「はっ!」」


 同時に左右の二人も動き出す。

 正面があえて大声をだすことで、対象者からの注目を浴びる。その隙に左右の二人が、オレの死角から斬り込んでくるのだろう。

 なかなかの連携だ。


(さて、角材で迎撃をするか……ん? だが、待てよ。こういう対人戦は、どう対応すればいいんだ?)


 ふと、そんな疑問が浮かんできた。

 マリーとレオンには、『オレが時間を稼ぐ!』大見得をきった。

 だがオレ自身には対人戦の剣の経験がないことを、急に思い出したのだ。


(対人戦か……この角材を振り回して、相手を近づけないようにすればいいのか? いや、相手は鋭利な刃物や皮鎧で武装している。はたして、こんな細い角材が通じるのか?)


 自分の手にした角材を見ながら、色んな疑問が浮かんできた。疑問を解決しな内は、下手に動かない方がいいかもしれない。


 それに有りがたいことに、相手の動きはなぜかスローモーションで遅く見える。

 よし、それなら。今のうちに打開策を、今までの経験から思い出すことした。


(今までの経験か……あえてあるとしたら『師匠からのしつけ』と『家の近隣の害虫駆除』くらいか、オレの場合は?)


 師匠は少し変わった性格だが、しつけは幼い時から厳しくしてきた。そのため多少の荒事でもオレは気にしない性格に育った。


 またオレが育った家は辺境にあったため、よく“害虫”が出没。駆除するのもオレの家事の一つだった。

 今思うとその二つは、一応は荒事の経験になるのだろう。

 だが、しつけや害虫駆除は近接戦闘とはまるで違う


(ふう……仕方がない。ダメ元で“害虫駆除感覚”で、角材を振り回してみるか)


 だがオレにある経験はそれだけ。諦めて抵抗することにした。

 さて、いくと行動を移すとするか。何故かゆっくりと斬り込んでくる襲撃者たちに、オレは意識を戻すことにした。

 時間がまた動き出す感覚になる。


「死にやがれぇ!」


 叫んで突撃してくる正面の男が、視界に入る。その動きはなぜか遅い。


 だが油断はできない。

『剣術の達人の動きは逆にゆっくりと見える』と聞いたことがあるからだ。


「とりあえず迎撃してみるか……はっ!」


 見よう見まね気合の声と共に、オレは角材を振り回す。対象は正面の男だ。


 ブッ――――フォン!


 直後、角材の先端から“光のようなもの”が放たれる。

 光は正面の男に直撃。


 ザッ、バ――――ン!


 少し間を置き、衝撃波が発生。

 謎の光から衝撃波が発生したのだ。


「う、うぎゃっ――――!」


「ぎひゃ――――!」

「あぎゃ――――!」


 衝撃波を受けて、襲撃者がふき飛んでいく。背後にいた数人の冒険者が巻き込まれている。彼らは情けない悲鳴を共に、吹き飛んでいく。

 かなり派手に吹き飛んでいったが、辛うじて全員の命はある様子だ。


「な、な、なんだ、今の閃光と衝撃波は⁉」

「ま、まさか、こ、こいつ魔法使いだったのか⁉」

「お、おい、ビビるな! だとしても、この間合いは、オレたちの有利だ!」


 回り込んでいた二人の襲撃者は、怯えながらも再び斬り込んでくる。仲間を犠牲にしても任務を達成するつもりなのだ。


「ああ! いくぞ!」


 鋭い短剣の刃先が迫ってくる。棒立ちなオレを、切り刻む凶刃だ。


(これは回避しないと。ん? いや、待てよ。そもそも、コレは回避する必要があるのか?)


 そんな疑問が浮かんできた。

 何故なら迫ってくる刃先には、特に何も“脅威”を感じない。


 今までの経験の中で比べるとしたら、“師匠のしつけ”や大きめの害虫の攻撃の方が、何十倍も脅威。

 つまり回避する必要すらない、可能性が高いのだ。


(だが相手は腕利きの冒険者。やはりちゃんと回避した方が良いのでは? いや、そもそも『剣の攻撃の回避』は、どうするものなのだ?)


 今まで剣同士で稽古など、一度もしたことがない。そのため相手の剣を回避する概念が、オレの中にはないのだ。


(それなら、とりあえず受けてみるか?)


