第37話 七菜香の秘密のメモ(七菜香視点)


「まったく上手くいかないものですね……」



 兄さんとお母さんを置いて、部屋に戻った私はベッドに寝転がり天井を見つめている。真っ白な天井で、いつもと比べて特に変化はない。


 ただ、白いからこそ思考行動に移すには持ってこいだった。

 私はノートを開き観察結果と最近の進行状況をメモしてゆく。



 ——厳島夕莉。

 クールな女性。煽り耐性は低い。

 兄さんと友達でいることに異様な拘りがある模様。

 関係性に悩みはあるが、隣にいたいらしく独占欲は強そう。

 ただ、今までを考えると動きにぎこちなさがある。


 一言で表すと『面倒くさい女子』です。



「まぁ、こんなとこですね。兄さんと相性は悪くなさそうですけど、一歩間違えればメンヘラ一直線な雰囲気があるんですよ。ダークサイドに堕ちて病む的な……はぁぁ」



 これは、私ではどうにも出来ませんね。


 私は次のページをめくり、ワンちゃんの項目を見る。

 ここは『忠犬』でいいですね。

 特に気にする必要はないでしょう。

 自分の楽しい方向に行くだけですから、読みやすくて考える必要はないです。



「能天気って、羨ましいですね」



 次のページを開き、まだあまり書いていない白い紙に私は感じたことを綴ってゆくきます。

 委員長さんは、この前少しだけ話してみてわかったことがありますからね。

 要チェックな人物ですよ。



 ——古庄美由紀。

 周りからは委員長と呼ばれていて、見た目は派手だけど真面目な人。

 視線の動きから、周りの反応を物凄く気にしていることから、気が弱いと思えます。

 気が強そうなのに、ことごとく見た目通りではない人です。


 私を案内している時も、『不快に思っていないか。遠慮してないか』という感情を抱いていないか常に気にしている様子でした。

 兄さんとは仲良さそうですが、その感情は好意なのか友情なのかはまだ見えてきません。


 ただ、周囲に気を遣う性格。

 それから、調和を重んじるような態度。

 という、それらを踏まえれば自ずと見えて来る気がします。


 他にも何か見た目と違うギャップがありそうですし、これは注目ですね。

 これは兄さんから聞いた話ですが、同好会の設立は委員長さんの提案だったそうです。同好会に所属しているのに、知っているゲームは最新のものばかりで、かなりゲームは下手らしいですね。



 良い人ではありますが……何やら面倒な気配を感じますね。



「こう考えると、兄さんの周りは美人が多いですね……。これでは逆に免疫がついてしまいそうです」



 私は大きなため息をつき、ノートを閉じました。



 さて……次はイレギュラーな出来事への予測と整理ですね。

 しばらくは大丈夫だと思っていましたが……これは予想外です。

 いや、いつも予想通りに行かないんですけど。



 1番の問題はお母さんの帰宅です。

 天才の中の天才。強引とも言える圧倒的パワーで、周りを巻き込み自分の流れに引き込んでしまいます。

 計略も戦略も無視して……。

 私からしたら、天才ではなく天災ですね。


 昔、色々ありましたからそのお陰で落ち着きましたけど。

 それでも、大差はありません。

 トリッキーで予想外の動きをしますから、気をつけないといけないです。



 余計なことを言われて、兄さんとの関係がバレても困りますし……。

 あ……日曜日は勉強会じゃないですか。

 そこでバラされたら最悪ですね。

 今はその時じゃありませんから……。


 だから仕方ありません。

 そこは、先手を打って排除を……。



「どうして、私ばかり悩んでるんでしょう……。兄さんがしっかりしていれば、こんなことにはならないんですよー……」



 私は昔の写真を遠目で見ながら文句を言う。



 あーやだやだ!

 なんで私は、こんなことばかりに頭を使っているのか……。

 捻くれ者の相手ばかりでは疲れてしまいます。



「まぁ、私も大概ですけどね」



 私は自分の顔をぺちんと叩き、ふぅと息を吐いた。

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