第35話 親の帰宅に七菜香はため息


 家に帰った俺と七菜香は、いつも通りの日常を過ごしていた。

 ご飯を食べ、テレビを見て、ゲームで対戦をする……そんな平穏な満喫している。



「……うんうん。これでいいんだよ」



 これこそ俺が望んだ平穏。

 何もないことこそが至高だ!!


 ギスギスとした朝の光景からはおさらば〜……はぁ。

 って、現実逃避しても仕方ない。

 七菜香との約束が終わった後に、どう修復を図るか真剣に考えておかないとな……。

 そんなことを思って隣に座る七菜香を見ると、勝負に負けたせいでむすっとしていた。



「私の顔をジロジロと見てなんですか?」


「いや、何でもないよ」


「脳内で私を◯◯とか、×××みたいなことは不快ですのでおやめ下さい。“ピー(自主規制)”なんて最悪ですから」


「お前、放送コードに乗せられそうにないことを平気で口走るなよ。見た目だけは清楚キャラなんだからさ……」


「見た目清楚の内心ムッツリよりはいいかと思いますが?」


「わかってないなぁ〜。そういうのが男性ウケがいいんだよ。清楚なお嬢様が実は興味津々で恥じらいながらも……って、うんうん」


「妹にエロゲーのお気に入りシチュを話さないで下さい」


「いやいや。もしかしたら漫画の話かもしれないだろ? 勝手にそういう方向に話を持っていくんじゃありません。要らぬ誤解を招くことになる」


「では、『お嬢様学校に男のサンプルとして◯◯◯をやらされるんだが!?』ってタイトルのゲームは兄さんのではないと?」


「…………」



 黙るしかなかった。

 何故なら——心当たりしかない。



 なんで、こいつは知ってんだよ……!

 おかしくない!?!?

 バレないように保管してたんだぞ!


 ってか、これもワンコロが俺に渡し続けるのが悪い!!

 何が『これで一輝も同志だぜ!』だよ……。



「沈黙は肯定ですね」


「言い訳をしとくと、ワンコロが勝手に渡しただけだからな?」


「そうでしたか。では全くやっていないというわけですね?」


「…………俺だって、男だし」


「はぁ全く。兄さんの性癖にも困ったものです。これから私はどう接していいのか」


「じゃあ探さなきゃいいだろ。ってか、ゲームはどこにやったんだよ。まさか捨てたのか?」


「いえ、それは流石に悪いと思ったので寄贈しました」


「寄贈? それってどこに……?」



 妹の意地の悪い笑みを見て、俺は背中に冷や汗をかいていた。

 物凄く嫌な予感がして俺は生唾を飲み込む。



「兄さんの部室ですよ。この前、置いてきました」


「何やってんの!?」


「ゲームをやる同好会だからいいじゃないですか。そのまま仲を深めてください。あ、他意はないですよ」


「その言い方だとあるようにしか聞こえねぇよ! あ、でもゲームはワンコロのせいにすれば……」


「ちゃんと“一輝”って書いておきましたよ。このために筆跡の真似も練習しました。役に立ちましたね」


「何その無駄な努力!?」



 俺は頭を抱えて、項垂れた。

 決めた。休み明けに速攻で回収しよう。

 話題にもなってないし、まだ気づかれてないはずだしね。


 俺は妹の顔を横目で見る。

 かなり満足そうに笑みを浮かべていた。


 くそ、このドSめ。



“ブーブーブー”



 突然、七菜香のスマホが鳴る。

 振動が長いことから電話なのだろう。


 七菜香は首を傾げ、光った画面を確認する。

 すると顔がひきつり口角がピクピクしていた。


 妹は電話を出ることなく、すぐにスマホの電源を切りソファに投げた。



「お、おい。どうしたんだよ」


「……無視することが平和です」


「お前なぁ……って、今度は俺のスマホが。うん? 知らない番号だけど、とりあえず出るか」


「あっ、待ってください!!」



 妹の静止を無視して電話に出る。



「もしも——」


『かずちゃんやっほやっほ〜! 元気してたかなぁ〜?? みんな大好き麗花ママだぞ!』


「よし、切るか」



 俺はすぐにスマホの電源を切り、妹と同じようにソファーに投げた。



「だから無視してと言ったのに」


「すまん……」



 久しぶりの母さんの声に俺達はげんなりする。

 相変わらずのテンションの高さだ。

 帰ってくる度に、トラブルを持ってくるんだよなぁ。


 母さんの名前は野々宮麗花ののみやれいか

 自由奔放で七菜香と違って、感性だけで生きているようなタイプだ。

 しかもそれが全て上手くいくという……所謂天才型。

 だから、七菜香とは親子なのに相性が悪い。



「もうわかってるよな、七菜香」


「そうですね……はぁ。色々と狂いそうです……」


「だなぁ。付き合ってると生活のリズムとか狂ってくもんな」


「……そういうことではないですけど」


「うん?」



 七菜香の言葉に俺は首を傾げた。

 朝まであのテンションに付き合わされることが苦ではないのか?


 母さんは出張が多く家に帰ることが少ない。

 ってか、単身赴任のようなものだ。

 そんな母さんのこのタイミングでの電話……普通だったら子供を心配してって思うことだろう。


 でも、母さんは違う。

 きっと——



「たっだいまぁ〜!! 突然、帰宅のサプライズ〜〜!」



 玄関から聞こえる明るくて元気な声、兄妹にとって最早恒例でリアクションに困る。

 けど、行かないわけにもいかない。



「いくぞー、七菜香」


「はぁ……」



 俺と七菜香はため息をつき、母さんを迎えに玄関へ向かった。

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