閑話 あの、何が起こったのでございましょうか?
「……あー、疲れた。結局、俺まで説教をくらうなんて……はぁぁ」
俺は、ため息をつき重い足取りになりながらも部室に向かっていた。
ワンコロを生贄に逃げようと思っていたが、俺が適当についた嘘を咎められ説教をうけてしまい、そのせいでこんな遅い時間になっている。
ちなみにワンコロはまだガチゴリ先生から説教中だ。
まぁ話の途中に隙を見て逃げようとすれば、そうなるのも当然である。
部室の前に着いて、ドアに手をかけると勝手に開き中からげんなりとした委員長が出てきた。
酷くやつれた様子で…………どうして?
「お、おい。どうしたんだよ、委員長」
「あー……かずっちだぁ」
「なんか死んだ魚のような目をしてるけど……?」
「アハハ……何も知らない人はお気楽でいいねぇ」
委員長は何か言いたげな視線を俺に向け、それからため息をついた。
「俺で良ければ話を聞くけど……。マジで何があったんだよ」
「嵐と台風が同時に起きてぶつかった結果、竜巻も起きて……これから大災害確定みたいな?」
「それ相当やばくないか」
なんだそれ、マジこぇよ……。
まぁでも委員長が無事でいるということは、収まったという解釈で良さそうだけど。
「とりあえずジュースでも飲んで元気出せよ」
「ありがと。ウチからかずっちには“GA◯A”あげるねぇ〜」
「ああ。って、俺はそんなストレス溜まってないけどな」
「備えあればなんとやらってやつかなぁ。じゃあ私は帰るねぇ。今日は何もやる気が起きないし」
「お、おう。またな……」
委員長は力なく手を振り、離れてゆく。
いつも頼り甲斐がある委員長の背中が今日はやけに萎んで見えた。
残された俺は部室を覗く、時間が遅いせいか厳島の姿はそこにはなかった。だが、中に入り部室に備え付けられたホワイトボードへ不意に視線が誘導される。
「何だこれ……?」
今まで、落書きぐらいしかなかったホワイトボードに『打倒!!』と書いてあった。
字の綺麗さから、厳島のだということはわかる。
……ゲームの大会でも出るのかな?
俺は苦笑して、部室を出て妹を探しに行った。
◇◇◇
家に着くと、明かりがついていてリビングから賑やかなテレビの音が聞こえてきた。
そこにいる存在にホッとしつつ、同時においてかれた不満や苛立ちから部屋に入るなり、
「今日、あの後どこ行ってたんだよ……。結構、探し回ったんだけど?」
と、のんびりテレビを見ている妹に文句を言ってやった。
でも七菜香は気にした様子はなくソファーに寝転がりながら脚をパタパタと動かす。
「はいはい」と脚で返事をしてるようだった。
「可愛げのない態度だなぁ。少しは悪いと思えよー」
「拗らせ関係を作る兄さんには、何も言われたくありません」
「なんだよ、それ」
「……馬に蹴られまくって死ねばいいんですよー」
「辛辣だな、おい……。なんか嫌なことでもあったのか?」
「別に……。ただ、燃えるようなことはありましたけど」
「燃える? 気持ち的な話しか?」
「それもありますが……はぁぁ」
「おい、なんで俺の顔を見てため息をつくんだよ」
ふんと不機嫌そうに鼻を鳴らして、仰向けになる。
それから妹は天井に向かって手を伸ばした。
「遠いですねー……」
「ま、寝転んでたら届くものも届かないだろ」
「わかってますよ、そのぐらい。立ち上がって跳ねなきゃ擦りもしません」
「ウチの天井はそこまで高くはないけどな」
俺の言葉に妹は呆れたような顔をする。
そして、寝転がりながら俺の頭をぽんぽんと叩いてきた。
「兄さん、これからは頑張ってくださいね」
「なんだ急に?」
「妹の細やかな応援ですよ」
「なんか……めっちゃ嫌な予感がするんだが。七菜香が応援って、絶対に裏があるだろ」
「酷いですね〜。妹は信じるものですよ? 信じるものは救われます」
「まぁ身内は信じなきゃか……」
「信じると裏切られるのも世の常ですが」
「どっちなんだよっ!!」
「とりあえず、私から言えることは——」
七菜香は俺の顔を見て、挑発するように微笑んだ。
「切り落とされる結果にならないように気をつけてくださいね」
手をチョキチョキと動かし、視線は俺の下腹部を向いている。
いや、マジで……。
俺がいない間に何があったんだよ……。
誰か教えてくれ〜〜〜!!!
と、俺は心の中で叫んだのだった。
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