第16話 同好会の4人のメンバー
委員長は俺と厳島を交互に見て、眉間にシワを寄せる。
それから、ハッとして納得したように頷いた。
「あっちゃ~。もしかして、二人はお忍び浮気デートだった?」
「断じて違う」
俺がすぐに否定すると、「隠さないでいいって~」とニヤついた顔をして背中を何度か叩いてきた。
こいつ……わかっててからかってるな。
その行動に俺はため息をついた。
同じクラスの委員長である古庄美由紀は、見た目だけではそのキャラクターから程遠い。普通、思い浮かべる委員長と言えば、黒髪眼鏡でいかにも真面目そうって雰囲気が伝わってくる存在のことだ。
けど、古庄は違う。
引き込まれそうな大きな瞳に薄らと青い瞳。
腰に届くほど長い金髪をシュシュで結んでいる。
遠くからでもその存在に気付くほど、かなり目立つ存在なのだ。
地味でもなければ、黒髪でも眼鏡でもない。
見た目の第一印象は“遊んでそう”、“軽そう”と、まぁ散々なことをよく言われていて、そう言ったイメージを払拭したくて真面目に委員長をしている。
と、こんな風に中々に難儀な人生を送ってるのが、この委員長である。
「かずっちはそう否定するけどー。客観的に見て、ベンチでいちゃつくカップルにしか見えないからね?」
「真実じゃないから気にしないよ。な、厳島」
「うん。いつものこと」
「当人たちがいいなら、もう言わないけどさ。彼女さんに見られたら浮気だと思われるかもだから気を付けなよ?」
「隣にいただけでそう思うのか?」
「男女が二人でいるだけでも“浮気”って思う人はいるってこと! まっ、刺されないように気を付けてね~。それだけは願っておくからっ!」
委員長は、手を擦り合わせて祈るような仕草をした。
おいおい……物騒なこと言うなよ。
まぁ、俺に恋人はいないから浮気はないんで、心配は不要なんだけどな。
「ほぉら、ワンワン帰るよー」
「いやだぁぁ~っ」
「先生が帰っちゃうから早くしてよね。あんただけなんだから、提出物を出してないの!」
「ただのアンケートなんだしさ、明日でいいじゃんかよ……」
「…………」
不満そうに口を尖らせるワンコロを見て、委員長の額に青筋が浮かぶ。
心なしかワンコロを掴む手に力が入ってる気がした。
「あのねぇ? 明日と言って何日過ぎたと思ってんの……? 」
「何日って、そんなに経ってないだろ?」
「もう一週間だからっ! 出したくないからって何度脱走すれば気が済むのよ!!」
「てへぺろ――――って、手首はその方向に曲がらないッッ!?!?」
「ずっと追う羽目になったウチの気持ちを考えろ~~!」
思いっきり締め付けられるワンコロ。
けど、その顔はどこか幸せそうで、鼻の下が伸びているようだった。
……うわぁ。
すげぇ、情けない表情。
俺は、事実を伝えようと念のため委員長に声を掛けることにした。
「委員長、杞憂かもしれないが……」
「なぁに? 今、この悪の権化を落とそうとしてるんだけどー」
「当たってるぞ、たぶん」
「え、嘘!?」
俺が指摘すると、委員長は慌ててワンコロから手を離す。
解放されたワンコロは「ゴホゴホ」と咳き込んでから、親指を立て誇らしげな顔をした。
委員長はワンコロを責めるような目で見て、恥ずかしそうに口を開いた。
「……気づいたら言ってよ、ワンワン」
「ないす、おぱーい……!」
「二度、死ね……そして、沈めぇぇええ!!」
「我が生涯にいっ――」
「言わせないから。ふんっ!」
「……ごふっ」
ワンコロは膝が砕けたようにがくっとなり、そのまま地面に沈んだ。
南無……犬。
欲望に忠実なお前は実に男らしかったよ。
今度、線香でも焚いてやろう。
「……死んでねぇからな、一輝」
「あら、しぶとい」
「俺の扱いひどくね?」
蘇ったワンコロは、がっくしと項垂れ、地面に何やら文字を書き始めてしまっている。
だが、そんなワンコロを2人の女子は気にした様子がない。
