第33話 友情か愛情か。ライバル宣言(厳島視点)


「厳島さんは、かずくんのことが好きですか?」



 突然、部室にやってきた彼女は私にそんなことを言ってきた。

 ストレートな物言いには、好感は持てるけど……。

 でもこの質問には、私の心がチクリと痛んだ。


 モヤがかかったようで……気持ちが悪い。

 そう感じながらも、私は彼女の顔を真っ直ぐに見据えて返答をした。



「私と一輝の関係性を好きだとかの感情で片付けるのはよくない」


「……なるほど。やはりそういう回答ですか」


「悪い?」


「いえいえ。けど、予想通り過ぎてつまらないですね」



 一ノ瀬さんは、呆れたように私を見てくる。

 なんでこうも挑発的な態度をとるの?


 少しイラッときた気持ちを抑え、私は彼女の顔を見た。



「ちなみに委員長さんは会話に混ざりますか?」


「いやぁ〜。ウチはちょっと……アハハ」


「委員長は巻き込まないで、困ってるから」


「……はぁ。わかってはいましたが、しがらみって面倒ですね」



 一ノ瀬さんはそう言うと、椅子に座り頬杖をついた。

 相変わらず、太々しい態度に私と委員長も苦笑いを浮かべている。


 ……ほんと、後輩って感じがしない。



「厳島さんに確認しますけど。あなたが向ける感情は、友人に向けるもの? それとも、異性に向けるもの?」


「……どっちも。私と一輝は親友だから」


「男女の友情なんて成立しませんよ。どうしても女としての嫉妬がでますから。それがないと言い切れますか?」


「そんなこと。私は……」


「言い切れませんよね? 言い淀んでいるのが良い証拠です」



 私の気持ちは親友に対するモノ。

 それはたとえ、一ノ瀬さんが一輝に向ける愛情にも負けないと思ってる。

 友情と愛情。前者の方が勝っていると思うから……。



 でも、なんでだろう。



 そう心に決めた筈なのに、彼女から言われる度に心がぐらつく。

 友人に彼女が出来たから、私は友人として『特別な存在になって隣にいよう』と、決めて彼女のことは気にしないようにしたのに……どうして?


 どうして……こんなにもざわつくの……?

 わからない。わからないよ、この感情。



 でも、この感情を知ることが何よりも怖い。

 知ってはいけない。認めてはいけない。

 理性が私に呼びかけている。


 認めたらダメ。

 気持ちが私にセーブをかけている。



「厳島さん。あなたの気持ち私にはわかりますよ」


「……何が?」


「終わるのが怖いんですよ。そして何より——」



 この後、聞くのが怖い。

 だけど私は耳を塞ぐことができないでいた。



「拒絶されたくないんです、かずくんに」


「………」



 私は黙るしかなかった。

 居心地の良さから進まないのも、友人としていようとする意地も……全ては彼女の一言に集約されていたから。


 気持ちのど真ん中をつかれ、声が出なかった。



「まぁ、私としては恐怖に足踏みするのは、個人の自由だと思いますし。そのままでいたいのも理解出来ますよ。なくなるのは怖いですもんね?」


「…………」


「けど、そんな人を私は認めません。そんな中途半端な人が、かずくんに近寄って欲しくないと思います」


「なんで?」


「私が単純に嫌というのもありますが……一番は——」



 にこりと微笑みを向けてくる。

 笑っているのに、その顔はなんだか冷たく感じた。



「早めに諦めてもらった方がその人のためでしょう? 報われない気持ちには、早めに終止符を打ってあげた方がいいですからね。だから言います。私は認めませんよ。友達だからとか幼馴染とか、そういう属性だけで隣にいようとする存在を……。うじうじと停滞しようとする“あなた”を」


「…………」


「ここで黙ってしまうのなら、その程度ですね。一緒にいたいと思う気持ちも、ただの馴れ合いってことですか」



 彼女はそう言うと、私に背を向ける。


 ——もう用はない。

 ——眼中にない。

 そう言ってるように見えた。


 その背中を見ていると、沸々と湧き上がってくるものがあった。


 どうして一輝は、こんなタイプの人と付き合ったの?

 もしかして本心を知らない?

 それとも、何か夢中になるものがあるの?


 わからない。

 でもこの子には、こんな性格の人には……負けたくない!!

 拳をぎゅっと握り、自分の胸に当てる。


 そして意思を込めるように、彼女を睨んだ。



「……私、やっぱりあなたに一輝をとられたくない」



 私の口から、いつの間にかそんな言葉が漏れ出ていた。



「今は負けてるけど……。今はあなたが彼女だけど……これから勝つ。絶対に負けない……から」


「ふーん。そうですか。それ、本気で言ってます?」


「本気の本気。一輝の目は私が覚まさせる」


「ふふ。じゃあ受けて立ちますよ。友人程度では超えられないことを証明して見せます。そして、出来るものなら——私から奪ってみてください」



 不敵に笑う彼女に私は指をさし、息を整えるために間を取る。

 そして——。



「後悔してないても知らないから」



 自分でも驚くほど、自然と強気な声が出た。


 でも、もう迷わない。

 私が決めた覚悟だから。

 これは——私の彼女に対しての挑戦状。


 腹をくくり強気な態度を示したことで、感じていたモヤがスーッと消えていった気がした。




 ◇◇◇



「あとがき」

 これで一章が終了です。

 ここまでお読みいただきありがとうございました!

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