第21話 インドア派が急に動くとこうなる
「一輝。私、もう無理……」
「とりあえず座って休んでおこうな。無理する必要はないし」
「うん。そうする……」
俺は借りてきたうちわで厳島を扇ぐ。
風が送られる度に気持ちよさそうに目を細めた。
遊び始めて2時間ほど、厳島はへばっていた。
肩で息をして、額には薄らと汗が滲んでいて苦しそうだ。
厳島はベンチに座り、横にいる俺へ寄りかかるように体重をかけてきている。
「全く情けないですね。まだそんなに勝負してないじゃないですか」
「……体力お化け。ハイペースでかなりやったと思うんだけど?」
「決着はついてません。スポーツは私の10勝ですが……ゲームの方は勝てていません。なので五分五分ですよ」
「……まさか。……勝ち越すまでやる気?」
「当たり前です」
「おいおい、七菜香。その辺にしておけよ……」
「い、や、で、すっ!」
頰を膨らませ、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
七菜香の悪い癖が出てんなぁ……。
妹は、なんでも白黒つけたがる。
負けず嫌いで、気が強くて、曖昧にすることをとにかく嫌う。
けど、勝ちにこだわるからこそ努力もするし、人知れず頑張っている。
勝てないことは、次回勝てるようにする……そういった面もあるんだけど。
今日は、やけに意地を張ってる気がするな。
仕方ない……。
俺は七菜香を手招きして呼び寄せ、小さい声で話しかけることにした。
……素直に聞いてくれるといいんだけど。
「七菜香、やり過ぎは良くないからな?」
「わかってますよ。この辺にしときます」
「ったく、相変わらず意地を…………え?」
「何を驚いているんですか? 私だって優しさぐらいありますよ。真剣に勝負をしてくれた相手を労うぐらいの器量は持ち合わせてます」
「熱でもあんのか? いや、それか別人がなりすましている可能性も」
「……私にどういう印象を抱いているか。一度徹底的に話す必要がありそうですね……」
不満そうに口を尖らせ、拳を握りぷるぷると震えた。
それから、「はぁ」とため息をつくと鞄から財布を取り出した。
「仕方ないですね。ちょっと冷たい物でも買ってきます」
「いいのか?」
「勿論ですよ。さて、ワンちゃん。私と一緒に買い物に行きますー」
「オッケー! 任せとけ〜!」
「…………」
「なんで無言!?」
「返事が違いますよ?」
「……わん」
「良く出来ましたね。はーい、よしよし〜」
「くぅ〜ん」
うわぁ……。
早くも手懐けられて……る?
なんか、見てて泣けてくるわ。
「では、かずくんお願いしますね。辛そうにしている女の子を放っては、男として最低ですから」
「あ、うん。任せとけ……?」
七菜香はそう言うと四つん這いの犬を連れて行ってしまった。
自分から買いに行ったところをみると、付き合わせ過ぎた厳島に少なからず罪悪感を持っていたのだろう。
俺は相変わらず辛そうにしている厳島を扇ぎ、声をかける。
「大丈夫か厳島? まぁ、辛そうだから大丈夫じゃないんだろうけど」
「少し休めば問題ない。もーまんたい……ハハハ」
「これは重症だな……」
「だいじょーぶい。ごめんね……こんな感じで」
「気にすんな。無理しても仕方ないし、動けるようになったら早めに帰ろうぜ?」
「…………」
「どうした? やっぱり気持ち悪さが——」
「やっ」
彼女は短くそう言うと、駄々をこねる子供のように首を左右に振った。
普段は大人っぽいのに、こういったらしくない行動を目の当たりにすると、可笑しくなってしまい自然と笑が溢れた。
「なんで厳島は、こんなに七菜香に付き合ったんだよ。運動が得意な方ではないだろ?」
「運動は苦手……。なんなら、体育とかずっと休んでいたいぐらい」
「だったらなんで」
「負けたくない。それに、全力でやるのが礼儀だと思ったから」
「そっか……。ありがとな」
俺が「ありがとう」と言った意味がわからなかったのだろう。
厳島は不思議そうに首を傾げた。
「なんで一輝がお礼?」
「ほら、あいつってあんな性格だし、みんなから一歩引かれちゃうんだよ。だから、真剣に向き合ってくれる人ってそんないないんだ」
「ただの意地の張り合いだけどね」
「ははっ。ま、確かにそうだな」
俺が苦笑すると、厳島はつられたように笑う。
「でもおかげさまで、こうやってみんなで遊ぶのも意外と悪くないってわかったよ」
「そりゃあよかった」
「うん。けど、ゲームには勝らない」
「それは同感。今度はみんなでテレビゲームをするなんて言うのもアリかもなぁ〜」
「それ、いいね。ゲームだけだったら絶対に負けないし」
「きっと七菜香のことだから、めっちゃ練習してから挑んでくると思うぞ」
「それは寧ろ、望むところ。どんとこいって感じ」
嬉しそうに笑う厳島を見て、兄としてほっとする俺がいた。
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