第13話 クレイジースキル、クレイジーマインド
防御スキルで皮膚を硬化させていたため包丁で刺されても無事だった……こんなスキルを持っているから小島は妙に落ち着いて入られたのか。
奇襲を仕掛けた若井は小島の固い体に戸惑いが隠せず後退りしている。
「凄いだろ! ちょっとやそっとじゃビクともしないんだぞ
、今の攻撃はなかったことにしてやるから話をする気になってくれたかな?」
後退りする若井の足が止まった。
今の小島の言葉が気に入らなかったのか? 不機嫌そうだ。
「話すことなんてない!」
そういうと包丁を振り回し小島に向かっていった。
もうなんでもありなんだな若井は……感情のままに動いてる、さっきの一撃で効かないのはわかるだろうに。
若井に攻めてこられても小島は当然余裕の表情だった。
頭上から振り落とされた包丁をしなやかに手で捌き、攻撃を回避した。
「体が固くなっただけじゃなくて、こうやって回避する技術も上がっているんだ、悪いけどその程度の攻撃じゃ万に一つも俺を傷つけられない」
若井の表情がどんどん憎悪に満ち、凶悪になっていく。
「なんでだよ! お前も竹内も、どいつもこいつもみんな上から目線で俺のことをバカにして! 俺だって……俺だって!」
小島のでかい声に負けないほどの大声だった……
嫉妬、なのか……?
別に若井の事をバカにしてる奴なんていないと、あっ……金子はどうかわからないけど……それ以外の奴は見下したり、バカにしたりなんてしてるとは俺は思わないけど。
若井は妙に仕切りたがり屋なところはあった、妙に出しゃばって竹内や、マネージャーから注意されたりすることもみたし、でもその分一生懸命やってるように見られてたと思うし、評価もされてたんじゃ。
「バカになんてしてない! 話に来たんだ、一緒に力を合わせてこのゲームを終わらせよう、そのために力を貸して欲しいんだ!」
「うるさい!」
何を言われても若井は聞く耳を持たず、小島を攻撃し続けた。
なんだか欲しいものを買ってもらえずに駄々をこねる子供みたいだ……
何度攻撃しても小島にダメージは与えられずに、膨れ上がった体で体力をなくした若井はマラソンを走り終えたかのように息が上がり、汗でずぶ濡れだ。
それでも無理とわかっているだろうに若井は小島を攻撃し続けていた、表情に必死さというか悲しさまで感じる。
汗で包丁が滑り落ち、それと同時に体力の尽きた若井は膝をついた。
ゼェ……ゼェ……ゲホォッ!
見てるだけでも苦しくなる、限界だろうな……
「もういいだろ……そんなに自分をいじめるなよ」
攻撃を受けていた小島も若井の辛さが伝わってきたのか悲しそうだ。
「俺だって……ううぅ…………」
泣いてる?
若井が嗚咽を漏らしている。
それを小島は黙って見ていた。
しばらく泣いた後、急に若井が黙り込んだ。
あれ……そういえばなんか体が縮んでるような……
「大丈夫か? 若井さん」
小島も若井の体の異変に気付いたか?
若井は無言のまま小島に背を向け近くの落ちていた鍋を取り中身をがっつき始めた。
このタイミングでまた食べだした?
腹が減っただけなのか……?
「いい加減にしろ! 若井さん!」
若井の態度に小島もさすがに不機嫌そうだ。
このままじゃラチがあかない、下手したらずーっとこのまま繰り返しだ。
無理やり食べている鍋を取り上げ自分に振り向かせた。
「こんなこと繰り返してても変わらないぞ!」
うわっ!
ものすごい怒鳴り声だった……
料亭のガラス戸が音で震えてる。
それを見て若井が「ククク」と小馬鹿にするように笑い出した。
「変わるぞ……」
そういうと若井は力一杯小島を突き飛ばした。
突き飛ばされた小島は調理場のコンクリートでできた壁を突き破り客席まで飛ばされた。
えっ!? なんだ?
急に若井が強くなった?
いや待て、それより人の力で壁を突き破るほどの力で吹き飛ばすことなんて可能なのか……?
吹き飛ばされた小島は急いで体勢を立て直した。
強く頭を打ったのか、額から血が流れている。
包丁で刺されても傷ひとつ付かなかったのに、何が起きた……
小島も理解が追いついていなかった。
何故吹き飛ばされたのかもよく分からないのかあたりを見渡していた。
再度包丁を手に取り、若井が小島に近付く。
「俺が思った通りだ……やっぱりこれは夢なんだよ」
若井が勝ち誇ったように小島を見下しながら距離を縮めてく。
若井の見た目が変わってる、初めは脂肪のかたまりだったのに、今も太ってはいるけど、筋肉の筋が身体中に見える、急激に体に変化が起きてるんだ……
その姿を小島も目にしていた。
突き飛ばされただけでこの威力……次に包丁を使われたら防御を破られる……
「若井さん! 君の目的は何だ? 教えてくれ!」
若井の足が止めて目を見開いた。
「わかってきたぞ、俺はこのゲームの主人公なんだ! 邪魔な敵がやってきてそれを倒す、それが俺の目的だよ!」
邪魔な奴がやってきてそれを倒していくんだったら魔王の立場だろ!
なんて突っ込んでる場合じゃないか……
ダメだ……こいつ、やっぱりおかしい……狂ってる。
「俺は、いや俺以外のみんなも敵じゃない!」
「パワーアップした俺の、正義の力を喰らえ!」
若井が包丁を振り上げようとした時、小島が飛びかかり、体を押さえつけた。
「頼む! やってくれ!」
外に向けて小島が叫んだ。
急に何を言ってるんだ小島は?
押さえ込んだ反動で若井と小島は倒れこみ、その後も立たせないように小島は若井を押さえ込んだ。
「効くかよそんなもの……んっ!?」
小島を押しのけようとした若井が何かを見て反応した。
周りが明るくなった……電気もついてないのに。
パキパキと弾けるような音が料亭中から聞こえてくる……
「うわああぁぁぁぁ!!」
若井が悲鳴をあげた。
その直後、壁や、天井が崩れだした。
えっ!? 燃えてる……
火事だ……
料亭全体が火に囲まれている!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます