第49話 俺だけが知ってる世界
ふあぁぁぁぁぁ……眠い……
毎日同じ時間に起きて、同じ電車に乗っての通勤、あと何回これを繰り返したらやらなくてよくなるんだろう。
生きるために働くっていうけど、人生のほとんどの時間を仕事に費やしているんだ……
働くために生きているって言ってもおかしくないような毎日だ、どうかしてるよ……
「おはようございまーす……」
始業時間の1分前に席についた、60秒も前に自席にいるんだから上出来だ。
「おはよう! 相変わらずギリギリの出社だな!」
マネージャーが明るい声で俺に嫌味を言う、声はともかく顔にはもっと早く来いと書いてある、時間前にちゃんと来てるんだからそんな顔されても関係ないけどな……
「箕輪さん、またゲームで夜更かしですか?」
隣の席の河合がニヤニヤしながら話しかけてきた、こいつ俺がマネージャーに小言を言われるのが好きなのか、いつもこう言う時に嬉しそうにしている。
物静かな中村さんもこう言う時静かに肩を震わせている、俺が文句言われるのってそんな面白いものなのか……?
一緒に昨日遅くまでゲームをやった上田は俺よりは早く出社したみたいだけど、眠そうにあくびしている。
せっかくだからあれだけ大あくびしている上田も叱ってくれよマネージャー……
まあそんなこんなで、いつも通り仕事が始まった、自社製品開発チーム5人で。
そう……5人で……
フロンティアのスキルを削除した後、俺達はもとの世界に戻っていた。
俺達って言っても生きていた5人だけだけど……
俺はもちろん死んだチームメイトのことを忘れるはずがない、ゲームに参加してない職場の人達はまるで初めから竹内達が存在しなかったように何事もなかったように過ごしている。
社員名簿にも死んだ奴らの名前は存在しないし、他の部署の奴らも気にも止める様子がない。
竹内とか、金子とか家族がいた奴らもいるはずなのに、どうなっているのかは俺にはわからない……
心の傷が癒てない今はまだ5人の中でも他のチームメイトの話をできていない、そんなことないだろうけどまさか俺以外人は記憶から消されているのかもって思うと怖くなる……
だからいつか話をしてみるつもりだ、確実に存在した19人で働いてた時のことを……
元の世界に戻ったらスキルは当然使えなくなっていた。
今思えば俺のスキルは本当に便利だった、異世界であのまま暮らすことになったとしても案外のんびり生きていけたのかもな……
そう考えると異世界ってやつも悪くなかったか……?
いやいやいや、もう殺しあいとかが普通に行われる場所で生活するのなんてこりごりだ……
ここに戻って来れたのだって、俺のスキルの力ではあるけど、俺ひとりの力ではないんだ。
不本意だったけど、丹澤が入って来なければそもそもデバッグルームに他人が入れることすらわからなかった。
中村さんがいなければステータスをいじれることがわからなかった。
映像で見たくないこともたくさん見たけど、必死に生きているみんなの生の素顔をたくさんみることができて考えることができた。
そのおかげで、こうして帰ってくることができたんだ。
「箕輪さん、今日のお昼一緒にどうですか……?」
最近、中村さんが食事に誘ってくれるようになった、昼飯を食べる人がいなくなったからって言うのもあるのかもしれないけど、俺からするとちょっと、いやちょっとじゃないな……大きな進展だ。
時期がきたら中村さんに話してみようかな……
とにかく今は心を休めて、いつか忘れられた14人のチームメイトのことをみんなで話せるようになりたいと思う。
それまで俺は絶対にあの日のことは忘れない……
忘れられるはずがないんだ……
生きよう。
不器用でも、周りから笑われてたとしても、だらしがなかったとしてもそんなの関係ない。
俺が死んだらあのゲームで死んだ14人は完全に忘れ去られてしまうかもしれないんだ……
逆に言えば俺が忘れない限りみんな俺の中で生き続けることができる。
だから俺は誰よりも命を大切にしたい。
それが俺の使命だと思うからだ。
「なんだ箕輪、神妙な顔して、悪いものでも食ったのか?」
あっまたマネージャーにいじられた……
まぁとにかくだ、難しく考える気はない、俺は俺なりに生きて行こうってだけの話だ。
クビにならない程度に働いて、好きなことをして生きていく。
ただそれだけの話。
「俺だって、真面目に考えることだってあるんです」
なぜかみんなに笑われた……真面目に答えたはずなのに……
フフ……まぁいいか、笑っていられるってことは俺が生きているって証拠だ。
プロジェクトチーム全員で殺しあう中、俺はのんびり過ごします ゆに @uni-syouseru
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