第23話 兄と妹の馬鹿なやりとり


「かずくん、勝負しましょうか」



 みんなでのスポーツやゲームを終え、そろそろ夕食時となり腹が減ってきた頃。

 厳島とワンコロがお手洗いに行った隙に、七菜香が急にそんなことを言い出した。



「七菜香はほんと勝負事が好きだな。ってか、勝負ならさっきの場所の方がよかっただろ。なんでここ?」


「体調が悪くなった人を無視してスポーツに勤しむのも、どうかと思いまして」


「なるほど。七菜香にも人の血が流れていたってことか」


「……どういう意味ですか?」


「いやいや。なんでもないよ。優しい妹に感激しただけさ」



 俺はやれやれと肩をすくめる。

 七菜香はジト目を向け、それから大きなため息をついた。



「本当は、兄さんとこういう場所で勝負したかったんですけどねー」


「だったら、最初から二人で来ればよかったじゃないか。そうすれば変に見せつける必要もないし」


「……そうなんですけど。それでは意味がないんですよね」


「意味ないって……? ああ、二人にしっかりと関係を認識してもらうみたいなことか」


「まぁ、そんな感じですね」



 当たってますよみたいなニュアンスの言葉だが……。

 この適当な感じ、絶対に他の意図があるだろ。


 俺はため息をつき、妹に訊ねた。



「んで、本心は? そんでなんで急に勝負なんて言ってきたんだ?」


「そのまんまです。ただ、負けたら罰ゲームという単純な遊びを暇つぶしにやりたいだけですよ」


「まぁ、二人が戻ってくるまでならいいけど。えーっと、何をする気だ?」


「負けた方が全身の皮をはがされます」


「猟奇的過ぎんだろ!?!?」


「冗談です。はがすことはしませんよ」


「含みのある言い方だな……」



 七菜香はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 このたくらみ顔がめっちゃ怖いんだが……。

 冗談だと思っても、七菜香なら何か怖いことを……?

 と、邪推してしまう。


 こいつ、昔から何を考えているかわからない部分があるからな……ちょい、いや大分不安だよ。



「まぁ、軽口はこのぐらいにして」


「だったら最初から本題に入ってくれよ」


「ふふっ。実は、欲しいものが出来てしまいまして、かずくんに買って欲しいんですよ」


「ああ奢って欲しいのね。じゃあ、そのぐらい普通に頼めよ。兄として協力するからさ」


「本当ですか? 男に二言はありません?」


「ないない」


「では、あれを買ってきてください」



 俺は七菜香が指をさした先へ視線を移す。


 えーっと七菜香の欲しいものは……。

 あー、なるほどね。色とりどりの下着————あれ?


 俺は目を疑い、何度も目を擦る。

 気のせいかと思い、何度も見返したが七菜香の指は真っ直ぐに下着売り場を指し示していた。



「さぁ、早く。私が所望しているものを買ってきて下さい。男に二言はないんですよね」


「……七菜香。いくら兄でもできないことはあると思うぞ?」


「大丈夫です。自分を信じて下さい」



 自分を信じろって無茶言うなよ……。

 ってかそんなキラキラと無垢な目を向けるんじゃない!



「てか、下着ってどんなのが欲しいんだよ。何もわからずに単独で突入して物色していたら、ただのヤバイ奴だからな?」


「まぁかずくんなら大丈夫ですよ。なんとかなります」


「うわぁ、全く根拠がねー……」



 大丈夫とか、なんとかなるって投げやりな言葉だからな?

