第5話 みんなどこか乗り気だ……

なんて事をしてしまったんだ若井は……

腹を立ててたにしてもこんなことすることないのに……


渡辺の上には止血用にガーゼが当てられているが、ここにある全てを使っても血が滲み出し溢れてきている。


医学的な知識なんて俺にはないけど、この出血量じゃもう、回復は厳しいだろう。

しばらくは苦しそうにもがいていた渡辺はすでに動かなくなってしまった。


「渡辺さん……」


渡辺の横でずっと励ましていた、菅原と丹澤が動かなくなった渡辺を見て泣き出した。


ファントムは殺し合いをしろって言ってたけど、こんなことを全員でやりあえって言うのか……無理だ、渡辺を見ているだけで血の気が引いて立てなくなりそうだ、俺に人を殺すことなんてできない……


みんなはどう考えてるんだ……ひょっとして参加しようとしてる人もいるんじゃ……



竹内が渡辺の顔を見て、悔しそうに唇を噛んでいた。


「若井さんは大変な事をしてしまったけど、このまま放っておくわけにはいかない」


げっ……竹内がまた変なこと言い始めた……

同僚を殺したんだぞ、そんな奴を庇ってどうするんだよ、もし若井が開き直ってゲームに参加する気になってたらまずいだろ。


「若井君もだけど、井上マネージャーを探さないと」


小島も話に乗ってきた……

どうするんだよ、何もわからない中で動きだして、ファントムって奴らの罠の可能性だってあるのに……


「こんな状況で動き回ったら危なくないですか?」


金子が竹内に確認した、めずらしく金子と意見が同じになってしまったがその通りだと思う、こんな時に下手に行動しようとしたらさらに死人が出てしまうかもしれないだろ。


「こんな時だからじっとしてないで動くんだ、相手はここに俺達がいる事を知っているんだろ? それならここで待機しているのは全然安全じゃない、外に出れば、マネージャーや若井さんとも話できるかもしれないし、もしかしたらさっきのファントムって奴に会って解決できるかもしれないだろ?」


何言ってんだ竹内は……それこそファントムの思うツボだろ……

今ここを出て行くのは絶対に危険だ。

そうだよな金子!?


「そっかぁ、確かにここにいるのも危険ですよね、外に出てマネージャーを探した方がいいのかな」


「えっウソ!?」


あっ、思わず声が出てしまった……

なんだよ金子、あっさり気持ち切り替えないでくれよ……


「どうした箕輪ちゃん、何か意見でも?」


ほら……竹内に質問されたじゃないか……

こうなるとめんどくさいんだよ。


「いや……えぇ……っと、やっぱりここから出るのは危ないかなって」


大勢の前で話すのって苦手だ……どうしても言葉が出てこなくなってしまう。


俺のたどたどしい話す姿をからかうように金子が話に入ってきた。


「へぇめずらしいね、箕輪さんが意見するなんて。 でもね、竹内さんも言ってたでしょ、ここにいたって何も解決しないんだから、自分達で動いた方がいいの」


お前さっきと言ってることが真逆になってるだろ! もっと自分の意見を大切にしろよ。


「いや、そういう意見もあって当然だ、これは仕事じゃなくてそれぞれが生きて行くために取る手段の話だ、俺の意見に納得したのなら手伝ってくれればありがたい、でもそうでなければ無理に従う必要はない」


竹内にフォローされてしまった、なんか癪だな……




結局竹内の意見にしたがって、竹内率いる第二チームと小島率いる品質評価チームは全員外へ出てマネージャーと若井を探す事になった。


第二チームはマネージャー捜索に当たり、品質評価チームは若井の捜索に当たるみたいだ。

ついでに金子の強引な誘いで中村さんも品質評価チームに合流して行くことなったみたいだ。

中村さんこういう時はついてくんだなぁ。



こんな状況でみんなよくもまぁ仲良く行動するもんだ、もしかしたらこの中にこのゲームに乗ろうとしてる奴がいるかもしれないっていうのに……


で、俺の所属する第一チームはというと、みんな様子を伺っているまま気付けば会議室に取り残されていた。


「あーぁ、行っちゃったな他のチームは」


寺田が急に元気に話し出した、この人は竹内や小島、金子がいると萎縮してあまり話さないが、第一チームだけになると急に饒舌になる。


「我々も何かやった方がいいんでしょうか?」


副島も寺田と同じでチーム員だけになると元気に喋り出す、ネクラなうちのチームらしくみんな大勢での話は苦手だ。


「ん? いいだろ俺達はそれぞれ好きなようにやろうぜ」


あっ、寺田は全然まとまって行動する気ないみたいだ、副島はチームで動きたそうな感じだったけどそれから何も言わなくなった。


奇しくも寺田と意見が一致してしまった、こんなときに信じられるものなんて自分しかない、下手にみんなと行動したら殺されちゃうかもしれないし……


「箕輪さんこれからどうするんですか? 渡辺さんもいるし、ここには居づらいですよね……」


河合が不安そうに俺に訪ねてきた、俺はここで様子見したいけど……確かにここには冷たくなった渡辺が横になっているし、待機するっていってもこの場所にいるのは気まずい。

よし決めた! 河合なら信頼できる、河合と2人で行動ならいいかもしれな……


「河合さん、一緒に行きましょう!」


副島!?

俺が河合に返事をする前に副島が誘ってきた。


河合は返事もろくにできずに、あれよあれよと言う間に副島と会議室を出て行ってしまった。

なんて強引な奴なんだ、河合はまともに返事もしてなかったぞ、無理やり連れてくなんて。


気付けば寺田もいなくなっている、あいつほんとにリーダーなのか……?


竹内や小島の事だって好きではないけど、引っ張っていこうとする気持ちは感じる、けど寺田にはそういうの全くない、あまりのそっけなさに俺ですらびっくりだ……


ここに残るのは……


「なんだ、箕輪しか残ってねぇじゃん」


大島だ……、こいついままで何してたんだ? 呼吸してたのかもわからないくらい何も話してなかったぞ……

こいつのことはよくわからない……酒を飲むと異常に陽気になって小島に妙に絡んでいってちょっと迷惑がられてたことがあったのを知ってるくらいしか思い出がない……


「お、大島さんはどうするつもりなの?」


こいつと一緒に行動するのは嫌だぞ……なんか不気味だし、下手したら殺されそうだし……


「みんな出かけてったし、俺もいこうかな」


なんだその主体制のない意見は、ただ、こいつもでかける気はあるみたいだ、念のため確認しておくか。


「そっか、ひとりでいくの?」


「当たり前だろ、箕輪と一緒にいたらなんか怖いし」


こっちのセリフだ!

そういうこと面と向かって言ってくるなよ!



「あぁ、なんかめんどくさいことになったなぁ……」



ちょっとした小言を頼まれたくらいの感覚で大島は会議室を出て行った、あいつこの状況を理解してるのか……?



会議室にひとり残されてしまった、一応渡辺もいるけど……

なんてブラックジョークを言ってる場合じゃないよな、みんなこのゲームに乗り気なのかはわからないけど、外へ出て行ってしまった。


俺はこれからどうしよう……



死亡者

渡辺 哲治

刺殺(若井 優希)


残り18名

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