第7話 MINO'Sキッチン

竹内達の活動をのぞいてたお陰でこのゲームのことがちょっとずつわかってきた。


オフィスのある武蔵丸子を中心くらいにして、街を横断するように伸びる線路が上りも下りも次の駅に着かない程度、およそで半径1.5キロくらいの範囲まで移動が可能。

武蔵丸子を2キロくらい北上すると、多摩川が流れててそこまでが移動可能、南は駅を降りて1キロ先くらいにある大きな公園までいける。


行動できるエリアはだいたいこんな感じだ。


そこまで広くはないけど、かくれんぼには十分すぎるほどの広さだ、第二チームはエリアを探索してるときにマネージャーを見つけることはできなかった。


街の駅前は商業施設が広がっているけど、ちょっとでも離れれば入り組んだ住宅街、ちなみにフナバシステムのオフィスは駅から北東方向に300メートルくらい進んだところだ。

あと大きな施設といったら南側の公園に併設させるようにある、小学校と、駅の西側にあるスーパーくらいか、小さな飲食店やコンビニはあちこちにあるけど、目立った施設はこれくらい、決して都会ではないけど、普通に住んでる分にはのんびりしたいいところだと思う。


みんながバラバラになってからもう4、5時間たったか、その間に俺はデバッグルームを自分仕様に改良した。


快適な空間だったけど、このままじゃなにも置いてないから駅の西側にあるスーパーカクエツでいろんな食材を調達してきた。


飲食店にも人っ気はないけど、調理された食べ物はそのまま置かれているから食べようと思えば食うものに困ることはない、でも俺はこの空間で用意されているものなんて誰が作っているのかもわからないから不気味で食べる気がしない、そこまで得意なわけじゃないけど料理はできるから自炊することに決めた。


スーパーで食器類も用意できたし、火の元もガスコンロで足りる、これだけあれば調理に困ることはなさそうだ。


食材や調理器具とか、スーパーから勝手に持ってきちゃったけど、万引きにはならないよな……あとで請求されたら嫌だけど、誰もいないししょうがないよな。


というわけで食材も気になるものは全部持ってきてしまった。


まずは気になっているのは肉だ。

ここのスーパー、住宅街にある普通のスーパーなのにやたらいい牛肉が置いてある。

A5ランクのブランド牛なんて食ったこともないけど、せっかく置いてあるから食べさせていただこう。


ステーキ用の厚切り肉でサシの入りがすごい、赤身の中に雪が降っているかのようにサシが主張している、このまま食べても旨いんじゃないか。


ガスコンロに火をかけてフライパンの上に牛脂を乗せる。

この牛脂もいい肉のものなのか、甘くていい香りだ、ほどよくフライパンが温まってきたところでステーキ肉を投入する。


もう我慢できない、缶ビールも解放だ!


普段なら節約で安いビールしか買えないけど、ここなら好きなだけいいものを選べるから迷わずプレミアムを持ってきた。


これぞ男の手料理! なんか楽しくなってきたぞ。


挽き割りの黒胡椒と岩塩を粗めにかけて、レアな状態の肉を味見してみるとしよう。


火が通った肉は程よい具合にサシの脂が溶け、キラキラと輝いているように見える、宝石やぁー! なんで眩しい輝きなんだ。


一口大に刻んでほうばると、肉汁が洪水のように溢れ出てきた。

街のスーパーにこんな旨い食材があっていいのか!? この肉旨すぎる……もしかしてここは天国なのか? もしかしてもう俺、死んでしまったのか?


旨すぎる肉をあっという間に平らげてしまった。

へへへ……ビールも飲んでちょっとヘロヘロだ、ここの生活も悪くないな、あっそういえば食うことに夢中で周りのことを見るの忘れてた。


どれどれ、しばらくたったけど何か動きはあったかな、まずは若井の動きでも見てみるか。


俺が見たいとイメージすることで、部屋の壁に若井の映像が映し出された。


暗い……映像は暗くてゆさゆさと揺れているようには見えるが詳しくは見えない。

映像は見えないがクチャクチャと音がする。


何か食べている音だ。

暗い部屋で飯を食っているみたいだな。


映像になれてきてちょっとずつ何をしてるかわかるようになってきた。


鍋だ、ずん胴のようなでかい鍋を抱えて中身をダイレクトに手で掴んで食べている……食べているのは牛丼、というかご飯にかける前牛丼の具の部分のみを無心でほうばっている。

そうかこれは駅前の牛丼屋、何十人分あるのかわからないけど、そうとうな量はあるはずだ、そんなものを手づかみで食べてるのかよ……

なんだか若井が太ってきているよう見える、まさか……会議室を出て行ってからずっと食っているのか?

若井は自分は食欲スキルだって言っていた、無限に腹の減るスキル……なのか?


うぇ……、見てるだけで吐き気がしてきた……変なものを見てしまった。

若井は見るからにおかしくなっている、近付きたくないなぁ……


もういい……気分転換に他の人を見よう、金子あたりでいいか。



ん? 木々が生い茂っている、ここは公園かな?

近くに誰もいないし金子は一人で公園に来てるみたいだ。


品質評価チームは若井を捜索するために出て行ったはず、今は拠点として、小学校の一室を使ってたみたいだけど、なんで一人でいるんだろ。


「よかった、ここにいると思ってたんだ」


金子に向かって声がかかる、聞き覚えのある声だ……あっ!?


上田! 第二チームの上田がなんで?


「フフ、来てくれると思ってた」


金子はそう言うと上田に抱きついた。


えっ、まさか……ええええ……っ???


この2人ってそういう関係なの!?

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