 師匠のしつけや害虫の攻撃を受けることなら、今までも経験したことがあった。

 だから慣れない回避よりも、受けることを選択する。


「コイツ、棒立ちぞ⁉」

「やはり近接戦闘は素人だったみたいだな! いくぜ!」


 勝利を確信した相手は、奇声をあげながら短剣で斬り込んできた。

 相手は何故かオレのことを魔法使いだと勘違いしている。だからこのまま相手の急所を突き刺し、絶命させるつもりなのだ。


「もらった! 死ねぇえ!」


 二つに凶刃が左右から襲ってきた。

 オレは全身に気合い入れて、防御の体勢にはいる。


 バッ、キ――――ン!


 直後、甲高い金属音が鳴り響く。

 オレの身体に直撃したはずの短剣が、見えない障壁に衝突。衝撃音を発生させたのだ。


「な、な、何が起きたんだ、今⁉」

「コ、コイツに刺したはずの短剣が、何かに跳ね返されたのか⁉」


 まさかの事態に、二人の襲撃者は固まっていた。腕利きの彼らでさえ、何が起きたか理解できずにいたのだ。


 直後、オレの周囲に変化が起きる。


 ザッ、バ――――ン!


 先ほどと同じように衝撃波が発生したのだ。


「ん? アギャー!」

「おい、どうした⁉ うっ、あぎゃ――――!」


 周囲にいた襲撃者は、衝撃破を受けて吹き飛んでいく。

 まるで『自分たちの攻撃の何倍もの反射攻撃をくらった』かのような吹き飛び方だ。


 その衝撃波は他の冒険者に到達。残っていた全員がふき飛んでいく。

 かなり派手に飛んでいったが、辛うじて命はある様子だ。


「ば、ば、ば、馬鹿な⁉ い、い、いったい、何が起きたのじゃ⁉」


 まさかの状況に、彼の雇い主リッパーは唖然としている。

 雇った冒険者は、衝撃波によって吹き飛んでしまった。全員が戦闘不能になり、残るはリッパー一人だけになってしまったのだ。


「オレもよく分からないが、奴らは運が悪かった、ということだろう」


 正直なところ当事者であるオレも、今の事態は飲み込めていない。だが、こんな時だからこそあえてハッタリをかまし、冷静でいることは重要。

 余裕の態度でゆっくりとリッパーに近づいていく。


「ひっ⁉ こっちに来るんじゃない、化け物が⁉」


 まるで“危険な存在”でも見るような怯えた顔で、リッパーが叫んできた。


「くっ、くそっ! こうなったら!」


 そして追い詰められたリッパーは、懐から何かを取り出す。

 赤黒い光を放つ魔石。何かの召喚石だろう。かなり怪しげ危険な品物だ。


「ガッハッハ……! これで貴様も終わりだ、フィン!」


 こうして追い詰められたリッパーは、自暴自棄で最悪の行動を引き起こすのであった。





 ◇


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 ◇


 ◇


 新作を投稿しました。

 最初だけでもいいので、是非とも読んでみてください


 https://kakuyomu.jp/works/16816700427569986553


 タイトル

 ゴブリンだらけの危険な現代世界になったけど、【チート付与魔術】を手に入れた俺だけ都市サバイバルを自由に生きていく



 あらすじ

 ブラック企業に勤める沖田レンジは謎の眠気に襲われ、目を覚ますと世界は一変していた。街中にゴブリンが群れなし、市民が惨殺される無秩序世界になっていたのだ。

 だがレンジは夢の中で謎の褐色少女から【付与魔術】を獲得。パチンコ球を拳銃並の威力に高め、上着で銃弾を防ぐほどに強化できるチート能力だ。

 これはモンスターが出現して崩壊した無政府状態の中、群れを成すことを嫌う青年レンジがチート能力で自由気ままにサバイバル生活。プライドが高いOLや潔癖症の名門女子高生、令嬢女子大生、ロシア美少女など女たちを抱いていくスローライフである。

【都市サバイバル×モンスター駆除×美少女】

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冒険者ギルドのチート経営改革 魔神に育てられた事務青年、無自覚支援で大繁盛 ハーーナ殿下 @haanadenka

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