自分達の話に花を咲かせていた。
「そうだ! ちょっとお願いがあって」
「かずっちに勧められてこのゲームをやり始めたんだけど……。最初から躓いててぇ」
「うーん、どれどれ? あー、なるほど。これは最初は苦戦するよなぁ~。流石は登竜門のコック先生だ」
「めっちゃ死にまくるし、ウチにこのゲームは向かないよ~……」
「まぁまぁ最初は誰でもそうだって。慣れれば楽しくなってくるから」
「本当に? 早くも挫折しそうなんですけどー」
大きなため息をつき、自分のゲーム画面を見せてくる。
プレイ履歴を見ると、ずっとクエスト失敗を繰り返していた。
相当苦戦してんだなぁ……だったら。
「じゃあ、今度一緒にやるか。それで立ち回りとか覚えればいいし」
「いいの!?」
「勿論。一緒にやるのが面白いゲームだからさ。楽しくやろうぜ」
「私もやる」
「ゆうちゃんもいいの!? やったぁ~」
「任して。最速で倒すから」
「いや、それじゃ練習にならないからな?」
ゲームの上手い厳島が本気だしたら、マジで早いからな。
最速を目指すとかやるぐらいだし……ってか、このゲームだと俺より上手いんじゃないか?
そんなことを考えていると、完全に復活したワンコロがゲームを片手に得意気な顔をしてこちらにやって来た。
「おっ! じゃあ、俺も手伝ってやろうか??」
「あ、ごめんワンワン。このゲーム3人までなんだ」
「そんなのある!?!? 普通、4人まで大丈夫だろっ! ってか、それ俺も持ってっから嘘だってわかるぜ」
「へぇ。犬でも出来るゲームって凄いな」
「画期的だね。これが最先端なのかな」
「お前ら……この前、俺と一緒にやったじゃねぇか」
ワンコロは犬のようにわかりやすく落ち込んでしまう。
けど、何かを思い出したのか。急に明るい表情へと変化した。
「感情の起伏が激しいなぁ、また発情期?」
「一輝は口を開けばそればっかりだな! ちげぇよ!! 俺は4人で出掛けるのが楽しみでさ〜。それを思い出したら、辛いことも全てが問題なくなるんだぜっ!!」
「そりゃあ良かったな」
「いや〜。七菜香ちゃんが『4人で行きましょう』って言ってくれたのは嬉しかったなぁ〜。ってことで、悪いな委員長!」
何故かドヤ顔で委員長を見るワンコロ。
やや煽るようなその態度に、委員長は頬を引きつらせた。
けど、何かに気づいたのか。
考える素振りをみせる。
「その話を聞くとだけど、もしかして勘違いとかない?」
「ん? どういうことだよ??」
「もしかして、ワンワンって誘われてないんじゃないかなーって。あくまで想像だけど、ゆうちゃんに向かってな気がして」
「へ……?」
「あー言われてみれば、七菜香って4人とは言ったけどこの4人とは言ってないな。もしかして他に当てがあるのかも……?」
「嘘……だろ? そんなことってアリ!?!? 冗談だよな、みんな!?」
「「あー………………どんまい」」
「ゔ……ゔぅ。お前達なんて……お前達なんて……、ドロドロの昼ドラになっちゃえばいいんだぁぁああ〜っ!!!」
「あ、ちょっと!? 待ってよねっ!」
泣きながら走り出すワンコロを委員長が追いかけて行ってしまった。
遠くなってゆく二人の背中を眺めていると、俺のスマホがブブッと震え画面が光る。
それを見ると、『兄さん、家に集合です』とスマホにメッセージが届いた。
って、もう家に帰ってんのかよ……。
俺は妹の行動に嘆息し、スマホを鞄の中に突っ込んだ。
それを見た厳島は不思議そうに小首を傾げた。
「一輝、連絡が来るかもしれないけどいいの?」
「問題ないよ。もう、連絡来たからな」
「そっか……」
「ってことで、委員長のためにワンコロを拘束して連れてゆくとするかぁ〜」
この後、俺達は逃げ回るワンコロを捕まえ、先生に引き渡すことになった。
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