第9話 小悪魔的スキル
突然上田と金子の前に黒沢が現れた。
不倫現場を目撃されてしまった2人はとっさに距離をとって取り繕おうとするが余りにも遅すぎた。
「く、黒沢さん! これは……これはこんな状態で偶然会ってしまったから安心したからで」
苦し紛れに上田が言い訳をしている。
「そう、私ね外の様子を見てたら急に不安になっちゃって、そしたらほら……上田さんがいて」
金子も合わせて弁解しているが、これで「じゃあ不倫じゃないですね」って納得できるやつなんていない。
予期せぬ事態に動揺する2人を見て黒沢は意地悪そうに笑っている。
「上田さん? さっきは耕助って呼んでませんでしたぁ?」
黒沢のいやらしい質問に金子は何も言えなくなった。
「ショックだなぁ、上田さんって若くして結婚して子供もいて、それでもカッコよくて憧れてたのに、浮気とかしちゃう人なんだぁ」
見るからに慌てている上田は取り乱しながら言い訳をするがまともが言葉が出てこない。
すごい状況だ……昼ドラの世界にいるみたいな展開になってるぞ……
黒沢って物静かで話しかけられたらそれなりに楽しそうにしゃべるけど基本的に誰ともつるもうとしない不思議な奴だと思ってた、こんな嫌な奴だったなんて。
こうやって覗いてると人間不信になりそうだ、みんな色んな表情をもってるんだな。
黒沢に言われっぱなしだった、金子が口を開く。
「確かに私と耕助は付き合ってるわよ、でもそれがあなたに関係あるの? あなたには関係ないじゃない!」
開き直った!?
この女言われっぱなしでおかしくなったのか?
「おい、愛! あっいや、金子さん! それは……」
金子のカミングアウトで一番ダメージを受けたのは上田だったみたいだ。
「へぇいいんだそんなこと言っちゃって……みんなに言いふらしちゃおうかなぁ」
「ダメだ! そんなことはやめてくれ……」
あららら……不倫してる関係でも気持ちには随分温度差があるもんなんだな。
今の時代、不倫なんてしたら職場居づらくなるもんな、下手したら辞めさせられるかもしれないし。
2人はボソボソと小声で話し出した。
フフフ残念だったな、どんな小声で話しても俺のスキルには関係ないんだよな。
2人の内緒話はバッチリ俺には聞こえてる!
(どうする耕助? このままみんなにバラされちゃうのは流石に困るよね)
(ああ、頼み込むしかないよ、俺達の関係がバレるわけにはいかない)
(……だったらしょうがないよね、黒沢さんをやっちゃおう)
(やっちゃうって、さすがにそんなことは……)
(私達の為でしょ、いいのよ若井さんにやられたとか言っておけば)
金子は服の袖からナイフを取り出した。
あれは渡辺の作ったもの、金子の奴持ってきてたのか……って重要なのはそこじゃない! やっちゃうってまさか、黒沢のことを殺すつもりか。
「おい! やっぱりそれはまずいって!」
上田が思わず大きな声を出す。
が、それに構わず金子は黒沢に向けて歩き出す。
「ウソ……金子さん本気で私を刺すつもり?」
「ごめんね、私には大切な物が沢山あるの」
目が本気だ、脅しとかじゃないこの女本当に殺すつもりだ。
金子の表情を見て黒沢も何かを察して笑顔が消えた。
睨み合いながら、金子は黒沢との距離を詰めていく。
一歩一歩近づく足音がまるで心臓の鼓動に合わせるように響いてくる。
ゆっくりと……
ためらうことなく……
「さよなら」
それは金子と黒沢の距離が1メートルを切ったあたりでの発言だった。
ドンっと強く物が当たるような音がしてデバッグルームの映像が消えた。
あれ? 急に何も見えなくなった。
俺は今、金子の視点から見ていたところだった。
それが急に見えなったってことはもしかして……
一応黒沢の視点を確認してみるか。
黒沢をイメージすると、映像が映し出された。
「えっ?」
見えた映像は俺の理解を超えていた。
金子が背中から血を流して倒れてる。
心臓部をひと突きされ、上着が真っ赤だ……
そして、倒れた金子の横には上田がナイフを持って立っていた。
上田の持つナイフからこぼれ落ちる血液が、今このナイフが金子を貫いたのだと鮮明にあらわしていた。
表情がどこかおかしい、目に生気を感じないっていうか、なんていうか洗脳されているような……
でもなんで上田が金子を刺してるんだよ。
この際不倫だったとかはどうでもいい、そんは事情は置いといて金子のことは好きだったんだろ?
「あぁ怖かったぁ、よかった守ってくれて」
黒沢がため息混じりに呟いた。
守ってくれて?
黒沢を守るために金子を殺したっていうのかよ……
あああああダメだ、何が起きてるのか全然わからなくてイライラする!
「でもここまでやってくれるなんて思わなかった、私の魅了スキルすごいでしょ」
魅力スキル、それが黒沢のスキルか、それで上田を自分に振り向かせて金子を……すごいスキルだ……
しかも黒沢的には上田が守ってくれたから助かったようなものだけど、もしそうじゃなければ金子に刺されてたよな。
なんて危険なことをするんだよ……
よく知らない人だったけど、黒沢はやばい奴だ。
目に生気がない状態のまま、上田が黒沢に近づいていく。
「怪我はない? いきなりナイフを持って迫られるなんて怖かったよね」
上田は金子のことには目もくれず黒沢を気遣っている。
「思ったより強力に効くのね私のスキルって、それだけ私に魅力があるのかな」
「スキルなんて関係ない、俺はずっと……君の事が気になっていたんだ」
「え……っ?」
上田!! おまえってやつは……このクズ野郎!
って待てよ、この言葉も黒沢のスキルで上田が魅了されてるから言ってるだけなのか?
うう〜ん、よくわからん……
「そんなにはっきり言われると……上田さんカッコいいし優しいけど、結婚してるしぃ……」
おいおい、なんか黒沢が頬赤くして女の顔になってるぞ……
何が起きてるんだよこれ……
死亡者
金子 愛
刺殺(上田 耕助)
残り17名
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