第17話 妹は何か企んでる?
「おかえりなさい兄さん。遅かったですね」
家に帰ると妹は玄関にいて、まるで俺の帰りを待っていたかのようにわざわざ椅子に座って待っていた。
俺は平然とした様子の妹に「ったく、誰のせいだよ」とため息混じりに悪態をついた。
でも、特に気にした様子はなく平然としている。
……俺が何も気づいていないと思っているな。
「なぁ、七菜香。朝のはなんだったんだ?」
「何って、そのまんまみんなで遊びに行くんですよ」
「それはわかるけど、一緒に出掛けてもいいことないぞ? 嘘がバレやすくなるし、こんな嘘が何度も使えるわけじゃないからな」
「リスク以上にメリットがありますからね。ここで見せつけておくのはいいことですよ。一回納得させてしまえば、追及はされませんし」
「そうか? 余計に穴だらけの隙だらけになってしまう可能性の方が高くない」
「大丈夫です。問題ありません」
「まぁ、七菜香がいいならいいけど」
七菜香なりに何か考えがあるみたいだけど。
協力者にも教えて欲しいよなぁ……。
そうすれば毎回、アドリブで焦らなくても済むし。
もしかして、リアルなリアクションが欲しいとかなのか??
んー……わからん。
でも、もっと気になるのは——
「じゃあ、放課後は何してたんだよ。わざわざ俺と厳島の時間を作っておいてさ」
俺が七菜香に聞くと、少し驚いたように目を丸くした。
「あら、気づいていたんですね」
「そりゃあ、気付くだろ。用意周到な七菜香が、こんな隙を見せる対応なんてありえない。一体、何をさせたかったんだ?」
もし、七菜香が徹底的にやるなら、これ見よがしにべったりと俺に引っ付き、彼女ですアピールをするはずだ。
それなのに初日以外はそんな気配もなく、今回みたいに自由にさせてくれている。
そのちぐはぐとした行動が、どうにも腑に落ちないでいた。
俺が七菜香を怪しむように見ると、感心した様子で「お~」と声をあげ、少し小馬鹿にするように手をパチパチと叩いた。
「なるほど、そういうことでしたか。兄さんのことは、難聴鈍感系ラブコメ主人公と思っていましたが……。これは、認識を改めなくてはなりませんね」
「なんだよ難聴鈍感系って」
「簡単に言うと、重要な話で『あれ? なんか言ったか?』って言い出して話を停滞さる存在ですね」
「あ―なるほど。普通だと『聞こえるだろ!?』ってやつな」
「その通りです。さらに言うと、普段は頭がいいのに恋愛方面となると、急に馬鹿になって結論へ行き届かない人物のことです。総じて、嫌われるタイプです」
「じゃあ、七菜香は俺がその嫌われる系だと思ってたわけね」
「包み隠さずストレートに言うならその通りです」
「相変わらず、ひでぇ言いよう……。もう少し兄を敬ってくれよ」
「これでも敬っていますよ。そうでなければ話しかけもしませんし」
「マジか! って……これは素直に喜んでいいことなのか?」
いや……。喜べるかは微妙か。
普通になめられてるってことだし。
まぁ、兄の威厳なんて今までないようなものだから、今更気にするようなものでもないけど。
兄妹仲が冷え切ってるよりは、だいぶマシだ。
そんなことを考え、俺は苦笑した。
「そういえば兄さんの周囲には、バライティーに富んだメンバーが揃ってますね」
「まぁなー」
「クール系美人に金髪ギャル美人に犬。素晴らしい面子です」
「みんな面白いだろ〜……うん? 他の面子と顔合わせってしたか??」
「あ……」
「おいこら。さては今日、見てたんだろ? 違うか、七菜香」
「ソンナコトナイデスヨー」
「棒読み過ぎんだろ!」
なるほど、納得がいった。
どおりで、返事のタイミングが良かったわけだよ。
しかも、大型のショッピングモールなら人も多いし、紛れ込めるからな……ってか、何してんだよマジで。
普通に不審者じゃねぇーか。
俺は知ってしまった妹の行動に対して、嘆息して額に手を当てた。
「た、確かに人間観察はしていましたが……見ていたのは違います」
「じゃあ何を見てたんだよ」
「通り過ぎるの男が童貞か、女性は処女なのかを当てるゲームをしてました」
「趣味悪っ!?」
「兄さんにもオススメしますよ。人間観察力、つまりは洞察力のアップに繋がりますので」
「絶対にやらん」
なんだよ。
そのしょうもない遊びは……。
ってか、バレたのに無駄な抵抗するなよ。
「そういえば、兄さんって彼女を作る気はないんですか?」
「話の逸らし方が雑じゃない!?」
「いいから答えて下さい。もっと建設的な話をしたいので」
さっきの話を答える様子がない。
無理矢理に聞こうとしても、はぐらかされるのは目に見えてるわけで……。
諦めるしかないか……。
俺は、やれやれと肩をすくめた。
「今は特に考えてないな」
「兄さんは本当に男ですか? あんな人たちに囲まれて、よく理性を保っていますね。選り取り見取り、美人の集まりじゃないですか」
「まっ、たしかに2人とも美人で魅力的ってことは認めるけど。俺達はそんな関係にはならないよ」
「そうですか……はぁ」
七菜香はため息をつき、露骨につまらなそうな顔をした。
それから残念な人を見る目をして、俺を見つめる。
そして、また「はぁ」と、ため息をついた。
「うるせー。そういう七菜香はどうなんだよ?」
「女子校ですので、私は特に考えていません。なので恋人なんていりませんよ」
「お、奇遇だな」
「真似しないでください。もう少し男性なんですから、がっついても引かれませんよ」
「いいんだよ俺はね。今は、彼女とか何もなくても楽しいって思える日常を過ごすのが好きなんだ。夢と言ってもいい、友達とかとふつーに生きるのがね」
「普通であることが夢だと?」
「まぁそうだな。『平穏な日々、万歳!』って感じだ」
「人の夢と書いて儚いと言いますし、まさに夢物語ですね」
「いやー冷めた考えだなぁ。夢は目指すものだって」
「そうは言いますが、案外脆いものですよ」
七菜香は「どうしようもないですね」と呟き、椅子から降りて踵を返して自分の部屋に向かおうした。
「とりあえず、勉強でもしてきますので。ではでは」
「んー。頑張ってなー」
「言われるまでもありませんよ」
ふんっと鼻を鳴らして、可愛げのない態度を示す。
そのまま部屋を出ようとする意地っ張りな妹に、一番聞きたかったことを聞いておくことにした。
「そうだ七菜香」
「なんでしょう?」
「俺に隠してることはないよな?」
俺の言葉を聞いた七菜香は、ドアの前で立ち止まった。
振り返るとにこりと笑い、首を傾げ不思議そうな顔をする。
「うーん? 何か言いましたか?」
それだけ言って、七菜香は部屋を出て行ってしまった。
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