第6話 ようこそデバッグルームへ

みんな会議室を出て行ってしまった。


殺し合いをしろと言って出て行ったファントムと名乗る謎の男。

どこにいるかわからない井上マネージャー。

渡辺を殺して出て行ってしまった若井。


ひとつでも起きたらパニックなのにこんなのが一斉に来たらパニックを通り越して頭は真っ白だ。



ここはとにかく様子見、安全な場所からみんなの動きを確認できれば安心だ。


混乱した状況の中でそんなことできるのかって?

フッフッフッできるんだなそれが。


俺が手に入れたスキル、デバッグルーム。

こいつは俺の不安を全部解消してくれるパーフェクトなスキルだったんだ!


使い方はこれ!


まずは適当な場所でスキルを使いたいと祈ると目の前に人が入れるくらいのサイズの黒い空間が現れます。

そこに入るとあら不思議、ちょっとした小部屋に繋がっているのでした。


この部屋はそんなに大きくないけれど一人でいる分には問題なしの20平米くらいの広さです。

室内は暗すぎず明るすぎずの照明で照らされていて何をするにもストレスを感じさせることはありません。


ここなら安心して身を隠すことができますね。


しかも!


この部屋、快適空間なだけではないのです!


なんと! なんとなんとこの部屋では外にいるみんなの行動を覗き見ることができるのです。


見たいと思った人をイメージすると、その人の見ている視点が部屋の壁に映し出されます。


これで誰がどこにいるかもバッチリです。



と言うわけで、俺のスキルはこんな感じだ。

よくわからない名前でガッカリしてたけど何気にとんでもない良スキルなんじゃないかこれ。


それぞれの動きが気になるけど試しに見てみた第二チームの動きがさっそく面白い。

どうやら街の様子を調べて回っているらしい。


ここまででわかったことは。


街やオフィス内にもこのゲームに参加している人以外に人や動物は見当たらない。


電気は通じていない、小島も確認してたように携帯の電波も繋がらない。


民家には入ることができない。

玄関に鍵がかかっていて残念ながら家に上がり込んで勝手にツボを割ったり、宝箱を開いたりってことはできなそうだ。

でもコンビニや飲食店には入ることができて、飲食物も置いてある。

沖田が口にしていたが、食べても問題なさそうだ。


今わかってる限りではこんな感じだ、電気が通じていないから電車も走れない、そもそもうちのチームの人間しかいないから運転なんてできないだろうけど。


とりあえず、こんな感じで見た感じはいつも働いている武蔵丸子の街と変わらない、人気がないから不気味だけど、それくらいか。


まだ第二チームの竹内と沖田は探索を続けてるみたいだ、線路伝いに武蔵丸子を離れていっている。

どんどん進んでもう少しで隣の駅の蒲崎が見えてきたところで、2人は急に進まなくなった。


「パントマイムでもしてるみたいだ、歩いてるのに前に行かないですね」


「沖田ちゃん本物のパントマイマーみたいだな」


手振りもつけて過剰に進めないアピールをしている沖田は竹内のツッコミに対して「ニヒヒヒ」と嬉しそうに笑った。


その後も様々な方向から蒲崎駅方向に向かって進もうとしていたが、見えない壁に阻まれてどうしても進めない。


「これ以上先には行けないってことか、これはきっとこのゲームって奴をやるためのエリアの限界が設定されているんだな」


「俺達は区切られた範囲内でこのふざけたゲームをやらされてるってことですね」


「一見だと、いつもの街と変わらないけど、ここは普段住んでる所とは違うみたいだ、まるで等身大サイズのジオラマの中にでもいるような感じだな」


ふむふむ……歩いても自分の家に帰ることはできないのか、ってことは結局このゲームに参加して、マネージャーを殺さない限りこの空間から出ることはできないってことだよな。


マネージャーは今この空間にいるんだよな、どこにいるんだ?

こんな時あの人だったらどういう判断をしたんだろう……

竹内みたいに会議室を出て今やっているように探索を始めるのかな、少なくとも今みたいにチームごとにバラバラにはなってなかったろうな。


若井だって暴走する前に止められたのかもしれないのに、そうしたら渡辺は……


渡辺は死んだ……


フナバシステムに入ったのは最近だけど、俺より年上ののんびりとしてる人だった。


挨拶したら微笑んでくれたりはするけど、大笑いしたり、怒ったりっていう感情をあらわにするようなことは見たことがない、何を言われても「うんうん」と頷いてるだけで意見もそんなに言わないから、感情的な若井の癪に触ってたのか怒られてるところをよく見たもんだ。


死んだってことはもう、そんなやりとりを見ることはできない……

あんなに簡単に人って死んでしまうものなんだ……


俺には無理だ、生き延びる方法がマネージャーを殺すことしかないって言われたとしてもそんなことはできない。

ましてや職場内の人同士で殺しあうなんてとてもじゃない……


張り切ってた竹内や小島はいざとなったら殺し合いに参加するつもりなのか? 若井はもっと心配だ、渡辺を手にかけてしまってるからストッパーが外れてしまっているかもしれない。

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