第25話 遊びの締めにみんなで


「もう帰りかよ~。朝までコースはないのかぁ?」


「朝まで過ごせる方法はあるぞ。今からターミ〇ーターの登場シーンみたいな格好でお店に突入すれば、効果は絶大だ」


「そんな方法があんのか……?? どんな格好だぁ?」


「全裸」


「捕まるじゃねぇかよ!?!?」


「まぁ今更、罪をひとつ増やしても大差ないだろ?」


「俺が罪を犯している前提で言うんじゃねぇ~!!」


「うわっ……唾がかかるだろ……」



 俺はワンコロの唾をハンカチで拭き、脚を進める。

 すると、横にいる七菜香が不安そうに顔を覗かせ話しかけてきた。



「かずくんはどこに向かってるんですか? こっちは駅の方ではないですよ」


「ちょっとだけ寄り道だよ。な、ワンコロ」


「おうよ!」



 厳島は、緊張しているのか黙ったまま付いてきていた。


しばらく歩き続け、俺とワンコロは二人を連れて普段通っている学校の裏山までやってきて、そのまま中に入ってゆく。人があまり入らない場所だからか、整備された道はなく、所謂けもの道を通って目的地をめざした。


……流石に暗いな。


 もう陽が落ちているせいで辺りは暗く、スマホのライトだけが頼りといった状況だ。



「疑問なのですが、かずくんはなんでこんな所を知っているのですか……?」


「備えあれば憂いなし的な」


「だよなぁ~。日々の備えは重要だぜぇ~」


「何に備えてるのですか……」


「知ってると便利だろ? 学校裏はロマンに溢れてるからな」


「便利って……普通に学校生活をしていたら発見できそうにないですよ。それに、バレたら怒られるのでは……? なんだか手慣れている様子ですし……」


「「褒めるなよ」」


「褒めてません!」



 俺とワンコロが頭を掻き、照れた素振りをみせると七菜香が頭にチョップを入れてきた。


 ……無駄に力が強いな、おい。

 ため息をつき、足元を確かめるように再び足を進める。


 すると、厳島が不安そうな小さい声で話しかけてきた。



「……一輝、危ないよ?」


「まぁ慣れてるから大丈夫」


「そ、そう? けど暗いし……。ここ、立ち入り禁止の場所で……きゃっ」


「おっと、大丈夫か。ここは道が危ないからさ、捕まっておいて」


「……うん」



 厳島は俺の服を遠慮気味に掴んでいる。

 それを見た七菜香は、むっとした表情をして厳島とは反対の方を掴んだ。



「厳島さん、かずくんは私の彼氏ですからね? 友達でも遠慮してください」


「一輝に提案したことに乗っただけ」


「ふ~ん。自分の意志ではないんですねー」


「何が言いたいの?」


「なんでもないですよー」


「おい……。呼吸をするように喧嘩するなよ」


「「喧嘩してません(してない)」」


「こういうのは息ピッタリなんだな……。まぁ、いいから見て見ろよ」



 俺は空を指さし二人に見るように促す。

 言われるがままに見た二人は固まってしまった。



「うわぁ…………」「……綺麗」



 空には満天の星が広がっていた。

 街灯などの明かりは一切ない学校の裏山。

 俺達を照らしているのは星々の明かりだけ、眺めているだけで心が洗われるようである。


 この場にいる俺達だけが独占している。

 なんだか、俺達の為だけにこの星々が存在しているようだ。



「どうだ~? 良いもんだろ!!」



 ワンコロはまるで自分のモノと言いたげに自信満々に言う。

 いつもだったら『お前のもんじゃないだろ!』とツッコミを入れるところだが……。

 景色に夢中で誰一人そんな声をあげなかった。



「これはいいね」


「かずくんはこれを見せたかったのですね?」


「ああ。まぁな~。シメとしては悪くないだろ?」


「私もそう思う」


「意見を合わせたくないですが、これは同意せざるを得ないですね」



 二人ともは光景に目を奪われうっとりとしている。

 

 連れてきて、正解だったな。

 ほんと、晴れてる日で良かったよ。

 


「にい……かずくん、ありがとうございました。幻想的ですね……」


「そうだろ?」


「最高です。不謹慎かもしれませんが、悪いことをしているのになんだかドキドキします。……よくここには来るのですか?」


「たまに、ワンコロとなぁ。普段は中々いけない」


「じゃあ、帰りが遅い時とかはここに来ていたんですね」


「そんな時もあるね。そういえば、女子と一緒に見るのは初めてだな」


「厳島さんとも?」


「まぁそうだね」


「じゃあ、私が初めての女ってわけですね」


「語弊がある言い方をすんなよ……」



 俺達は夜空に浮かぶ星々を眺める。

 こういうのんびりとした時間は悪くないよな。


 そんなことを考えていると、いつの間にか離れていたワンコロの「お~い!」と呼ぶ声が聞こえてきた。



「七菜香ちゃん! こっちに来ようぜ!! 一輝みたいな変な星があるからさっ」


「なんですか……それ?」



 少し離れたところからワンコロが手招きをしていた。

 七菜香はため息をつきながらも『一輝みたいな』という言葉が気になったのだろう。

 ワンコロの下に行ってしまった。


 残された俺と厳島は無言で夜空を見上げる。

 黙っているだけだと、なんとなく気まずい雰囲気があり、俺は先に声を掛けることにした。



「なぁ厳島」「……一輝」


「「………………」」


「さ、先に一輝からでいいよ」


「そう? じゃあ……」



 厳島はいつも通りの雰囲気を醸し出しいるが、その顔は薄っすらと赤く染まっていた。

 それがおかしくて笑うと、厳島が腰の辺りを抓ってきた。



「厳島、痛いんだけど」


「邪な視線を感じたから」


「そんな目で見てないよ。ってか、照れたぐらいで八つ当たりすんな」


「……恥ずかしいから仕方ない」



 ボソッと呟き顔を伏せてしまった。

 少し無言になった後、いつも通りになった厳島がふぅと息を吐く。



「……今日、久しぶりに外で遊んだけど楽しかった」


「七菜香が無理に誘ってだったけど、そう思ってもらえたならよかったよ」


「本当に仲がいいんだね」


「まぁね」



 俺がそう返事をすると、厳島は「そっかそっか」といつものような抑揚のない声を出す。それから、夜空に視線を移した。



「ここっていい所だね」


「だろ~? ワンコロとはよく来るんだ。ま、二人で来るとき限定だけど」


「遠吠えとかしそう」


「ははっ。たしかに!」



「厳島が良ければまた来ような。疲れた時は景色を眺めるのも悪くないし」


「時間があればね」


「おいおい。それ、断る時の返事の仕方だからな?」


「嘘。冗談だよ。また来ようね」



 そう笑って言う厳島の顔が無表情ながらも、俺には寂しそうに見えた。



 ――――こうして俺達4人での初デートは終了した。




 ◇◇◇



 次回は厳島の視点の話です。

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