第20話 試合に勝って、勝負に負ける(泣)


「いいでしょう。私に挑もうなんて身の程知らずを教えてあげます」


「後輩なのに生意気。どっちが上か教える」



 至近距離で睨み合う2人。

 美人同士のそんな様子に、周囲も好奇の視線を向けていた。



「2人とも、周りがめっちゃ見て——」


「かずくんは黙っててください」「一輝、邪魔しないで」


「うっす……」


「では、最初はバスケで勝負ですっ!」


「負けない。インドア派の底力を見せる」



 そう言ってから2人して、バスケコートに入ってしまった。

 外に取り残される俺とワンコロ。

 隣にいるワンコロを横目で見ると親指をぐっと立てて、いい笑顔を向けてきた。


 ……無駄に爽やかだな、おい。



「せっかくだから4人で楽しめばいいのになぁ」


「いやいや一輝〜。これも立派な楽しみ方だぜぇ」



 って、ことで。

 俺達は4人は、ショッピングモールに併設された色々なスポーツやゲームが楽しめる複合施設に来ていた。

 映画とかの案もあったが、七菜香に押し切られる形でここになったというわけだ。


 まぁ俺としては運動は嫌いでもないし、ワンコロもいるから盛り上がればなぁーと、そんなことを思っていた。

 だが、到着して早々に七菜香と厳島の勝負が始まり、俺達は置いてけぼりをくらっている。


 そんなことを思いため息をつくと、横にいるワンコロが俺の肩に手を置いて白い歯を見せてニカッと笑った。



「滴る汗に、ポニーテールで見えるうなじ。それはすなわち目の保養……これ世の理を表す」


「急にらしくないことを言うなよ。ま、目の保養つうのは認めるけどな」


「だろ〜。目の前でバスケをする美少女2人。激しく動いて跳ねる度に胸が揺れ——」



 ワンコロの目が厳島と七菜香を交互に見る。

 それから、悲しい顔をして頷いた。



「残念ながら、揺れてないのもあるよ……な、ぎゃん!?!?」


「あー手がスベリマシター……」


「おーい、ワンコロー。生きてるかー」


「そのまま干からびて、車に轢かれたカエルみたいになればいいんです……ふんっ」



 七菜香は怒った様子でボールを拾うと、厳島にボールをパスした。



「では、勝負の続きといきましょうか」


「なんか顔怖い。何、キレてるの?」


「別にキレてません。ただ、むしゃくしゃしているだけです。なので、胸の大きさを揶揄されたことに……これっぽっちも! 一ミクロンも怒ってませんからっ!!!」


「そ、そうみたい」



 あまりの剣幕に厳島もたじろいだ。

 七菜香の目は、より真剣になり、心なしか殺気立っている。

 それに気圧された厳島は苦笑い気味である。



「じゃあ私からの攻めで行きますから」


「え、ちょっと……早」



 まさに電光石火。

 厳島はほとんど何も出来ずにシュートを決められてしまった。

 七菜香の表情は変わらず、再びスタート位置に戻る。



「これで、まずは1ゴールですね。ボールを奪われるまでは、ずっと私の攻撃……つまり、ずっと私のターンですっ!!」


「いや……って、動き早い。これは無理——」


「はい。2ゴール目……はぁ、全く勝負になりませんね。もう少し頑張ってくださいよ」


「まだ……できる」



 厳島は体力がないけど、運動はそこそこできるからなぁ。

 もう少しいい勝負ができるだろうけど……相手が七菜香なら仕方ない。

 自称パーフェクト人間だからな。


 マジでハイスペックだし。



「では、次も行きます」


「絶対に防ぐ……きゃ」



 厳島のガード虚しく、ボールがリングをくぐった。

 そのボールが彼女の豊かな双丘にぶつかり跳ねる。そして、七菜香の腕の間にスポッと綺麗に収まった。


 その瞬間、唖然とした七菜香は膝から崩れ落ち、がっくしと項垂れてしまった。



「ハハハ……試合に勝って勝負に負けたとは……まさにこのことですね」


「なんか……ごめんね?」


「いいんです……。これが戦力差ですから……」



 居た堪れない雰囲気に包まれる。

 厳島も流石に困ったようで、あたふたしていた。


 迷ってから——



「あっちに、いこ?」



 七菜香をちょんと突き、それからゲーム機が大量に置かれたエリアを指さした。



「次はスポーツじゃなくて、ゲームで勝負。私の土俵だったら絶対に負けない」


「…………ふふ。甘いですね。完璧美少女の私は娯楽においても極めてますよ」


「上には上がいる」


「その上が私です」


「「…………勝負!!」」



 途端、元気が出た七菜香を連れて厳島は行ってしまった。

 俺はワンコロを引きずり、コートを後にすると復活したワンコロの声が聞こえてきた。



「なぁ一輝よぉ〜。あの2人って意外と仲が良さそうだよなぁ?」


「いやいや、どう見ても争ってるだろ。火花をバチバチと散らしてるじゃん」


「そうかぁ〜? 俺からしたら喧嘩するほど仲がいいっていうか。相性が悪そうには見えねぇんだよ」


「ふーん」


「一輝はわかってねぇな」


「寧ろワンコロにはなんでわかるんだよ」


「美人の匂いからストレスを感じねぇんだよ〜。俺は鼻がいいからな、グッドすめ〜るだぜぇ」


「その発言は本格的にキモいからな……」



 そんな言葉にも動じずにワンコロはケラケラと笑う。

 俺は、そんな彼を見て苦笑するしかなかった。

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