第32話 委員長は気苦労が絶えない(委員長視点)
珍しくワンワンのお世話がない今日この頃。
意気揚々にウチは部室に向かっていた。
何と言っても久しぶりの同好会!!
って、言っても自分だけが久しぶりなだけなんだけど……。
「久しぶりに楽しむぞ~!」
ひとりでガッツポーズをとり、廊下を早歩きをする。
そして、曲がり角に差し掛かったところで、
「少しよろしいですか?」
と、後ろから声をかけられた。
聞いことのない女の子の声に驚いて『にゃにかな?』と噛んでしまう。
ゔぅ。恥ずかしくて顔が熱い!!
『何かなぁー?』って言いたかっただけなのに!
何で猫みたいなってるのよっ!
手で熱くなった顔を扇ぎ、なるべく平静を装って話しかけてきた子の顔を見た。
「…………」
「どうかしました?」
「え、あ、いや別に……」
「ふふ。反応が面白い方ですね」
「アハハ……それほどでも~」
気まずさや恥ずかしさを誤魔化したくて曖昧に笑う。
目の前にいる彼女がどんな表情をしているか気になって視線を向けると、彼女と目が合い――――絶句してしまった。
何、この子……めっちゃ可愛いくない!?!?
肌とかちょー綺麗じゃん!
髪とかほっそ!! 目がでかっ!!
内心でそんな感想抱きながら、うきうきとした気持ちで彼女を眺める。
「あの……そんなにジロジロと見られると流石に恥ずかしいのですが……」
「あ、ごめん。つい魅入っちゃった」
見るからに住む世界が違うわ〜って感じだよねぇ~。
でも、あれ……?
この人の制服って…………あのお嬢様学校だよね。
最近できたかずっちの彼女もその学校だったような……うん。
なんか、ものすごーく……嫌な予感がするんだけど。
ま、まぁでも!
世の中は広いし、こんな偶然にもかずっちの彼女と居合わせることなんてないよねっ。うんうん!
浮かんだ疑問を頭の片隅に追いやり、ウチは考えないようにした。
「あの、大丈夫ですか? 顔が七変化していますけど」
「あ、ごめんごめん! 最近ちょっとそういうのにハマってて」
「えっと、それはどのような……??」
「それは……所謂……そう、顔芸ってやつにねッ!」
誤魔化すのには苦しい言い訳。
だけど彼女は「そうなんですね」と、可笑しそうに笑顔を見せた。
私がテンパってるのを分かってて流してくれてるのかな?
優しいなぁ〜。
綺麗で可愛くて、余裕があって優しくて……。
私もこうなりたいって素直に思うよー。
「それでどうしたのかなぁ? 『いいですか』って、ウチになんか用があったみたいだけど!」
「そうでした。実はですね、案内をお願いしたくて」
「そうなんだ! じゃあウチが案内してあげるよっ。これでも色々な人を案内してきたんだからっ」
「ふふ、ありがとうございます。ではさっそく……」
「皆まで言わなくてもわかるよ……ズバリ生徒会だね?」
「違いますよ。ただ、交流を図るために色々と見学しに来たんです。なので新入生のような部活動見学ですね」
「ありゃ違ったかぁ~。じゃあ部室塔に案内すればいいのかなっ?」
「いえ、それは終わりましたので次は同好会とか見たいですね。たとえば娯楽系の」
「そうだねぇ~」
ウチは頭を捻らせ、連れて行って良さそうな同好会を考える。
オカルト研究会。土俵際を極めるの会。入学式でミニ袋に入れた小麦粉を配る会……うーん。
色々あるけど、こんな可愛い子を連れて行って良さそうなところが少ないなぁ。
だったら――
「ウチの所属している所に来る?」
そう、提案した。
今日はワンワンがいないから、心配もないよね。
直ぐに連絡先を聞こうとか、そういうのもなさそうだし!
「いいんですか?」
「もちっ! エスコートしてあげるよ~」
「では、お言葉に甘えて。お優しいですね」
「それが取り柄だからねぇ~。みんなの為に頑張っちゃうよー」
「凄いですね。でも、優し過ぎてなんでも自分から引いてしまう」
「うん??」
『でも——』から先が聞こえなくて首を傾げると、魅力的な笑顔で微笑んできた。
「あ、そういえば名前聞いてなかったねぇ。ウチは古庄美由紀って言うんだぁ~。よろしくねっ」
「ご丁寧にありがとございます。私は、一ノ瀬七菜香です」
「おっけ~ななちゃんね! って……あれ? どこかで聞いたような……」
「行きましょうか委員長さん」
「うん……?」
委員長ってこと教えたかな?
あ、でも私から醸し出している真面目さが伝わったのかも!
さぁ精一杯もてなしちゃうぞぉ~~~!!
――――っていう、やりとりがあったのが大体20分ぐらい前……。
案内したのはいいんだけど。
なんか雰囲気がおかしいんだけど……?
「こんにちは、厳島さん」
「どうしてここに? 不法侵入?」
「いえいえ、ちゃんと許可をとって来ましたよ。なので公式な来訪です」
「そう。世渡り上手だね」
「ふふ……」
何これ……?
雰囲気がめっちゃ怖いし、ピリピリしてるんだけど!?
ってか、やっぱり彼女じゃ~ん!!
その前になんでこんなに仲が悪そうなの?
一緒に遊んだって話じゃなかったっけ??
あ~ウチの馬鹿! 会わせたこと失敗じゃん……。
この流れってどう考えても、ゆうちゃんの距離感に釘を刺しに来たよね。
だったら、ここはウチが場をとりなして揉めないようにしないと……。
ため息をつき、いつ何が起きてもいいように備える。
平手が出そうだったら止める……絶対に止める。
そう思いながらウチはとにかく緊張していた。
「厳島さんは心なしか表情がスッキリしましたね?」
「うん。色々と決めたから」
「ふーん。“決めた”ですか」
あ、待って。
これ、違いなく爆弾が投下される。
止めるより先に、ここを離脱させる方がいいんじゃ……?
よし、さっそくそうしないとっ!
「えーっとさ。顔合わせも済んだことだし、ななちゃんも他の見学にいこっか??」
「いえ、私の用事はここなので必要ないですよ」
「え……そうなの?」
「はい。厳島さんに話がありましたから」
……これ、ウチじゃ止められそうにないような。
それこそ、色々な意味でパワーがないと無理だよ。
かずっちを呼んで上手く流してもらう?
それともワンワンで場の空気をぶち壊すか……。
あー! どっちにしろウチじゃ手に負えないって!!
「厳島さんって、かずくんのこと好きですか?」
ほらぁ……やっぱり爆弾。
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