第38話 勉強会って明日だよね?
今日は三連休の初日……。
普通だったらこういう連休はどう過ごすのだろうか?
恋人がいる人はデートや、ちょっとした旅行とかするのかもしれない。
いない人は、友達と遊びに行くのだろう。
それか家族と美味しいものを食べに行くという選択肢もあるかもしれない。
他にも部活、クラブチーム、習い事など、連休中のイベントは無数にあることだろう。だからこそ、みんなは連休は何して過ごそうかと、期待に胸をふくらませるかもしれない。
けど、俺の過ごし方は違う。
怠惰にベッドで横になりながら、ひたすらに休息につとめている。
だってそうだろ?
明日から勉強会。
七菜香と厳島のいがみ合い。
そしてワンコロの暴走…………あ、勉強には来ないから心配ないか。
でも、その代わりに感覚人間上位互換の母さんがいるからなぁ。
明日は、面倒なことが起こる気しかない。
いや、絶対に起きると断言できるよ。
俺はため息をつき、枕に顔を埋めた。
「だから束の間の平和を味わないとなぁ~。このままもうひと眠りして――」
“ピンポーン”
そんなことを考えていたら、誰かが来た音がした。
宅配便か?
それとも、外に行った七菜香が鍵を忘れていたとか?
まぁ、下には母さんがいるから俺が行く必要はないだろう。
『………………………っ!!』
宅配にしては、下がドタドタと騒がしいな。
……何かあったのか?
俺は聞き耳を立て、微かな音を拾おうと集中する。
『何々? かずちゃんを訪ねて来たのぉ~?』
母さんの興奮した甲高い声が耳に届く。
全く、何に興奮してるんだか……って、俺の名前を言ったか?
嫌な予感が頭を過り、背中に冷や汗が滲みだす。
『上がって上がって! もう、かずちゃんたら、こんな子が来るなら教えてくれてもいいのに~~! ってごめんなさいね、1人で盛り上がっちゃって! 慌ててはダメよ麗花。こういう時は素数をかぞえて深呼吸よ……ひーひーふー……よし。ちょっと待っててねぇ。今、呼んでくるから!!』
ドタドタと慌ただしく、階段を駆け上がる音がする。
そして、ドアが勢いよく開いた。
「かずちゃん、かずちゃん!! すっごく可愛い子が訪ねて来てるわよ~」
「誰が来たんだ?」
「いいから早く来なさい! レディを待たせるもんじゃないわ~」
母親はそう言うと有無を言わせず俺を引っ張り、玄関まで連れて行く。
相変わらずのパワーで連れてというよりは、引きずられた感じだ。
玄関まで行くと、そこに立っていた人物に俺は目を丸くした。
「やっほ、一輝。一日早いけど来てみた」
舌を小さくペロッと出して悪戯っ子ぽく言う厳島がそこにはいた。
……てか、何でいるの?
現れた厳島は、白の襟の付いた黒のワンピースを着ていて上品な印象だ。
彼女の綺麗な脚が際立っていた。
なんだろう。
この俺の好みにスマッシュヒットする服装。
少し作為的なものを感じずにはいられないんだが……。
けど1番の問題は……俺の後ろにいて、異様に目を輝かせる母さんなんだよなぁ。
……なんて嫌な状況だ。
「えーっと厳島なんで家に……?」
「明日の勉強会に備えて前乗りした感じ」
「勉強に前乗りってなくない!? しかも七菜香がいない時だしさ」
「狙ってきたわけじゃないから」
「自分で言うと説得力がないからな?」
厳島は惚けるように小首を傾げた
あざといけど、普通に可愛いなったく……。
仕方ない諦めるしかないか……。
来てしまったのだから、追い返すわけにはいかないしな。
と、なれば、次の問題の解決だ……。
「かずちゃん! 早くその子を紹介してよぉ~!!」
やっぱりこの流れになったか……。
俺は、親に人間関係のことで介入されたくない。
何故なら、うちの両親はとにかくしつこい。
やたら聞いてくる。
『かずちゃん、彼女は?』
『いい加減、女の子の4,5人は連れてきなさい!』
『彼女出来たら紹介しなさい!』
『友達もどんどん連れてきなさいね!』
まぁ、こんな感じだ。
他にもあるが挙げていたら頭が痛くなる。
俺からしたら話題に群がる記者と同じだ。
当事者からしたら、そーっとして欲しいのに。
「厳島、とりあえず部屋に来てもらってもいい? 今、誰もいなくて丁度いいからさ」
「……部屋? それって一輝の?」
「おう」
「部屋……ね」
厳島は悩む素振りを見せる。
よし、考えているな?
部屋に呼ぶ、そうこれは俺の作戦だ。
常識的に考えて、女子をいきなり部屋へ呼ぶっていう行為はやましい気持ちがあるのが殆どだろう。
しかも、“俺しかいない”と言ったから余計に警戒して普通は入りたがらない。
入るとしても、女子が複数人いる場合だけ。
1対1ではまず有り得ないのだ。
だから、俺はあえて部屋に誘った。
断ってもらい、場所を変えるためにね。
理想としては、厳島に渋ってもらい。
『それなら外でお話ししよう!』という流れがベストだ。
最悪の流れは、『軽い男は嫌い!』と言われて帰られることだ。
気まずい間柄にはなりたくないからな……。
「厳島、部屋が嫌だったら、外に――」
「部屋に行きたい」
「えっ……?」
食い気味で言われた。
てか、俺の馬鹿……。
普段から部室に二人っきりが多かったんだから警戒が薄いに決まってるだろ!
どうする? 今更、やっぱり部屋は辞めようとか言い辛い。
はぁ……。部屋で大人しくしてもらって母さんの介入を防ぐしかないか。
「……じゃあ上がってくれ」
「うん。お邪魔しま――きゃ!?」
急いで上がろうとしたのか、厳島は玄関で躓いてしまう。
そのまま、顔面を床に……。
ってことはなく、俺が抱き留めた。
「おいおい、大丈夫か?」
「う、うん。ありがと」
「いいって気にすんな」
「一輝。今のは別に緊張して転んだわけじゃないから……」
厳島はそう言うと俺の顔を見て頬を赤く染める。
それから、「部屋は二階?」と聞いてきた。
「二階だよ。んじゃ、行きますか」
「あれ~二人でお部屋に? 流石にママは早いと思うわぁ。でも若いから仕方ないのかな?? ただ、これだけは言わせて――」
「うん?」
おっ!
まさか、母さんが『外で遊んだほうがいい』って止めてくれるのか!?
それは願ったり叶ったりだ!!
さすが、俺の母さ――
「……避妊はしなさいよ?」
斜め下の回答だった。
「そんな行為は、しねぇよ!!」
「男ならしなさいよ!!」
「普通、母親は止めるもんじゃないのかよ!?」
「孫の顔が見たいのよ!!」
「いや、流石に早いだろ!」
「いいじゃない、ハリーハリー!」
「……英語の発音ひでぇな」
「私は早く見たいの! ほら、ポンポン頼むわね!」
「ポンポンって……、そんな、鳥みたいに……」
なんでそんなに必死なんだよ!?
頼むから母親の職務を全うしてくれよ。
「あーもう。この馬鹿親は放っておいて行くぞ」
「あ、うん……」
俺は厳島の手を引き、にやつく母さんを置いて部屋に向かたのだった。
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