 とりあえず困ったらこれを言っとけばいい的なね……。



「では、まず私の唯一の欠点を思い浮かべてください。そうすれば、買ってきて欲しい物が自ずとわかってきますよ」


「欠点ね〜。まずは、性格がきつい」


「違います」


「頑固で負けず嫌い。寝相が悪い」


「……予想が外れた場合はただの悪口にしかなりませんからね?」


「そう言われても、わからないからなぁ」


「まぁ、大ヒントを出すと兄さんが私によく言うことですよ」


「あー、なるほど」



 俺が手を叩き納得したように頷くと、七菜香は不満そうに眉をひそめた。

 視線をもう一度下着が置いてあるコーナーのに向ける。

 すると、一角に『“魔法の神ブラ”これであなたも完璧”』という煽り文句が見えた。


 ……あれが目当てなんだな。

 きっと、厳島のを間近に見てしまったことで、気になったんだろう。

 でも、だったら——。



「自分で買った方が良くないか?」


「嫌ですよ」


「なんでだよ。まさか、俺への嫌がらせ?」


「違いますよ! あの、いいですか? ここで私が“魔法の神ブラ”を買おうとしたとしましょう」


「うんうん」


「すると店員さんは、きっと思うはずです。『あー、この子。すごっく気にしてるんだな~。これを着けて頑張って!』みたいに……」


「……被害妄想だろ、それ」


「兄さんにはわかりませんよね!? 哀れみの目が向けられる私の悲しみがっ! こんなの私の精神が持ちません!!」


「…………」


「ですが、これを着ければ私の唯一の欠点。『スレンダーな容姿』が緩和されるはずです」


「素直に断崖絶壁と言えよ」


「……何か言ったのはこの口ですか??」


「ひぃぴゃるなよ!(引っ張るなよ!)」



頰を左右に引っ張られ、ぐりぐりと回される。

手を離された時にはヒリヒリとして痛かった。


くそ、無駄に力強いな。

でも仕方ない。


急がないとあいつらが戻ってくるし、本当に買いたいなら付き合ってやるか……。



「とりあえずついて行ってやるから、自分で選べよ。妹の成長具合なんて、積極的に聞きたくないし」


「仕方ないですね。とりあえず、かずくんは私を見くびり過ぎです。服のせいでわかりづらいと思いますが……今はこのぐらいはありますよ」


「いやいや、馬鹿を言うなって。どうせこのぐらいだろ」


「違います。ツーランクぐらい上のですよ。これからのことを考えたら余計に……」


「無理しても悲しくなるだけだぞ? 使わなくなったら、家で化石になるだけだからなぁー」


「嫌です! 私はこれから成長の余地があります!! それでは満足できません!」


「いや、合わないサイズを着けるのはよくないだろ? 見栄を張るなって!」


「い、や、で、す! 譲れません!! 私は絶対成長しますっ!」


「世の中に絶対はない」


「むぅ……」



 お互いに一歩も引けない。

 つか、こんなところで何やってるんだろう。

 周りから怪訝な目で見られてるし……。



「仕方ない。ここは、揉めた時の勝負といこうじゃないか……」


「いいでしょう。かずくんの提案にのって差し上げます。身の程をわからせて上げましょう」


「それはこちらのセリフだ」


 俺と七菜香は手を前に出し、睨み合う。

 そして——




「「最初はグー、じゃんけんポンッ!!」」




 俺がチョキで七菜香がパーを出した。



「よっしゃああぁぁああっ!!」



 俺は小さい方のブラを持ち、拳を高らかに上げ勝利の余韻に浸る。

 周りはドン引きしているが、最早今更だ。



「うぅ、敗けてしまいました……」



 七菜香を悔しそうに唇を噛み、不満そうに俺を見てくる。


 けど、これは譲れないよ。

 生活費から出すなら、合わないサイズを買ってタンスの肥しになんてしたくないからな。


 俺はそう思い、目で訴えてくる七菜香を無視していると——



「一輝、何してるの?」



 不意に後ろから声が聞こえてきた。

 俺の背筋が冷たくなるのを感じる。



「い、厳島……。いつから見てた?」


「一輝が下着を片手にガッツポーズした所から」


「タイミングが悪すぎる!!」


「……付き合うと下着まで選んでもらうの?」


「違うって、これはたまたま……」


「たまたまそういうプレイ?」


「あー違う! 七菜香、ここは誤解を――」


「また、かずくん色に染められてしまうのですね」


「どうして、ややこしくするんだよ!?!?」



 厳島から「一輝、どういうこと?」と詰め寄られる。

 俺が頭を抱え、返答に困っていると七菜香は『計算通り』と言いだな、意地の悪い笑みを浮かべていた。


 兄で遊ぶんじゃねぇよ!!




◇◇◇


ちょこっとあとがき



少しお馬鹿な話を書きたくて書きました。

すいません…


次回も更新頑張ります!

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