第4話 一人目の犠牲者

あっと言うまの出来事だった。


時間にしたら五分も経っていないだろう、いきなり現れて殺しあえと言うだけ言って会議室からいなくなってしまった……


ファントムがいなくなって体の重みはなくなったがみんな呆気にとられていて動こうとも話をしようとしない、無理もない俺も頭の整理が追いついていなかった。


・井上マネージャーを見つけて殺す

・ここにいる者達を殺してスキルを増やす


要はこういうことだよな、こんなことできるわけないだろ。

相手にするだけ無駄だ、こんなこと無理に関わる必要はない。


まさかこんな状況でみんなで危機を乗り越えようとか竹内あたりがいい出したりしないよな……

俺はこのチームの薄ら寒いそう言うノリが大っ嫌いだ、はっきり言ってこんな馬鹿げた状況どうにかできるようなものではないんだ、何か危険な事態に巻き込まれているんならそのうち警察がきてくれるだろうし、それまで待機してるのが安全だろう。

もちろん俺はそんなこと提案するような発言力のある人間でもないし、言ったところで俺なんかが言っても冷やかされて流されるだけだろうから何も言う気は無いけど……



沈黙の続く会議室内で、一番に口を開いたのは若井だった。


「なぁんだ、これ井上マネージャーもグルのサプライズか」


自信ありげに、若井が立ち上がった。


サプライズ? そうなの……? これ全部がドッキリみたいなものってことか? まあわからなくはないし、それならその方がいいのかもしれないけど……


「何か根拠はあるの? まさか思いつきじゃないわよね!」


金子が若井に噛み付いて行った……ファントムのこともあって金子のストレスは限界だったようだ。


「そうとしか思えないだろ、現実的にありえない話ばかりで信じられるか?」


「はぁ? 特に理由なくなんとなくそう思ったってこと? さっき怒鳴って周りを不快にさせたのも考えもなくしたの? じゃあお聞きしますけど渡辺さんが出したナイフとかはなんだって言うのよ、そもそも若井さんもスキルを手にしたんでしょ」


「いや考えなくとかじゃなくて、こう言う事態だ色々な意見を出して考えていかないとバラバラになってしまうだろ」


「若井さんがそうさせてるんでしょ!」


「違う! 俺は少しでもこの場を改善させたくて言っているんだ!」


なんだか二人ともヒートアップしてきてる……


「やめろよこんな時に、金子さんも若井君も落ち着け!」


小島が2人をなだめるが2人とも収まる気配がない。


「で、結局若井さんはなんのスキルを持ってるの? 協力していくんでしょ? 教えなさいよ」


金子の意地悪な質問に若井は露骨に不快な表情をしているが、意地っ張りな若井は食ってかかるように答える。


「食欲ってスキルを貰った」


「は? 食欲? なにそれ何の役に立つのよ」


緊張していた会議室に失笑のような笑いが漏る。

たしかになんだ食欲って……

俺のデバッグルームも意味がわからないけど、若井さんのはどう考えても外れスキルだ……


みんなに笑われた若井は下を向いてしまった、かなり苛立っているようで震えている。


「夢だ……これは夢なんだ」


ブツブツとつぶやき始めしまった、やりすきだろ金子……さすがに可哀想だ。


「そっか、そんなスキルだったから協力とか言い出してきたのね、そうじゃなきゃ若井さんが言うわけないもんね」


グロッキーの若井に金子は追い討ちをかける、この女は本当に性格が悪い……


「金子さん、ちょっと言い過ぎじゃ」


金子の隣に座る菅原が若井を気遣いフォローするが、金子は止まらずに若井の文句をずっとネチネチも言い続けている。


そんな中、若井が立ち上がり渡辺の出したナイフを手に取り眺め出した。


若井の目がなんだかおかしい、変なこと考えてなければいいけど……


「見た目は本物っぽいけど、これも俺達を驚かすためのおもちゃか何かなんだろ」


若井がナイフの腹で自分の手の甲をピタピタと当てながら渡辺に近付く。


「俺は特にマネージャーからは何も言われてないけど」


「そう言うだろうな、バラしたらサプライズにならないもんな」



若井は自分は間違ってないと決めつけているようだ、まるで脅しのよに刃物をちらつかせ渡辺をねじ伏せようとしている。


「若井さん、危ないから変なことするのはよせ」


竹内が警告するが、若井は聞く耳を持たなかった。



若井が渡辺に向けてナイフを振り上げる。


「夢だ! どうせ夢なんだ! こんなくだらない悪ふざけ終わらせてやる!」


振り下ろしたナイフは渡辺の左胸に突き刺さった。


ナイフの刺さった音か渡辺の声かわからないが、ゴムを擦り合わせたような鈍い音が聴こえてきた。


若井は慌てて刺さったナイフを引き抜き床に投げ捨てた。


噴水のように血が吹き上がり、渡辺は椅子から落ち倒れ込む。



返り血を浴びた若井は震える声で「そんな……」と繰り返し、渡辺を見つめる。


あたりは騒然としていた。


「誰か止血できるものは持ってないか!?」


竹内と小島が若井に駆け寄り治療しようとする。

そうは言っても一般企業のオフィスにこんな大怪我の治療ができるものなんてある訳がない、渡辺は苦しそうにうめきながらもがいている。


「スマホも使えないんだ、これじゃ119番もできない」


小島は成すすべもなく渡辺を見守っていた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



若井が会議室を飛び出して行った。


「あっ、待て! 若井さん!」


竹内が若井を止めるが戻ってくることはなかった。

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