第48話 フロンティア
「ふむ……総時間50時間34分、ずいぶん早い決着だったな」
男はそう呟くと、立ち上がる。
ーーどちらまで行かれますか?ーー
男のいる空間から声がする。
「決まってるだろ、始末屋のところだよ」
ーーかしこまりましたーー
そのまま男は何も語らず待機した。
ーーお待たせしましたーー
数分が経過したところで声がした、男は何も返事をせず移動を始めた。
◆
マネージャー井上はひとりで立ち尽くしていた。
あたりはジ・エンドが攻撃した影響で穴だらけになっている。
元はなんの変哲もないただの路地だが、今は空襲でもあったかのように凄惨な光景となっていた。
一言も言葉を出さずただ上を眺めていた。
仕事だけに人生を捧げてきた。
大した勉強もせず、大した学歴もないがそんな井上を慕ってくれる部下達のため必死で働く毎日だった。
プライベートを犠牲にしたため、年齢42になっても伴侶はいない、「いい人はいないかなぁ」というのが口癖だったがどこまでいっても仕事を優先してしまう井上は結婚などできないことは本人が一番よくわかっていた。
井上にとって職場の人間関係が家族のようなものだった、顔を出せば慕ってくれる部下達がいてその部下を守るため自分が引っ張っていく。
一番大切なものは何かと井上に聞けば迷わず『職場の仲間』と答えるだろう、そんな井上が多くの部下の犠牲の上にたち最後のひとりとなってしまった。
「おめでとう」
先ほど移動してきた男が井上に声をかける。
井上は反応しなかったがそれを気にすることなく男は話を続ける。
「最後は期待したんだがあっけなく終わってしまったな、このゲーム9割は『ジ・エンド』を背負せた『始末屋』が最後まで残るんだ、今回も例に漏れずそうなってしまったな」
井上は他の者が会議室でファントムからゲームの説明を受けている時に、この男と会い別の説明を受けていた。
・他の者は井上を殺すことでゲームクリアとなる
・井上は自分以外が全員死ぬことでこのゲームが終わりとなる
・代わりに強力な意志を持つスキル『ジ・エンド』を持つことになる
当然井上は反対し、自らが死ぬことで全員を元の世界に戻すよう男に伝えたが受け入れられることはなかった。
結果、ジ・エンドに振り回されながら部下を殺し回ることとなってしまったのだった。
「誇っていいことだ、形はどうあれ君は勝利を勝ち取った」
男は井上に肩に軽く手を置いた。
「これでいいんだな……?」
井上が前を向きひとりごとのように呟いた。
◆
今だ!
河合、上田、中村さん達とデバッグルームから飛び出した。
「すいませんマネージャー、ありがとうございました」
俺の礼にマネージャーは会釈で返事した。
「えーっと、この人は誰なんですか?」
河合の疑問に上田が返事する。
「この人が恐らく竹内さんがファントムを殺した時に口にしてたフロンティアとかっていう人……」
なんだフロンティアって……ファントムもそうだけど、なんか変な名前をつける奴らだ……
「なぜだ! 君達は確実に死亡となっていたはず、生きてるはずがない!」
フロンティアが取り乱している。
中村さんの毒を消した時にわかったこと……俺のスキルでステータスを修正することができるものとできないものがある。
もしデータを消したり修正してしまったとしてもパーソナルな部分に関しては時間を置くと元のデータに戻る。
俺のスキルで個人のステータスの状態を死亡と変更したところで死ぬことはない、一時的にステータス上は死亡になったとしても実際に死んだ訳ではないから少し時間を置くと元に戻ったはず。
それを利用してステータスをいじらせてもらった。
足場のことはとっさのことで焦ったけど、お陰でいいカモフラージュになった。
「ええい、死んでないのなら今度こそ死ねばいいだけだ! こちらにはジ・エンドがある!」
なんか、こいつ小物っぽいな……
こんな奴のせいでみんなは……
「ジ・エンドはもう出ない……対策させてもらった」
「貴様何者だ!? 急にフィールドから姿を消した奴が何人かいたな、それが貴様のスキルか?」
こいつ、俺達全員のスキルを知ってる訳じゃないのか。
「俺も知りたいことがある、あなたは何の目的でこんな殺し合いを?」
「貴様がそんなことを知る必要はない! それよりも貴様どんなスキルを持っている!? 言え!」
焦っているのか、こんな奴なのかはわからないけど、まともに話をしても無駄な気がするようなタイプの人間だ……
マネージャーなら何か知ってるのか? 俺が顔を覗き込むとマネージャーはうなずいた。
「初めにこの男から聞いた話だと、ここは俺達が過ごしている場所とは異なる、異世界と言われる場所の入口のような場所らしい。 そこでこいつは殺しあいをさせて有能な人物を異世界に送り込むこむ役割をしているそうだ」
このフロンティアってやつは異世界の遣いのようなものだったってとこか……
「貴様、余計なことをベラベラと言いやがって、誰のおかげでここまで生き残れたと思ってるんだ!」
こいつ本当に小物だ……お前のせいでマネージャーはここまで苦しんでいるのに……
「こんなことは初めてだが、異例中の異例で貴様らもう一度改めてゲームを再会させてやる! 殺しあいの再開だ!」
フロンティアは両手を広げると街全体が歪み始めた。
こいつが何をやろうとしても関係ない、もうこんなくだらないゲームは終わらせる。
「悪いけどこんなくだらないこともうやめだ」
ずっとぼんやり思っていたことだったけど確信した……この殺しあいのための空間はフロンティアがスキルで作りあげたものだ。
俺のデバッグルームとこいつのスキルは似ている。
異空間を作り上げてそこに入ったものに特定の影響を与えることができるスキルなんだ。
俺のデバッグルームでスキルを消すことができる。
「お前のスキルを削除する……」
フロンティアの持つスキルを削除してやった。
ゲームの電源をオフしたように突然あたりが真っ暗になった。
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