第22話 ワンコロはよく見てる
「あ……また、負けました」
「ゲームなら負けない」
「つ、次はあれです! ガンシューティングなら負けませんからっ!!」
「そう? なら、また敗北を教えてあげる」
休んで元気が出た厳島は、七菜香と一緒に大量に置いてあるゲーム機をしらみつぶしに遊びまわっていた。
勿論、対戦系オンリーで結果は七菜香の惨敗である。
勝てないのがわかっているのに、それでも挑み続けるのって、めっちゃ負けず嫌いだよなぁ。
俺は、そんな二人の様子を微笑ましい気持ちで眺めていた。
「二人とも、運動はもうやんねぇのかな?」
「やらないと思うぞ」
「え~マジかよ……なんでなんだよぉ……」
「ま、気分の問題だろ。時間的にも後はゲームオンリーで終わるんじゃないか?」
「くそ……俺の目の保養が……無念」
「お前はほんと欲望に素直だよな」
ワンコロのは「ちぇー」と、つまらなそうに口を尖らせた。
厳島の好きなところばかり回っているのは、七菜香なりの気遣いなのだろう。
素直に誘えないから“勝負”ってことにしているのが、実に七菜香らしい。
ま、でも俺が近くに行くと違った意地を張りそうだからなぁ。
『別にそんなつもりはありませんからっ!』とか言ってね……。
だから、今は女性と男性で別れるのが得策だろう。
それにワンコロを見ておかないと、女性陣に突っ込んでいきそうだし。
「お前と七菜香ちゃんの関係性っていいよなぁ。素直に憧れるぜぇ~」
「恋人ってことか?」
「まっ、それも羨ましいけどよ。なんか話さなくても、お互いの空気感で繋がっているというか。それが素直に羨ましいんだよなぁ」
「その分、ぶつかることもあるけどね」
「いいじゃねぇか。喧嘩するほど仲がいいって言うしよ。あ~俺も彼女が欲しいィィィ~一輝~!」
「ちょ、やめろって」
ワンコロがそう言って俺に抱きついてきた。
おい! 男に抱きつかれても嬉しくない……ってか、顔をこすりつけるんじゃない。
変な目で周りから見られてるだろうが!
「離れろって。てか、ワンコロって前に新入生に可愛い子がいるからアタックするとか言ってなかったか? その件はどうなったんだよ」
「………………」
「うん? どうした急に黙って。顔に絶望感が現れるるけど、もしかして」
「ああ、そうだよ。その子にはイケメンの年上の彼氏がいたんだよ~ッ!」
「えーっと、それは御愁傷様……」
「絶望だ、理不尽だ! 美少女は人類の宝なのにそれを彼氏という立場で独占するなんて!! その先輩を極刑に処すべきだぜッ!!!」
「そりゃ、また過激だな……」
「くそぉ。聞いたところによると中々の女王様気質だったらしいのに、そんな人と付き合うなんて……!! 女王様には下僕として仕えるべきだろ!」
「そっちで怒ってんの!? けど、人の恋愛にとやかく言うのは野暮だから、見守るべきじゃないかな?」
「甘いな一輝……。恋は奪い奪われるもの。そして恋愛とは勉強と一緒だ!!」
「はぁ?」
「恋愛とは、経験の蓄積値に左右されると俺は思っている。今までの、何百回におけるシチュエーションの中から適切な解答を選び、実行する。そうすると『このパターンは!?!?』と見えてくるのさ!!」
「成功率0%にパターンも何もないだろ。それに奪うのは良くないぞー」
「これから成功率が上がるんだよっ! それに奪うんじゃない……あっちが勝手に心変りしただけさ!!」
「究極にゲスいな!!」
「褒めるなって……。照れるだろ~」
「褒めてねぇよ!」
つい殴りたくなるような表情でワンコロはういんくをした。
ってか男にウインクされると気持ち悪いな……。
「まぁ、冗談はさておき」
「今の冗談だったかよ……」
「はっはっは~! 半分ぐらいだけどな!」
「どの半分!?」
俺がワンコロの頭にバシッとツッコミを入れると、ケラケラと愉快そうに笑った。
「ワンコロは性格さえ直せば、すぐにでも彼女できると思うけどなぁ。今までも付き合ったこととかないんだっけ?」
「ないなぁ~。告白されても断ってるぜぇ」
「マジ!? それは意外だな……」
「だってよ。特定の誰かと付き合うとフィールドワークができなくなるだろ~」
「フィールドワーク?」
「ナンパに命を懸けてんだ」
「そのまま命を落としてこい」
「褒めるなって……。好きになっちゃうだろ?」
「男に言われても嬉しくねぇ! それに褒めてねぇよ!!」
ってか、彼女欲しいって言っておきながら、行動が嚙み合ってないじゃないか。
ほんと、残念な奴だよワンコロは……。
俺はため息をつき肩をすくめた。
「きっと、七菜香ちゃんみたいな飼い主……じゃなくて彼女がいれば俺も落ち着くんだろうけどなぁ」
「今、言い掛けたことにはツッコまないからな……」
「そりゃあ残念。でもよ一輝。お前と七菜香ちゃんって熟年感があるよなぁ」
「そうか?」
「実は幼馴染だったとか?」
「違うけど」
「違うのかぁ。いやぁ〜てっきりそうだと思ったんだけどなぁ。付き合いたての雰囲気がないっていうか、今までもずっと一緒にいて……ようやく付き合った。みたいな感じがするんだよ」
「……それだけ相性がいいってことで」
「かっかっか~! 言われてみればそれもそうか!」
少年のような無邪気な笑顔をワンコロは見せてきた。
俺も笑い返すが……。
ワンコロの鋭い指摘に、俺は冷や汗をかいていた。
流石は本能人間……。こういうことは冴えてるんだよな。
「じゃあ一輝。俺達もなんかしようぜぇ~! バスケとか、サッカーとか、テニスとかさ~」
「そうだなぁ~。じゃあ、なんかやるか!」
「お、そうこなくっちゃな」
俺とワンコロはバスケコートに入り、二人で遊び始めた。
ちなみに結果は—―――まぁ、野生児には敵わないということだけ言っておこう。
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