第29話 委員長は複雑な様子
「ねぇねぇ聞いたよー? 朝から女の子を侍らせていたんだってねぇ~」
そう言って、昼休み俺に話しかけてきたのは委員長だった。
俺の肩をつんと突き「にしし」と意地の悪い笑みを浮かべている。
「委員長……。人聞きの悪い。そんな事実はないからな」
俺はため息混じりにそう答える。
まぁ、委員長が聞いてきても仕方ない。
朝のやりとりは、登校時間という人が多く行き交う時間帯での出来事だ。
そうなれば、噂なんてすぐに広まるし、委員長の耳にも当然入ってきているだろう。
朝から同じように他の人から聞かれたりしたしな……。
俺の返答を聞いた委員長は、納得した様子で手をポンと叩いた。
「そかそか、やっぱりそうだよねっ! ほら、かずっちとワンワンって色々と悪目立ちするから何かの勘違いじゃないかなーって」
「そう言ってくれるのは委員長だけだよ。9割ぐらいの人は噂を真実だと疑わないからな……。まったく、嫌になるよ」
「ふーん。でも、かずっちは嫌そうな顔をしてるけど、実際『どうでもいい』と思ってるでしょ?」
「まぁ俺がどうこうしたところで広まってしまったのは消せるわけではないし……。人の噂も七十五日ってね」
「アハハ! 確かにね~。でもそれって、何もしない言い訳にも聞こえるよ??」
「ま、その通り。正直、他人からの印象なんて俺はどうでもいいからな」
そう、何もしない。
何もする気がそもそもない。
ってか――――何かしても意味がない。
この状況……。
俺は横にいる存在を横目で見る。
目が合うと不思議そうな顔で訊ねてきた。
「一輝、何か困ってるの?」
「まぁ……現在進行形でね」
「そうなんだ。困ってるなら協力するよ」
「そっか。俺は友人のパーソナルスペースの変化に驚いてる」
「そう?」
「うわー……曇った様子もない純粋な目っすね」
「ありがと」
俺は苦笑し、委員長に視線を戻す。
委員長はその様子に首を傾げていた。
いや、首を傾げたいのはこっちだよ!
昨日、解散するまでは普通だったのに……今日はずっとこの調子だ。
この変わりようはどうしてだよ?
俺の左側が定位置と言わんばかりに、腕が当たるぐらいの距離にいるし……。
今までも距離が近いことはあったが、今は遠慮というのを全く感じない。
……七菜香。
一体、何をやったんだ。
「えーっとさ。ゆうちゃんに何かしたの?」
「それは俺が聞きたい」
「ん〜。もしかして……一夜の過ち的な感じだったり?」
「あほか! 昨日は普通に遊んだだけだ」
「あー、この前言ってたね。4人でだっけ?? それで触発されちゃったのかなぁ〜」
「触発??」
「ピンチに陥って、吊り橋効果的な作用が働いたのかなーって。あ、もしかして、かずっちがハーレムでも作ろうとして画策してるとか……?」
「在らぬ誤解だ。ってか、めっちゃ引く顔をしてんじゃねーよ」
「え、でも『日本で一夫多妻制の先駆者になるのが俺の夢!!』って言ってなかった? 声高らかに夕日が見える丘の上で宣言してたじゃ~ん」
「捏造すんなよ、おい」
「言ってないという証拠もないよねぇ? どっちを信じるかなぁー??」
「すげぇ暴論……」
俺が嘆息し、やれやれと肩をすくめる。
可笑しそうに笑う委員長を見ると自然と笑みが溢れた。
「冗談はこのぐらいにして、真面目な話。かずっちは、本当に二股してないよね?」
「……してないって。それは天に誓って絶対」
「そっか」
言葉短くそう口にすると、委員長は大きなため息をついた。
「確かにゆうちゃんも『一番の親友は恋人以上』みたいなこと言ってたし……疑ってはなかったんだけど。ウチからしたら、なんか複雑だな~って」
「そうか?」
「だってさぁ。彼女がいる男子とは距離感ってムズイじゃん? ぶっちゃけると、関り過ぎない方がいいかなーって思ってたんだよねぇ」
周りを気にしない厳島と違って、委員長は割と気にする方だ。
よく見ているし、何でも気づく。
だから、本当に気遣っていたのだろう。
「ほら彼女に悪いし、嫉妬で殺されても嫌だからぁ……。ウチのせいで喧嘩とかも目覚めが悪いじゃん? だから、ゆうちゃんみたいな考え、ちょっと心配……」
「気にしないで大丈夫。私が決めたことだから、一ノ瀬さんには遠慮せずに自分を優先するよ。ぶつかるのばっちこーい……」
「あはは……。ゆうちゃんの我の強さが羨ましい……。選択肢とか、希望があると困るんだよね。満足できなくなるから……」
「常に満足を求めるのは、人としてアリ」
「いやいや、ゆうちゃん。みんながみんなそうだったら、崩壊するからね」
「負けない」
「なんで自信満々なのよ~」
心配そうに厳島を見ているが、当の本人は全く気にする様子がない。
俺の横でマイペースにゲームをしている。
その様子を見た委員長は、何やら葛藤した様子で「うーん」と唸っている。
けど、悩んだ末に諦めたのかため息をついた。
それから、いつもの明るい表情で俺たちを交互に見る。
「今日、同好会に行こうと思うんだけど。かずっちとゆうちゃんは来る??」
「俺は行くぞー」
「じゃあ、私も行く」
「“じゃあ”って俺が行かないなら行かないのかよ」
「うん。その場合は委員長を連れて一輝の家に突撃する」
「勝手にウチを巻き込まないでくれるかなッ!?!?」
……やめてくれ。
七菜香と委員長を合わせたら良くない化学反応が起きそうだから。
「そうだ! 今日はみんなでボードゲームをやろうよ! また新しいの考えたんだぁ〜」
「どうせ、ろくでもないゲームだろ? 破綻してる系の……。この前は『人生どん底ゲーム』だったか? ひたすら転落していくタイプの」
「うん。美由紀が考えるのは大体クソゲー」
「ひどっ!! ウチだって真面目に考えてるんだからねッ! なんと言っても今回はちょー自信作なんだぁ〜」
「「ふーん……」」
「ちょっと興味なさすぎない!?」
「ハッハッハ〜! だって、委員長のゲームは難し過ぎんだよぉ。もう少し分かりやすく考えてもらわねぇと流行らねぇぜ??」
「犬飼いたんだ」「ワンワンいたんだね」
「いつも通りに扱いがひでぇよ!!」
ずっとスルーされ続けていたワンコロがツッコミを入れると、2人は楽しそうに笑った。
それが嬉しかったのか、ワンコロは「やったぜ!」みたいな顔をしている。
ほんと、メンタルが鬼だよな。
そこんとこは尊敬するよ。
「ふわぁ~、一輝~。そろそろ飯にしようぜ〜」
「ワンワンはお留守番! 次の授業で出す課題が終わるまでご飯はなし」
「いいんちょ~、それはないぜぇ……」
「ワンコロ、頑張ったら女の子を紹介してあげるぞ?」
「マジ!? じゃあ張り切って—―――いやいや、わかってるからな。これは犬のメスというオチだろ?」
「ちゃんと人間だから大丈夫だ。好みは任せるよ」
「おっしゃぁぁあああ! テンション上がってきたわ~っ!!!」
ワンコロは委員長から渡された課題を猛スピードでこなしてゆく。
勿論、中身が伴っているかは不明だが……。
ちなみにワンコロはこの後、ギャルゲーを紹介してやった。
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