第二章 妹の彼氏のフリを始めたら『過去を知る後輩』と修羅場になる。

第34話 勉強会の約束


「朝から辛い……」



 俺は登校した後、机に突っ伏して大きなため息をついた。

 七菜香が学校に来てからというもの、通学がにぎやかになっている。



 ワンコロに厳島が必ず家に来て、そこから一緒に行く。

 それだけだったらいいが……二人して腕に引っ付いてきたり、縄みたいに引っ張ったりと、やたらと張り合っているのだ。


 間に挟まれる俺は、傍から見れば両手に花と思うかもしれない。


 だが、実際は地獄である。

 綱引きの縄になった気分だ……。

 更に対応をミスれば、妹に思いっきり抓られる。


 そんな最近の日常を見ているワンコロは、俺の横でニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。



「はははっ! 一輝、人によっては只の自慢にしか聞こえねぇよ~。モテる男は辛いわ~」


「……羨ましいのか?」



 あんな鉄拳制裁が羨ましいのか?

 まぁ、鉄拳というか痛い所を抓られるだったわけだが……。

 地味に痛いんだよね、あれ。



「おうよっ! 美少女のお仕置きなんてご褒美だからなぁ~じゅるり」


「うわぁ……」



 なんか天井を見ながらうっとりしてる。

 さながら、恋する乙女だ。

 控えめに言っても気持ち悪い顔してる……。



「一輝も段々と慣れてきたんじゃねぇか? 実は最近快感になってきたりとか」


「慣れたくないからな!? てか、俺はそっち方面に開花したくねー」


「素質あると思うけどなぁ」


「素質? 俺にそんなのはない」


「またまた~。毎回、飽きずに死地に向かうじゃねぇか。俺からしたら、わざととしか思えないぜ」



 人聞きの悪い。

 俺は痛いことが嫌いなノーマルな人間だ。



「ま、本人自身は気がつかねぇもんだと思うぜ? 無意識の趣向つうのはよ。それに、一輝は立派な才能を開花し始めてるからな??」


「そうなの……?」



 まじか!

 俺にも隠された才能が!?

 まさか超能力に目覚めるとか……って、それは流石に気がつくか。



「一輝は修羅場製造機に目覚めたぜ?」


「一ミリたりとも嬉しくないんだけど……それ」


「このままいけばナイスボートと一直線だな。ま、女で身を亡ぼすのは男の誉れだから、そこはいいんじゃねぇかな?」


「全然よくない。つーか、死んだら意味ないだろ」


「ははっ! まぁな」



 ワンコロは笑い、机を何度も叩く。

 お前は楽しそうでいいな……。


 俺が「はぁ」と息を吐き、両手を伸ばして机の上に突っ伏した。


 そして、もう一度——



「「はぁぁぁ……」」



 ため息をついたら、声が重なった。

 俺が驚き声のする方を見ると、相手も同じだったのか丁度目が合い……ってか、委員長だった。



「あれ、どうした委員長?」


「……二人とも気楽でいいねぇ~。来週にはテストなのに……」


「ああ。そういえば、そんな時期だった。もう七月だもんなぁ~」


「なんでそんな呑気なのよ~。ウチにとっては死活問題なんだからぁ」


「高校のテストなんて、受験するなら最低限でいいと思うぞ」


「そうは言うけど……委員長なのに赤点とかやばいじゃん? ウチの真面目で知的なイメージが崩れちゃう~」


「そんなイメージは元々ないけどな。寧ろ、委員長を知らない人のイメージは——」


「軽そうとか馬鹿っぽいって言いたいんでしょー。わかってるわよ、そのぐらい!!」


「いや、そこまでは言ってないけど……」


「だから見た目通りにならないように頑張ってるんじゃない! 目指せイメージ死守!!」



 委員長の涙ぐましい努力……。

 ほんと、努力家だよな。


 そこんとこは尊敬するけど、勉強って中々難しい範囲もあるし。

 あ、そういえば……。



「ワンコロって、赤点は意外と少ないよな」


「おうよ! 記号問題は外さないぜッ!!」


「うわぁ。流石は野生……。けど、ウチには羨ましい!!」


「記述問題は毎回呼び出しレベルだけどなぁ~。すげぇだろ!」



 ワンコロは親指を立ててドヤ顔をした。

 いや、別に褒められたことではないからな。

 無駄にいい表情なのが腹が立つ。



「そういえばだけどよ」


「うーん。ワンワンなに~?」


「勉強と言えば、一輝に教わるのが一番じゃないかぁ?」


「そうなの……? かずっちはそんなにできたっけ??」


「まぁ、そこそこ」


「マジ……?? もしかして、数学とかいける?」


「理数系の科目は得意かな。人に教えれるレベルじゃないだろうけど」


「…………」



 委員長の表情が希望を見つけたみたいにパーッと明るくなる。

 するといきなり、俺に近づいて手を握ってきた。



「かずっちお願い! ウチに勉強を教えてよ~~!」


「ちょ、委員長落ち着けてって。つーか近いから」


「うんって言うまでここを動かないからねっ! ここからはかずっちとウチの根競べだよ」


「一旦、待とうか? そんな手を握らなくても……」


「梃子でも動かないよぉ~——にゃ!?!?」



 猫みたいな悲鳴をあげ、委員長は叩かれた頭を自分で押さえる。

 それから不服そうに叩いてきた張本人を見た。



「痛いよ、ゆうちゃーん」


「ねぇ、手を握って何してたの?」


「顔こわっ!? ふ、ふつーにお願いしたただけだってぇ」


「……お願い?」



 厳島は、怪しむような視線を委員長に向ける。

 その目に睨まれた委員長は、小動物のように震え俺へ助けを求めるように潤んだ瞳を向けてきた。

 撃たれ弱いな、委員長……。


 俺は仕方なく厳島に状況を説明することにした。



「あー、なんか勉強を教えて欲しいみたいなんだよ。俺にはそんなこと向いてな――」


「私も行く。勉強会、楽しみ」



 俺の言葉に食い気味に反応してきた。

 って、やるの?

 マジですか……?



「あのな厳島。俺には先生みたいに教えるなんてことはだな……」


「お菓子持ってくね」


「あ、ウチも甘いの持ってく」


「飲み物は俺に任せなぁ~。箱で持ってくぜ!」


「おいおい、勝手に――」


「すごく楽しみ」


「ハハハ……聞いちゃいねー……」



 強引に決まってしまった予定。

 俺を差し置いて、三人は盛り上がっている。


 七菜香もいるのに招くとか……はぁ、考えるだけで頭が痛い。

 後は—―――このタイミングで帰ってくるとかないよな?


 これがフラグとかやめてくれよ……。


 俺は、ため息をつき自分の手帳に週末の予定を書いた。

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